2-2<ギルド>
商業都市アルモス。
道端には露天が開かれ、人々の往来は絶える事が無い。
地理的にもこの国の各地に向かいやすく、さらに西方に半日の距離にモンスターの生息する森。
南に2日進めば同じくモンスターの生息する地下迷宮なるものが有るらしい。
その為賞金稼ぎやハンター、商人や旅人が集まり、活気に満ち溢れていた。
そんな街の往来を進んだ所にハンターズギルドがあった。
ハンターは何をしてるの? と聞くと
モンスターを狩ったり、特殊な植物の採取をこなしたり、雑務だったり色々。ということらしい。
何処かのゲームそっくりな組織があるとは。
さすがは異世界。現実でも奇なりだなぁ。と考えつつ扉を潜り建物内へと入る。
「いらっしゃ〜い」
入ってすぐの所から見えるカウンターに居たにこにこ笑顔の糸目の女性が挨拶をする。
とりあえず挨拶を返すが、これからどうすれば良いか分からない。
キョロキョロと周りを見回して、
「オサ、俺はどうすれば?」
とりあえずオサに聞いてみる。
「あー? そうか分からねぇよな。そうだな、ならまずは登録だな。そこの姉さんだ、行くぜ。」
「いらっしゃ〜い。あら、オサさんですか。お久しぶりです~。今日は?」
「お、覚えててくれたか。嬉しいねぇ。今日はコイツの登録と、依頼のキャンセル報告、それとちょっとしたモンスター素材を売りたいんだわ。」
「そうなんですか〜。オサさんの村からの~依頼ですと…確か「<甲冑猪>に村が襲われた。至急、討伐隊を向かわせてくれ」でしたね〜。あ、買取先にしちゃいます? パパっと終わらせますよ〜?」
「あー、ちっと今回はモノがモノでな、出来れば奥で交渉したい。」
「おやおや〜? オークションに出品するんですか〜? それはなかなかどんなものか気になりますね〜一応私からも確認させて貰えますか〜?」
「おうさ、こいつだ。」
そう言って鞄で渡す。中身は俺が売却を頼んだそこそこの金になるらしいもの5つと<甲冑猪の牙>と<晶眼蟲の瞳>だ。
「コレは……」
間延びした喋りが急に止まり、低い声を出す受付のお姉さん。
後、さっきまで閉じていた糸目が開いている。思わずビクッとしてしまった。
「どうだい、たいしたもんだろ?」
「ちょっと…流石にこれはオークションでないと無理ですね。分かりました。後で支配人を呼びます。」
「うひひ、幾らになるか楽しみだ。」
「とりあえず〜依頼の<甲冑猪>は自分で倒されてしまったのですね〜それで、その<甲冑猪の牙>はこれですね〜。あ、<魔晶石>はあります〜? あれも買取ますよ〜?」
再び間延びした口調に戻るお姉さん。それキャラ作ってたんですね。
怖いから突っ込まないようにしとこう。
「…あーそうかそれもあったか。いや、今回はいいや。持って来るの忘れてたわ」
「え? ここに…」
まで言ったところでオサが思いっきり足を踏みつけてくる。ゴメン、痛くない。
さらに首根っこを捕まれてしゃがまされる。そしてヒソヒソと小声で話す。
「テメーは黙ってろ。混じっちまってどれか分からねぇんだろ? 違うの渡したら不味いんだよ。」
「そうだったのか…ゴメン」
「なんですか〜内緒話ですか〜私も混ぜてくださ〜い」
「あーすまねぇ、とりあえずその<甲冑猪>はコイツがトドメ刺したんだわ。だから後はオレの紹介があれば登録できるよな?」
「そうですね〜実績がある方でしたらそうなります〜」
「おし、じゃ、そういう事で。コイツの登録頼んでいいかな。オレは奥行って待っとくからさ。」
「わかりました〜お任せくださ〜い」
「じゃ、行ってくるわ。後頑張れよ。…程々にな」
最後に小声で「程々に」と言ってオサは行ってしまった。程々……?
「それでは〜登録の手続きをしますね〜」
「お名前は〜?」
「『ユート=アオスズ』です」
「年齢は〜?」
「17です」
「推薦者はオサ=ルトス=アルストラさんっと、種族は〜人間ですね〜?」
「そうです。」
「特記事項は…妖精憑きでいいかしら〜」
『魔物憑きがいいのう』
「そうですか〜ではそれで〜」
しれっとマールが口を挟む。物珍しいのかずっとキョロキョロしっぱなしだったが、話自体は聞いているようだ。
「はい。後は会費と実地ですね〜。」
「会費と、実地ですか?」
「はい会費は初回ですので1000Gになります〜後は年間500Gずつお願いします〜」
1000G、確か街で見かけた露天売りのおおぶりな芋が1個7〜10G程度だった。
あの芋が100円程度と考えると、およそ1万円程度、という事になる。
「案外安いんですね?」
「そりゃも〜色々活動して頂ければそこからピンハネしますので〜」
…物凄い人聞きの悪い言い方だった。身も蓋も無い。
「えっと、では1000G・・・」
そこで気づいた。鞄に銀や銅の貨幣は入っていたが、お金の価値が分からない。
聞くのを忘れていた、皆もあまりに常識過ぎたのか全く説明してくれて無かった。ま、まずい…
ど、どうする? そもそもこれ、足りるのか? オ、オサ! は行っちゃったし…どどどどうする?
