2-3<ギルド2>
「それでは実技ですが〜簡単です〜そこの端っこに見える「ハンター君」に一撃を加えてください〜。鎧として<甲冑猪の牙>を加工したものを〜着けていますので〜そうそう壊れません〜。あれに歯が立たない程度では〜困りますので〜」
受付のお姉さんが指差したモノを見る。
…あれに突き刺すのか。なるほど程々に、とはこれの事か。
…派手に行かず無難に行こう。
てくてくとハンター君に近づき調べる。
床にがっちり固定された鎧を着た丸太だ。それ以上でもそれ以下でもない。
鎧の胸部分にでかでかと横文字で「ハンター君53世」と書かれている。
53世というのに興味をそそられたが、やはりそれ以上でもそれ以下でもない。
とりあえずコンコンと叩くと金属のような音がする。<甲冑猪の牙>製の鎧、なかなかに硬そうな感じだ。
ともあれ、鞄からナイフを取り出しそのまま軽く表面を叩く。うん。傷がつくな。
『硬度はナイフの勝ちじゃのう。ならばザックリとやってやるがよい。』
マールに促され、そのままナイフをハンター君の「君」の字の上辺りに根元までザックリ突き立てる。うむ。これなら地味で大丈夫だ。
「これでいいですか?」
「…コメントに困る事してくれるわね…まぁ合格だけど。」
また口調が変わった!?やらかした!?
「出来ない事は無いでしょうけど…どんな力の入れ方をしたらそんなスッと刺さるのよ…」
「それはその。グッと?」
「まぁいいわ。オサさんの知り合いだし、珍しくまともかと思ったら貴方も奇人の一人と言う事ね。頭の上のその娘もかなり珍しいし…」
「はぁ…申し訳ありません。」
『レアさには自信があるのう。』
「謝らなくて良いわ。はいこれ、ギルド員証と登録用カードにペン。こことここに署名…というか何でも良いから書いて。登録するから。」
見た目は大型のバッジのようなギルド員証と手のひら大のカード、ペンを受け取る。
金属製だがほのかに魔力も感じる。もしかしたらこれも魔道具なのかもしれない。
「えと、なんでもいいんですか?」
「ええ、貴方の魔法紋を記録するだけだから。そこに署名したら、以降他の人が持つと黒くなるの。防犯用ね。」
なるほど。他人が持つと一目瞭然ということか。とりあえず両方サインする。「蒼鈴」っと…
「変わった文字ね…魔法文字か何かかしら?」
「いえ、普通に自分の名前を書いただけです。」
「ふうん…まぁサインしたがる人は多いしいいんだけどね。じゃ、カードはこっちに頂戴?あぁそれから後それ、身分証にもなるから無くさないでね。無くしたら500Gで再発行できるけど。」
「分かりました、ありがとうございます。」
「うん。じゃ、説明ね。とりあえずギルド員の出来る事だけど、まずはギルドの受付でのスムーズな素材や魔晶石の換金。
これはその辺の商人に頼むより適正価格で即座に換金が出来る。ってだけだから別に他の商人に売っても構わないんだけどね?
それから各種委任状の依頼の受注、オークションへの出品の許可、各地での地図、各種図鑑、モンスター情報の閲覧。
他に得点的な事では仕事の委任状が通行手形として使える。等色々あるわ。おいおい覚えていけば良い事だけどね。」
なるほど、覚えきれない。後で冊子か何かが無いか聞いてみよう。
「さて、これで初心者登録はおしまい。良い時間だし何だったらお昼ご飯でも食べていかない?ここは食堂でもあるんだから食べて行かないと失礼よ?」
「良いですね。あちらの席で注文するんですか?」
同意して後ろの席を指す。4〜6人がけと思われるテーブルが8、10数人規模の大机が2つ。
そして10個程並んだカウンター席。
幾つかの席には既に人が居て飲み食いしているようだ。
「えぇ、メニューはこれね。一つ一つが結構ボリュームあるから、頼む時は注意してね?」
「分かりました。所で、その、」
「何?」
「いえ、口調が…?」
「あぁこれ?気にしないで。お客様用の喋りは疲れるからやめただけ。貴方はなんだかどっちでもよさそうだし?」
『むしろ今の方が聞きやすくていいの。』
「そうでしょ〜?なんでこんな喋りしないといけないのか…ほんっと分かんないわ。」
支配人の趣味なのよ、この衣装も。まぁ給料がいいから?我慢してるんだけど!などとつらつらと不満を述べだす。
「あははは……大変なんですね。」
まぁ俺に言われても困るわけで。愛想笑いで返しておいた。
「ま、そんなとこよ。それじゃ行ってらっしゃい期待のルーキー君。」
「はい。ありがとうございました。」
促されて壁際の4人がけの席に向かう。オサが戻ってくるのを待つべきだろうか?
『ドリンクぐらいはよかろうて。』
俺の心の声でも読んだかのごとくマールが相槌を打つ。
「そうだね…って前々から思ってたけどなんでたまにそういう横文字がサラっと出てくるんだこの世界」
『あー、<意乗の言>のせいじゃな。意訳してしまうからの。』
「ことわざとかもそれで…?」
『その通りじゃな。』
「そんな理由だったのか…」
『たいした理由でなかったのう?』
「そうだね」
『ま、今はドリンクじゃ。ソルティードッグをロックで頼もうかの。』
「今のはわざとだよね?」
『さて?どうかの?』
「メニューに無いじゃないか」
『バレてしもうたか。』
「しかしなんでそんな言葉を知ってたんだ…」
ソルティードッグとか、ロックとか、明らかに日本の頃にしかない。
マールが知る由も無い筈なのだ。
『意訳のトリックじゃよ。おんしが知っている飲み物を思い浮かべるだろうモノを言葉に乗せたに過ぎぬ。』
「はぁ、便利なのか、不便なのか、」
『軽いおちゃめじゃ。気にするでない。冗談はこのぐらいにして妾はこのアルモススペシャルミックスを頼もうかの』
「アルコール入ってないみたいだよ?」
『この体で飲んだら回り過ぎるのじゃ…』
「なるほど、ね。じゃあ俺はアルモスデリシャスミックスを頼もう」
『おんしもなかなか冒険好きじゃの?』
「マールもね。」
『後で、味見させておくれよ?』
「俺にもね。」
『うむ』
「それじゃ」
「お姉さ〜〜〜ん」
頼むものが決まったところでお姉さんを呼んだ。