9-6<種族は?>
ソフィーから話を聞いた後、結局気分転換に、と日中に出発する為の準備を済ませる事にした。
ソフィーの話は思ったより重く、俺にはどうしたらいいのか正直分からなかった。
オサは「腐ってんなーとは思ってたが、そこまでだったとは知らなかったな…」と呆れ、
マールは妙に<召喚の呪い>に食いついていた。症状とか、色々。
…その姿が何故か楽しそうに見えたのは、きっと気のせいだろう。
ともかく、今の俺には貴族をどうこうする事は出来そうに無い。
今はソフィーを守り、アーリントンにたどり着く。それだけでいいだろう。
そんな事を考えながらも食料品の補充、衣類の調整などサクサクと準備は進む。
武具は…結局無加工の<刺突兎の角>そのままで行く事にした。
最初に使っていた柄の付いたナイフは幾度か投げた所で柄が完全に壊れ、刃だけになっている。
そのせいで逆に持ちにくくなっていた。
さらにこの村にある武具はくだんの鉄剣よりもお粗末な物で、それを使うぐらいならこの角の方がマシだった。
アルモスは大きな街らしく、かなりの規模の武器屋が有るらしいし、まぁそこまでなら事足りるだろう。
◆◆◆◆◆◆◆◆
そんなこんなで時間を潰し、日が暮れる頃になって俺たちは食堂に集まっていた。
「結局、あの5匹で終わりだったのでしょうか?」
『そうじゃの、この近辺にそのモンスターらしき魔力反応は無いしのう。』
夕食を取りながらの雑談。
モンスターの有無は出向いて調べるまでも無く、マールが探ってくれている。
「結局何処から来たんだろう?」
「沸いたのかもなぁ、<召喚魔術>の余波で、たまたま。とかよ?」
『川を超えた可能性もあるんじゃろ?どっかの暴れる誰かに驚いて必死に逃げた。とかかもしれぬ。』
「・・・誰の事かな」
『さぁの。その誰かさんが森の主クラスを倒したせいでか、あの森のモンスターは覇権争いか知らぬが、かなり争っておるようじゃし』
「へぇ…いや、ちょっとまてよ?そう言えばこの村にモンスターが来たのは一週間ちょっと前って話じゃなかったっけ?」
それは俺がここに来た<召喚魔術>よりも前の話。つまり俺のせいじゃない。それは確かだ。
そして当然<召喚魔術>のせいでも無いはず。つまり、オイ、オサ?
いきなり間違った仮定を出したオサをジト目で見る。
「そういやそうか。まぁ理由はともあれもう居ないならいいさ。しっかしここから森が探知できるとはねぇ…妖精がそんな事できたなんて知らなかったわ。」
「そうですよね」
『魔族じゃと言うておろうに…』
俺の視線はサラっとスルーされ、またマールが妖精扱いをされる。
そこでふと、以前浮かべた疑問がわき上がった。どうせだし、聞いてみようか。
「ねぇ、この世界にはどんな人種が居るの?エルフとか、ドワーフとか居るの?」
「エルフ…?それにドワーフですか?」
「聞いたことねぇなぁ…どんなのだ?」
「えっと、エルフは耳が長くてとんがってて、森の守護者みたいな?…いやオサの耳とは違う感じにこうなが〜く」
オサが自分の耳を掴んでオレのこと?ってやってたので補足する。
「なんで森を守るんだ?林業でも営んでる一族か?」
「うーん、やっぱり記憶にありません…それに神殿の北の森程で無いにしても、森はモンスターが発生し安い所ですので人は余り住んだりはしないかと…」
長耳・金髪・色白・美系ってだけなら普通にいるがな。とオサがまだ自分の耳を弄りつつ続ける。
つまり、「エルフ」と呼ばれては居ないが似たような外見の種族は居るのか…
「じゃ、ドワーフは?小柄で筋肉質な感じで、鍛冶とかが得意な種族なんだけど?」
エルフの例が有るので期待薄な気がするが、とりあえずこちらも聞いてみた。
「小柄で筋肉質といえば小型系獣人・亜人だが…別に皆揃って鍛冶は得意じゃねぇよな?」
「ですね、そういうのは人それぞれではないでしょうか…一種族で揃って鍛冶が得意、という種族には聞き覚えが…」
…やはり、というかドワーフもドワーフとしては居ないようだ。
異世界強度が下がってしまった。…少しがっかりだ。
「じゃ、この世界にはどんな人種が…」
「そうですね…基本は一番人口に置ける割合の高い人と亜人、そして獣人ですね。」
「その亜人の一つがオレ達長寿族。特徴は寿命の長さと魔力の高さ。まぁ希少種で引籠りだからそうそう遭遇しないだろうがな。」
ふふん。と得意げにオサが補足する。なるほど。でも長寿って言っても何歳ぐらい生きるんだろう?
