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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第2章 合流編
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1-1<王女失踪事件を追え>

ワイバーン。飛行する事に長けたドラゴンであり、数少ない飼いならす事が可能な竜族の動物だ。


飼いならす事自体は然程難しい事ではない、卵から育てれば良いのだ。問題は乗りこなす事。


人に慣れたワイバーンは大人しいもので、ただ乗るだけなら誰でも出来る。問題は飛行した時に起こる。


ワイバーンが飛び上がり上昇すると、息苦しくなり、さらに一気に寒くなるのだ。なので一般人では30分と持たない。


寒さと息苦しさにやられ、気を失い、落ちる。そして落ちれば死しかない。


故にワイバーン乗りは風と炎の魔法を用い、空気が薄くならないようしつつ暖を取れる者程適正が有るとされる。


特に後者の魔法は、ワイバーン自体にも良い効果があるようで、飛行距離も速度もぐっと上がるのだ。



そして私の得意魔法は炎と風。まさにワイバーンは私の為に有るような生き物だ。


飛び上がって上空から見る大地も面白い。雲の上を飛ぶのも気持ちいい。そして全速力で飛ぶ時のスピード感は最高だ。


…ソフィーもメルも賛同はしてくれなかったが。





◆◆◆◆◆◆◆◆





バルディカ神殿までは3日の道のりだった。


並みの乗り手なら5日はかかるだろう道のりを2日も短縮して踏破した達成感は…微妙だった。


振り切ってやるつもりだったセバスが付いて来ていたからだ。


…流石はセバスチャンと褒めるべきなのだろうか?その名は伊達では無いようだ。


何でもかんでも卒なくこなす姿は頼もしくもあるが、空恐ろしくもある。


自称、最速の竜騎士の自身がすこし揺らいだ。


…最も比べた事は無いので所詮自称だが。



ともあれワイバーンから降り、捜査を担当しているであろう捜査局の兵を探す。



捜査局とは王家直下の5大家の一つ、フェルブルム卿の取りまとめる王国直属の特別な隊組織だ。


兵隊、と言っても戦いに出る事は余り無い。


むしろ裏切りや犯罪行為、重大な事件や事故に際しての調査や捜査を担当する。


その人員は種族や強さを問わず主に便利な能力を持つ物が集められ、一般兵には煙たがられて居るが、頼もしい。


獣人の登用が多いため、王家直轄の組織ではあるものの、五大家唯一の獣人種族のフェルブルム卿が統括している。


その権限は、国内では如何なる貴族の領地でもほぼ自由に行動する事が出来るほど、高い。


組織の標語が「我々は王の目であり耳であり手足である。」と言うだけはあるのだ。




ワイバーンの接近が見えていたのだろう。特課の制服を着込んだ犬のような耳を持った男が此方に向かって来た。



「メリアルーナ=ルグス=アーリントンだ。こっちは我が家のセバスチャン。こちらで王女の護衛の死体を保存していると聞いた。確認をしたい。」



アーリントン家の紋章の入ったタグを見せる。軍での身分証だ。身元を示すにはこれで十分だろう。



「ミハイル=ケイロンです。始めまして、メリアルーナ様。失礼ですが、何故、遺体の確認を?」



ミハイルと名乗った男が疑問を挟む。遠目では分からなかったが、どうやら頭部は全て犬型…いや狼型のようだ。


と、しげしげと見つめるものではないな。答えなくては。


不躾な視線を送っていた事に気づき、改め、答える。



「殺された王女の護衛は私の兵だ。私が顔を見るのが一番早い。身元確認だ。」


「そうでしたか…、失礼しました。えぇ、それはこちらとしても助かります。どうぞ。」



流石は捜査局の誇る特課兵、五大家の長女と言えど、理由が無ければ門前払いをするつもりだったのだろう。


………本当に頼もしい限りだ。



ミハイルに案内されて神殿の一室に通される。


そこには衣服を脱がされ、顔にだけ布を被せられた6つの男の遺体が安置されていた。


恐らく、いや間違いなく<保存>の魔法をかけられて居るのだろう。不快な匂いも無い。


「少々お待ちを」と言ってミハイルが何かの書類を用意する。



「お待たせしました、まずこちらの方からお願いします。」



顔に被せられた布が取り払われる。


ミハイルが書類を指差す、描かれているのは神殿の間取りの地図。描かれた×は恐らく死体のあった場所だろう。



「こちらが、恐らく最初に殺されたであろう2人になります。見覚えはございますでしょうか?」


「ああ、ジョッシュ、エドガー。二人とも優秀な兵士だった。…死因は?」


「槍で急所を一突き、背後からですね。全く抵抗した痕跡がありません。恐らく不意打ちで致命傷を負わされたのでしょう。」


「そうか…」



二人とも優秀な男だった。それは間違いではない。


あまり裕福でもない農家で生まれ、己の腕でのし上がると息巻いて軍へと志願した荒くれ者。


何処も手を焼き、巡り巡って私の部下になった。


過酷なしごきにも耐え、魔法の資質も人並みにあったのでメキメキと頭角を現した。


私の強さに心酔し、任務とあらば命すら投げ出すような男達だったので、危険に晒されていたソフィーの護衛に付けたのだ。


だがまさか二人揃って不意打ちに合うとは…


少し幻滅する。だが、彼らはソフィーの為に死んだのだ。心ばかりの謝罪と、感謝もする。



「そしてこちらがその次に死んだであろう人物です。」


「…見た事が無いな。死因はこの切り傷か…深いな」


「ええ、鎧ごと、正面から剣で袈裟切りにされたようです。剣は途中で折れ傷に刺さったままでした。」


「鎧ごと、だと?」



たとえ服の上からでも、これだけの切り傷を負わせるとなるとかなりの手練だな、と思ったのだが…鎧の上から切った、だと?