…大分後になってからから気づいたのだが、このときの俺はどうかしてたと思う。
普通に硬貨を出して「これで足りますか?」と、聞けば良かったのだ。
だが完全に気が動転してしまっていた。そしてこの時の俺が閃いた迷案は…
そ、そうだ! コレクションから安いっぽいのを! 一番多いしそこそこ小さなこの<魔晶石>で!
というものだった。
「す、済みません持ち合わせが無くて…これで何とかなりますか?」
「…<魔晶石>ですか。これはどうなされたのですか?」
「あ、はい。神殿の北の森に間違って入った時に倒して手に入れた物で…混ざってしまって何から手に入れたのかは分からないのですが…」
「間違って? …一人、でですか?」
とっさにいつかのソフィーと同じ言い訳を使う。
だが、いつの間にかまたお姉さんの喋り方が変わっている。マズった!?
「いえ、一応、数人で…」
さらに誤魔化す。
「そうでしたか。とりあえず〜これなら1つで12000Gぐらいになりますね〜質もかなりの上級ですし〜買い取りましょうか〜?」
…1万2千Gということは、およそ12万!? …もっと大きなのが大半でまだ300個近くあるんだぞ?
お、俺のコレクションは一体幾らになるんだ…?
何故か鞄がずしり。と重くなった感じがした。
「それでよろしくお願いします。それで、あの、好奇心から聞きたいのですが、さっきオサが見せた赤いモノは…幾らぐらいになるんでしょう?」
好奇心に背を押され、質問する。<晶眼蟲の瞳>以外でもかなりの種類の素材が全部でおよそ2〜300個詰まっているのだ。他のものの値段も気になるが、とりあえず参考に聞いてみたい。
チョイチョイとお姉さんが指で手招きをする。大声では言えないと言う事か、耳を寄せる。内緒話だ。
「アレはちょっと洒落にならないね。アタシの見立てだから確実じゃないけど、あの色は多分最低でも2〜3千万G、最上級のモノだとすれば1億は行くと思う。」
衝撃の事実を聞いてしまった。そりゃあの森で3匹しか遭遇しなかった訳だ。熊の次に少なかった。となると、俺の鞄の中にはまだ4億から下手すれば20億程度のモノが?
ゾッとした。ちょっと額面が理解できない。5日で幾ら稼いでしまったんだ俺は…?
その顔を見てお姉さんが破顔する。
「だいじょ〜ぶですよ〜オサさんあれでも村長さんですし〜私達には手に余ってもあの人にはそれほど困らない額ですよ〜」
どうやら青ざめた訳を「小市民が理解不能な額を聞いてビビった」とでも思ってくれたようだ。
「では〜こちらの<魔晶石>を12000Gで買い取らせて頂きます〜そこから会費を千引きまして〜、はい。おつりの11000G。中銀貨1枚と小銀貨1枚になりま〜す。」
…中銀貨1枚で1万Gと小銀貨1枚で千Gという事か? 少し試してみるか。
「できれば小さなお金が欲しいので小銀貨と銅貨でもらえませんかね?」
「いいですよ〜それなら〜はい。小銀貨10枚と大銅貨10枚。それとももっと細かいものが必要ですか〜?」
…千G=10大銅貨…つまり大銅貨は1枚100G。千円札ぐらいなものか? ならこれでいいだろう。
「いえ、これで。どうもありがとうございます。」
「いえいえ〜サービスですよ〜」
「サービス…そういえばチップとかは必要なんでしょうか?」
なんとなく…なのだが、お姉さんの顔を見ていると払わないとマズい気がしたので確認してみる。
「チップですか〜儲かった人が気分で置いてくれる程度ですね〜あ、催促はしませんけど、大歓迎ですよ〜?」
「では、売り値が予想外に良かったのでこの小銀貨を1枚差し上げます。」
「おや〜太っ腹ですね〜チップで1千Gもですか〜?」
「もっと安いと思ってましたので、良いんです。」
これも何となくだ。何となく、小額だと何か根掘り葉掘り色々追求されそうな気がしたのだ。
お姉さんの顔が色々追求したがっているように見えたのだ。だからこれは口止め料のつもり。
だが予想外に高かったのも事実、損だとは思わない事にした。
お姉さんの素敵な笑顔も見れたし。うん。
「そうですか〜ありがとうございます〜貰える物は貰う主義ですので有りがたく頂きます〜」
「ですが〜お忘れのようですが〜まだ実技がありますよ〜?」
「あ」
すっかり忘れていた。
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