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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第1章 二人の逃避行編
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9-5<ソフィーの理由>

※今回はまた重めの過去話が含まれます。苦手な方はご注意下さい…

一瞬で栗毛になってしまった自分の髪をいじる。これ、戻るんだろうか?



ちょっと不安になった。…だがまぁこれでアルモスに行ける事にはなったから良しとしよう。


「長居はしない」という条件付きだが、そのぐらいは仕方ない。


そしてそうなると、今まで勤めて詮索はしなかったが…聞いて置かなくてはならないだろう。



「ねぇ、ソフィー。今まで聞かなかったけど、聞きたい。何故逃げなくてはならなかったんだ?あの追っ手は何だったんだ?心当たり、あるんだよね?」



そう、あの時逃げる選択をせざるを得なかった訳をだ。



「…オレは席を外そうか?」


「いえ、大丈夫です。聞かれて困る事でもありません。それに長寿族のオサさんでしたら何かご存知かも知れませんし。」


「そっか。まぁオレは家を捨てた身だからあんま期待すんなよ、っと」


「わかりました。」



ソフィーがぽつ、ぽつと語り始める。



「それで、先ほども説明しましたが…あの日私とユートさんを狙ったのは、恐らくアルモス卿の私兵と、その協力者だと思います。あの場に包囲するだけの人数を配置するには、少なくとも領主が手を貸して居ないと不可能です。」