300歳を過ぎている筈のオサが10歳前後の外見な事を思うと聞くのが怖い。
『さらに迷惑な事に今の妾そっくりな妖精がおる、と』
少し寒気を感じた所でマールも口を挟む。心底忌々しげに。
…そこまで妖精が嫌いか。
「妖精は人とは違うがな。人の前には滅多に姿を現さないし。まぁ稀にお前みたいに人に憑くのも居るみたいだが、オレでもそんなのは見たことがねぇ。」
「おおよそそう言った所ですね。後は人や亜人系の方は大体一族で外見的特徴が一定なのですが、獣人の方は全く一致しないと言いますか…」
「あいつらなんでもアリだもんな。まぁでも人ではある。サイズは人並みやちょっと大きかったり小さかったりするが二足歩行で会話も出来て話が通じる。なんつーかこう、一部動物人間?」
耳だけとかも居れば、上半身全部とか色々。そう補足が続く。なるほど。
つまり獣人の幅が広過ぎて、その他=獣人で括られているのかもしれない。
「混血児とかは?」
そうなると出てきそうな問題を聞いてみる。
「混血しても片親の特徴しか出ねぇ。能力もそうなる。」
『つまり異種族交配は可能、さらに半端な子は生まれず混血児問題とは無縁。便利な世界じゃな。』
「兄弟姉妹で種族が違って問題になったりしますけれどね…」
「…人の兄貴に獣人の弟とかだとケンカで悲惨な感じになるからなぁ」
誰か知り合いでも居るのか、オサが遠い目をする。
まがりなりにも村長だ。村人にそういう人が居るのかもしれない。
「…いやまぁいい。そういやお前はどうなんだよ?ユートは人間だろうが、魔族、だっけ?」
「そういえば気になりますね?貴女はどういう種族なのですか?」
『うん?妾の事か?』
「ああ、何か特徴とか…ああ、見た目か。」
『この姿は仮初めに過ぎぬ。魔力切れでエコモードなのじゃ。』
マールがくちをすぼめ、心外だ。と抗議する。
「魔力が切れると縮む生物とか聞いたことねぇ…」
「そうですね…」
『別に魔族は縮みはせぬよ?まぁこれは一種の特技じゃ。魔力を使った分身を作り出しておる。本体ではない。魔族は魔法に長け…というよりも魔法そのもので生きているような生物じゃからな。』
じゃから魔王に食われても平気じゃったわけじゃがなー、と笑って説明する。
うん、昔聞いたときも確かにそう言っていた。
魔王に食われて自我は保っていたものの、エネルギー源の一つ程度の扱いで何も出来なかった。
死に掛けになって統制が崩れたから体の制御を奪って俺の方へと引っ越した、と。
『そして各々魔法とは別に特技を持つ。妾の場合は病やちょっとした小手先の技術方面に強い事じゃの。』
「へー………」
「変わってんなぁ」
「この世界の生き物とは大分違うのですね…」
三者三様の返事をする。…そうだったのか。
今更だが、かなりの数の魔族と戦って来たのに全く知らなかった。
魔法に強く、倒せば<魔導心臓>が残り、処置しなければ蘇る。そういう認識でしかなかった。
『おんしまで感心してどうする。』
「いや、全然知らなかったなぁ…って」
「お前…」
「ユートさん…」
皆の目が冷たかった。…ゴメン。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ご馳走様ーっと。ふぃー食った食った。いやーお前らが居るとメシが豪勢でいいわぁ」
オサが食事を終え、立ち上がった。
そしてその台詞から察するに、やはり食事は奮発してくれていたのだろう。後で感謝しておこう。シズクさんとアンナさんに。
「さって、安全も確認されたしオレは早々に寝るとしようかね。お前らも今日は早めに寝とけよ?明日は朝から出発だからな?」
「わかりました。」「ああ」『心得た』
「………即答かよ…お前ら本当に全然なのな…」
オサが呆れた。という声を出す。ふふふ、その件については既に解決済みなのだ。
せめて<強化魔法>の基礎がある程度定着してから。と昼間買い物しながら説得したのだ。苦労させられたが…
今そうなったらきっと歯止めが利かなくなる。7日7晩耐えれるのなら…と言ったのが決め手となった。
実際にはそんなにする前に止まるだろうが、体力的には可能。そして効果は抜群だった。
マールは俺の必死の言い訳に揚げ足を取る事もせず、笑って賛同してくれた。
『おんし閨ではケダモノじゃからな。』と
…そう思われた方が面白いとでも思ったのだろう。
ともあれ、説得は成功。<生命強化>も定着しかかっているようだし、道中で2つ目をかける事になるだろう。
兎も角。今夜は寝るだけ。何もおこらない。
そう思って安心した気持ちでソフィーをちらり、と確認した。
…目が、合った。
たまたまだろう。何か、悪寒がするが気のせいだ。
風呂も毎日入るような物ではないらしく、今日は無い。
つまり、もう何もイベントは無くこのまま眠るだけ。
「「ご馳走様です。」」
とソフィーと揃って言って立ち上がり、食器を運ぶ。
その後、二人で部屋に戻って昨日と同じように眠ったのだが、結局夢の世界に旅立つ寸前まで悪寒が収まる事は無かった。
異世界強度がダウンしました。理由は、あまり魔力の高い種族に居られては困ってしまう為です。
ちなみに一般人の平均的な魔力量を10とするとオサで100、ソフィーで3500ぐらいの魔力量です。ユートとマールについては秘密。