本当にそうであるなら尋常な膂力では無い。だが、この男がわざわざ嘘を付く意味も無い。



「はい、そして剣自体はこちらの、エドガーの物のようです。」



・・・・・


わざわざ不意打ちで刺殺されたエドガーの剣を使い、この男を殺した、ということか?


何故?誰が?


…さらに話が分からなくなった。



「こちらがその次に亡くなった男になります。」


「こいつも知らないな。」



顔面に剣が突き立ったような穴が開いているが、見知らぬ顔だった。



「…死因は見ての通り、正面から一突きだったようです。それから折れた槍を持っており、刃には血が付着しておりました。」


「どういうことだ?」


「恐らく、こちらのジョッシュさんを突き殺したのがこの男の槍だと思われます。」


「本当なのか?」


「傷口が穂先と一致しております。エドガーさんの傷口とは合いませんでした。」



どういうことだ?ジョッシュとエドガーが不意打ちで殺され、そのエドガーの剣で謎の男が一人殺された。


ええと、後はもう一人の謎の男がジョッシュを殺して…



「こちらの方の顔に刺さった剣はどなたの物でしょう?」



混乱しかけていた所でセバスが口を挟んだ。



「ええと、こちらの不明の男の剣です。」



そうやって指したのは先ほどの肩口からバッサリとやられた死体。



「兜は、着けておりませんでしたか?」


「着けていました。兜ごと根元までの串刺しで、やはり剣が折れていました。」


「分かりました。」



・・・・・何かしら分かったらしい。後で説明させよう。



「それから、先の4人と離れた場所で倒れていたのがこの2名になります。」


「見た事が無い、が…兵士ではないな?」



新たに指された男の片方は、見るからに鍛えられていない体つきだった。



「御者、と思われます。この痣から見ますに強烈な平手による頚椎の損傷が死因のようです。」



………これはソフィーかもしれない。いや、間違いなくソフィーだろう。


あの娘は無詠唱で<時空魔法>を使い、圧縮した空間を手の平の上に発生させて平手と同時に叩き込む事があった。


つい、で発動する普段ですら首がおかしくなるのだ、攻撃の意志を持って本気でやったなら首が折れても不思議は無い…



「手形は、どのぐらいの大きさですか?」


「小柄です。女性か、男性なら13,4歳といった所でしょう。」



…やはりソフィーだろう。


この段階ではまだここに居て抵抗をした。ではこの御者は賊で間違い無いだろう。



「分かりました。」


「最後にこちらの方ですが、恐らく振り返り様に首に一撃。こちらも鎧ごと、使われた剣も同じく折れています。剣はこちらの不明の男の物でした。」


「こいつも見た事が無い…ラミレス、ディン、マーベリックは居なかったのか?」


「遺体はこれだけです。」



この男を殺した剣の所有者はその前に殺された折れた槍を持っていた男。


死体から剣を奪い別の男を殺し、さらにそいつから剣を奪い、次の男を、と殺していっている?


…わけがわからない。



「…死んだ順番は合っているのか?そもそも何故わかるんだ?」


「血痕です。最初に死んだ者は最初に倒れ、後に倒れた者が切られた際の血飛沫が遺体の上にかかっていましたので。」



なるほど…そういうことか。



「偽装、という事は考えられないのでしょうか?」



セバスも口を挟む。



「ありえなくはありません。遺体は死後に物色され動かされていたようですし。」


「他に目立った外傷は一切無し…ですか。遺留品の確認がしたいのですが、良いですか?」


「問題ありません。こちらに。」



どういうことなんだ…襲撃されて、不意打ちで2人が殺され、残り3人で迎撃した?


だがこの切り口はなんだ、人とは思えない。モンスターか獣化した獣人でも無ければ無理ではないか?


しかし、そうだったとしてもどちらも力だけだ。こいつらの武器を奪って使う知性が無い。


<人型>ならあるいは…いや、それもどうだろう。誰一人として食われた痕跡が無い説明がつかない。


さらに残り3人の護衛とソフィーは何処へ?拉致されたとしても護衛の3人は不要な筈だ。


ますます分からない。セバスに視線を送る。



「まだ、この段階では何とも言いかねます。もう少し調べましょう。」



否は無かった。

海外ドラマのCSIとかNCISとかクリミナルマインドとかよく見ます。面白いです。

そのせいもあってかこういう事件の調査話もいつか書いてみたく思っていました。お読み頂いた皆様は答えを知っておりますが、はたしてやや脳筋の気のあるメリアは真実にたどり着けるのでしょうか?

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