1-4<王女失踪事件を追え4>
「さぁ吐け。ソフィーと<召喚されし者>を何処に隠した。お前の薄汚い顔ごと全て焼き払っても良いんだぞ。」
王都の王城の一角、政務室
朝一でワイバーンを駆り、翌日昼過ぎに王都に着いた私はその足で政務室へとなだれ込み、
そこに居たガブリエル=ミラ=キャメル卿の襟首を掴み尋問を開始していた。
「お前…は、なんだ!?こんな事をして…許されるとでも思って居るのか……!?」
「あぁ、問題など無い。お前の護衛なら既に殴り倒して来た。なんだったら証拠なぞ全て焼き払おう。私は、怒っている。吐け。さぁ!」
私の周りで炎がポッ、ポッと発生し、揺らめく。魔力の高いものは時折こうやって感情の高ぶりだけで魔法が出てしまう。
そしてソフィーが<時空魔法>を暴発させるように、私は最も得意な<火炎魔法>が発現する。
「その、炎、赤い髪、お前、メリアルーナ!アーリントン家のメリアルーナだな…!<狂乱の火炎使い>…!」
「ご明察、だ。そして、知っているなら分かるだろう?私は気が短いんだ…早く喋って貰えないと本当に喋れなくなるぞ?」
些か不名誉な通り名だが、この際どうでもいい。効果も有りそうだし認めておく。
「し、知らん!ワシは知らんのだ!!ワシの兵がたどり着いた時にはもう…居なくなっておったのだ!!」
「本当、か?」
「嘘ではない!!」
「信用、しかねるなぁ」
青い顔をした豚が必死に弁解する。
「本当なのだ!!確かに色々と腹積もりは有った。だが、たどり着いた時には護衛達の6つの死体を残して消えておったのだ!」
「では、<姿写し>の込められた魔道具で護衛に化けたのは貴方の手のもの、ですか?」
セバスも口を挟む
「…し、知らぬ!なんの事だ!」
「今、どもったな、お前」
私の周りの炎が加速度的に勢いを増す。一部が時折豚をチリチリと焦がしている。
「ひいいいい、知らぬ!ワシは知らぬのだ!!信じてくれ!!やめてくれ!!」
「おい、良く聞け。嘘だ、と分かった瞬間私の炎はお前を焼き尽くしてしまう。止められないんだ。」
実際は殺すまでは行かないだろう。だが、この際だから脅す。
「だから嘘をつくな。今のは、危なかったぞ?」
「ひぃぃぃ!!!」
効果は覿面だったようで、大豚の顔がさらに青く染まる。
「ワシは知らぬ。だが、アルモス卿が何か手を打った。と言っておった、それやも、しれぬ。」
「嘘ではなさそうだな。」
「本当なんだ、信じてくれ、頼む」
…アルモス卿、ここでもまた聞くことになるとは。ではこの大豚はハズレだったのか?
分家が本家を無視して暴走している。とでも言うのか?
セバスに目配せをする。頷いた。セバスの見解も白、か。
大豚を、突き飛ばすように放す。同時に炎も鎮火する。
「どうやらお前では無いようだな。」
「げほっげほっ…やっと、信じたか?糞っ…」
「他に何か知っている事はあるか?」
「げほっ、糞、噂には聞いていたが、ふざけた娘だ。だが、いいだろう、ワシの知ってることぐらい、説明してやる。」
面識もあるはずなのだがな。
…だがまぁこの際どうでもいい。続きを促す。
「ワシはアルモス卿と協力して包囲するように派兵して、まず馬車を3台捕まえた。だが、それらは全て御者だけの空馬車だった。最後に見つけた馬車は御者すら居ない無人だった。
そして…神殿にたどり着いた時には6つの死体が有った。完全に包囲していたのだ、逃げられる筈が、無い。ましてやソフィーリア様は、魔力切れを起こしていた筈だ。」
ミハイルの説明を思い出し、比べる。3台の偽装馬車を使った、というぐらいで…特に目新しい情報も無い。
「ワシだって、真相が知りたいぐらいなのだ。げほっ…ソフィーリア様は、何処へ行ってしまわれたのだ?<時空の扉>に取り込まれたのでは、ないのか?」
「その可能性は無いと思われます。6人は<召喚魔術>の後に殺され、その中の御者に扮したものはソフィーリア様の手による物と思われますので。」
「では、何処に行ったというのだ…」
「分かりません。兎に角我々はアルモスに向かおうと思います。」
セバスがそう言った所で踵を返す。もうここに用は無い。
「おい、アーリントンの小娘。」
大豚が呼び止めてきた。無視だ。
「今回の事は、貸しにしておく。王女を見つけてくれ。この国には王女が、王家が、まだ必要なのだ。」
「…そうか、分かった。」
キャメル卿が息を切らせて言う。貴族派と聞いていたが、気づいていたようだ。王家が失われればこの国は瓦解する、と。
そのまま振り返る事無く政務室を後にする。
次の目的地はアルモス。既にソフィーが失踪してから11日が経っていた。