他者の私兵の動きにはどの貴族も敏感ですから。と続ける。



「それに、私の護衛だった3人が、ユートさんを殺そうとしました…となると王家の失脚を望む貴族派しか有り得ません。」



貴族派、なんだか聞いただけで怪しい響きを感じる名前が出てきた。



『その貴族派が何故こやつを狙い、おんしを拉致しようとしたのじゃ?<召喚魔術>は国策なのじゃろ?それに、王家の失脚、じゃと?』


「それは少し長い話になってしまうのですが…」


『かまわんさ、時間はあるのじゃろ?』


「まぁ出発の準備はヤスとかに任せてもいいしな。夜までたっぷりとある。」


「聞かせてくれ、俺にはこの国の情勢は分からない。ある程度は理解していないとこれからの行動が難しくなる」



「………わかりました。それでは――」





◆◆◆◆◆◆◆◆





事はソフィーの曽祖父の代の話に遡る。



純朴だった王は善政を敷き、


さらに異世界の知識で農工業に新たな技術をもたらし、発展させた。


それは同時にこれまでの消費と供給のバランスを崩すことになる。


国内と隣国の空腹をやっと満たせていた程度の収穫量は加速度的に増え、


いつしか大陸全ての需要を満たせる程の農作物を得ることが出来るようになっていった。


飽食の時代の到来。


民は手放しに喜んだ。食に困らず、戦も起こらずその人足を発展に費やす。


急速に豊かさを増す国。


だがその影で国王に所領を預けられ、取り仕切って居た各地の貴族は腐り始める。



時代は移り、王も変わる。


ソフィーの祖父は壮年入りたてと言った年齢で召喚された、マメで真面目な王だった。


増長する貴族を抑えるために国内の仕組みをより細分化する。


だが、少子化の進む王家だけではそれは賄いきれる物では無かった。


先代の曽祖父王は3人、今代の祖父王は2人しか子が生まれなかったのだ。


だから、王下5大家と呼ばれた建国以前から王家の1の部下として使えていた一族の末裔にその任を与えた。


これまでも行政事務の一部を預けており、最も信用できる一族だった。


だがそれにより5大家ゆかりの貴族とその他の貴族間の差が深刻化し、


平和に慣れ金と権力を求め始めた地方貴族と王家の関係に亀裂が入る。


徐々に貴族の反発が表面化を始める。



さらに時代は移る。ソフィーの父となる筈だった男の時代。


召喚された王は、まだ歳若い少年だった。そのためか二人は中々閨を共にする事無く、1年が経ってしまった。


召喚後1年目は国策のモンスター討伐開始の時期でもある。魔法を学んだ次期王の少年も後方戦力として参加した。


そして悲劇は起こった。


初陣に錯乱した少年は兵士に切り掛かり数名を惨殺、そしてモンスターに背後を突かれ、自らも短い生を終えた。


前代未聞、これまで可能性としては示唆されるも起こらなかった、起こりえなかった事態が起こった。



まだ、次代の王女がお腹に宿っても居ないのに次期王が死んだ。



その事態は王国を震撼させる。祖父王は残された王女と共に貴族によって槍玉に上げられた。


何故なら召喚魔術を行える程の魔力を宿して生まれるのは長女のみだったから。


次女以降も高い魔力を宿すが、それは長女の半分にも満たない。


そして王家の娘の寿命は<召喚の呪い>と呼ばれるもののせいでおよそ40年前後。


次の召喚の次期に今代の王女は生きては居ないかもしれない。


よしんば生きていても呪いに蝕まれ<召喚魔術>が使える状態ではない。


どうするのか。


祖父王は苦肉の策として初代王妃の行った<異界の門>を開く魔法の研究を開発局に命じる。


だが貴族連中は、「それでは足りない。王女を魔力の高い男と結婚させ子を成させるのだ。」と迫る。


理屈は正しい。だがそれは、誰が見ても王家に己を組み込むための詭弁だった。




時代の王女であり、後にソフィーの母となる王女エレハイムは、信じなかった。


「あの人は錯乱して味方に切り掛かる人では無い。王家の権力を狙った貴族に殺されたのだ。」と。


そして、自らの寝室に篭り、伏せってしまった。


3年が過ぎ、篭り続けたエレハイムは衰え、やせ細り、24の若さで病を発症する。


それは歴代王妃と同じ<召喚の呪い>と呼ばれる死病。


これまで通りならば恐らく5年と持たないと確信したエレハイムは、王の寝室を訪れ、実の父に懇願する。


「この国で今最も魔力が高いのはお父様です…次代の召喚の姫を産む為私をお抱き下さい。」


「私はもう5年と持ちません、お願いします。夫を殺したあの物たちの慰み物にされるくらいなら、死を選びます」と。


勿論祖父王は渋った。だが、幾度も自殺未遂を起こした娘についに折れ、閨を共にし、ソフィーが宿った。



だが、生まれてきたソフィーは歴代の王女の2/3程度しか魔力を宿していなかった。


そしてソフィーがまだ3歳の時、エレハイムはこの世を去った。28歳だった。



確実に召喚魔術を使えただろうエレハイムを28の若さで失い、肝心の次代の王女は魔力が低い。


まだ物心ついたばかりのソフィーまで貴族の槍玉に上げられる。


それを抑えるために幾つか貴族の要求を呑む。だが譲歩し、一旦収まっても再び鎌首を持ち上げてくる。


真面目な男故の悪循環。


貴族はさらに増長し腐って行く。



心労を重ねた祖父王は衰え、ついにこの世を去る。享年76歳。ソフィーは15歳だった。


最大の庇護者を失い直系の王族として最後の一人になったソフィーはさらに苦しい立場へと追い込まれる。



そしてある日事件は起こる。とある貴族の息子がソフィーを襲い、手篭めにしようとしたのだ。


その時は傍に居た2人の従姉妹の内の姉、メリアルーナがその息子を殴り倒し、事なきを得た。


だが、一度では済まず、さらには命を狙われる事態まで起こった。



一部の過激な貴族は最早王家を排除し、自分たちでの国の統治を目論んですらいる。


限界だった。



事は王宮内や叔母の嫁いだアーリントンの所領でも発生し、敵が何処から来るか分からない。


手口も巧妙化し、5大家の庇護下と言えど危険が伴う。


証拠は挙がらず怪しい貴族を取り締まる事も出来ない。



このまま予定通り<召喚魔術>を行い、成功したとしてどうなるだろうか。


儀式の間に入るのはソフィーだけ、<召喚魔術>を使えば魔力は尽きる。そして肝心の<召喚されし者>は無力。


たとえ全力で警護をしたとしても、今の状況ではあっさりと警備兵に潜り込まれるだろう。


過激派を特定し一掃する事も出来ない以上、それは火を見るよりも明らかだ。


つまり、やろうと思うものには、暗殺も、拉致も、容易い。


…出し抜くしか、ない。




今の王家の弱みは「<召喚魔術>が行える王女の血が途絶えそうな事。」


だから成功さえすれば、子を宿せば、その前提は崩れる。ここが肝だ。


<召喚魔術>を成功させ、過激派に嗅ぎ付けられる前にその足で最寄の5大家の一角アーリントンへと駆け込み、5大家庇護の下で体制を立て直すのだ。



晩年の祖父に託された7つのマナ結晶を握り、ソフィーは召喚魔術を強行する事に決めた。


16歳の半ばのころだった。

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