2-6<遭遇3>
「単刀直入に言う。ユート、お前が欲しい。」
「へ?」
急な展開に思考が追いつかない。何を言ってるんだ?
「うむ。実は私はギルド員では無く軍人でな。我が隊にお前が欲しい。私の拳を受けきって見せたのだ、実力は十分だ。」
つまりはスカウトだ。そう言って何か書いてあるプレートの付いたネックレスを取り出し、ちゃらちゃらと振って見せる。ドッグタグみたいなものだろうか?
それにしても…またソフィーの時みたいに「私の旦那様に!」とか言われるのかと焦ってしまった。
…うん、自意識過剰だ。
「ええと、申し訳無いのですが旅の途中でして、一人旅でもないので、そういうお話を受ける訳には…」
「む、旅か。では目的を教えてくれ、私も手を貸そう。それを終えた後でならば良いだろう?」
「お嬢様、目的など言えない場合もございます。配慮して下さい。」
「ぬ、そういう事もあるか、済まん」
セバスさんが口を挟み、メリアルーナさんが納得して謝罪する。
中々セバスさんの発言力は高いようだ。主にサラっとカンゲン、諫言?でいいんだっけ?を述べるとは。
「あ、いえ確かに終わりは見えていませんが、今の目的自体はアーリントンに行く事です。」
うろ覚えの単語を疑問符交じりに浮かべながら、返事をする。まぁ隠すほどの事でも無い。
「おお!アーリントンか!それは実に都合が良い、私はアーリントンの者だ。何時出るのだ?着いたら是非歓待したい。ついでに入隊してくれたなら万々歳だ。」
「ええと、とりあえずまだ何日かはアルモスに居るつもりです。色々買い出しを終えたら向かおうかと。」
「そうか、それならばまた明日にでも確認させてもらおう。通行証が必要なら私が用意しても良い。」
「それは願っても無い事です。ありがとうございます。」
やはり通行証が必要だったか。
身分証を得るついでに、ギルドの仕事でもアテにしようと考えていたのだが、思わぬ所でアテが出来た。
「では、また明日の昼ごろにここで。構わないか?」
「はい、色々ありがとうございます。よろしくお願いしますメリアルーナさん。」
「メリアでいい。呼び難いだろう。」
「分かりました。では、メリアさん。また明日に。」
「あぁ、また明日だ。」
そう言ってメリアさんとセバスさんが出て行く。彼女達は彼女達で色々用事があるらしい。
手元のジュースを飲み干す。少し緊張していたのか、喉が渇いていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
く、く、く、と笑いが漏れる。
その場ではスカウト出来なかったが、なんだ、この展開は。彼の目的地はアーリントンだと?
なんと都合の良い事か!
恩も売れるし、着いたところで家に連れ込んでしまえば彼も残ると言うだろう。
なんせ5大家、その長女で、この国最強との誉れ高い私の直属の部下になれる。と言うのだから。
そして、私に彼を部下に留めるつもりは無い。
私の拳を軽く、片手で受け止めたのだ。国内最強の拳を。誰も、セバスすら吹っ飛ぶような拳をいとも簡単に!!
実力は十分?そんなレベルで有るはずが無い。
自分で打っておいてなんだが、私自身が食らっても耐えられそうに無い拳なのだ。
身震いする。いる、いた、いたじゃないか!私よりも強いかもしれない男が!!
実際の実力の程は分からない。だが、十分過ぎる程の期待が持てる。
さらには一見大人しそうだが、芯の通った感じの伺える容貌。
力に溺れ、粗野になることも無く、冷静さを保ったままの物腰と話し口調。
そして、どう見ても15、6と言った外見。
完全に、完璧なまでに、測ったかのように私の好みのど真ん中。
神が私の為に用意してくれて居たのか?とにわかに信じたくなる
あぁ、ソフィーの手がかりを得に来ているのに、浮かれてしまう。気がそちらに向かない。
さっさと彼の実力を測って見たい。だめだ、今はソフィーだ。期日も大分近づいている。
彼もアーリントンへは馬車で行く筈だろうし、そうなるとここからアーリントンへの道のりは4〜5日かかる。十分だ。
彼の方は時間がある。今はソフィー。あぁ、ソフィーの事は物凄く心配なのに心が弾んでしまう。
済まない、ソフィー。済まない。
そう考えながら、私はセバスを連れて潜伏中の草との合流場所へ向かった。