9-3<マール2>
ソフィーとオサによるマールへの尋問?が一段落したのは昼もかなり過ぎた頃だった。
「なぁ、そろそろメシにしようぜ?」
「…そうですね」
『妾も食べてみたいのう』
「そうだね…ってその姿で食事できたのか?」
オサの提案に皆で同意し、部屋を後にする。
オサは途中で俺たちと分かれて台所に消えていった。
誰か居たようだし、多分またシズクさんかアンナさんにでも頼んで作って貰うのだろう。
…いやまてよ?
そこまで考えて思い至る。
確か朝飯が出来たとか言って来ていたような…
時間は既に昼をかなりの勢いで過ぎている。
…忘れよう。きっと無駄にはしない筈だ、うん。
そのまま食堂に付いて、座って待つことにする。
ソフィーは昨日のように俺の隣では無く、神妙な面持ちで正面の席に着いた。
これはあれか、次は俺、ということか。
さてと、どうしたものか。
「ユートさんにも質問があります。」
やっぱりね。
そう思いつつ、居住まいを正し、先を促す。
「何?」
「ユートさんが「待ってくれ」と言い続けたのはマールさんが理由ですか?」
「概ねは…」
それだけと言うことも無いのだが、一因ではある。間違っては居ない。
「そうですか、彼女が眠っている間に他の女性と良い仲になるまいとした。と言った所なんですね」
「そう言った所です。」
肯定する。それも真実だ。
「では、もう大丈夫ですね?答えを下さいますか?」
やはり、こうなったか。
薄々この質問になるのは予想していた。オサが離れるまでは待っていたのだろうか?
だが、何はともあれ、マールとの邂逅も終えた今、答えなくてはならない。
「ソフィーはマールのこといいの?」
「…私は大丈夫です、ユートさんは真剣に考えてくださっているようですから。彼女の事も、私のことも。ですから大丈夫です。独り占めしようとしなければ問題ありません。彼女にもその気は無いようですし。」
『やっぱり妾の見立て通りじゃったのう』
黙って聞いていたマールが頭の上でからからと笑う。
…どうやら一夫多妻は然程抵抗が無い事のようだ。
「…分かったよ、受け入れる。でも」
「でも?」
『でも?』
「その、アレとかそういう事は…ちゃんとムードとか、場所とか、そういう…」
「・・・」
ヘタレ、とでも何とでも思ってくれ。それでも、俺には大切な事なんだ。
『ぷぁっっははははははは、何時まで、経っても、ククっ、ほんっとウブじゃの。おんしは、はははは』
耐え切れない、とマールが爆笑する。
笑うな、畜生。俺はこういう性格なんだ。知ってるだろう。
「仕方ないだろ……」
『………まぁ、の』
ふー。っと一息ついたソフィーが居住まいを正し、こちらを真っ直ぐ見つめる。
気配がやっと普段のように柔らかくなる。落ち着いたようだ。
「では、これから改めてお願いします、ユート。私の旦那様」
「あ、あぁ、改めてよろしく、ソフィー。」
この話はここでお仕舞い。そう宣言するように切り上げる。
後はオサが昼食を持って戻ってくるまで、マールが眠っていた間の経過などの他愛のない雑談を楽しんだ。
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「ところでマール。お前10日は眠るって言ってなかったか?まだあれから5日だぞ?」
『みたいじゃの。んー、多分マナのやたら濃い所に行ったのでないか?吸収できるマナの量が多ければ早まる事は不思議ではないしのう』
「神殿の北の森のせいではないでしょうか?」
「そうか、あそこはマナ濃度が異常でモンスターが発生するって言ってたもんね」
『マナの濃度異常?それにモンスター、じゃと?』
「あぁ、この世界はマナが多すぎて場所によっては生物が変質してモンスター化するらしい」
『ふぅむ、モンスターは有り得るとして、怪しいのう…あのオサという小娘といい…』
「オサに、何かあるのですか?」
『ん?まぁ気にする事は無い。誰にも隠し事はある、ということじゃ』
「はぁ」
「…あの会話で何に気づけたってんだ?」
『秘密、じゃ。本人が隠しとるのに妾がそれを喋る道理はない』
「そうですね。」
「それもそうか。」
『まぁおんしらが世話になったようじゃしあの小娘にもヒントをやるべきじゃな。』
「ヒント、ですか…?」
『うむ、真実に至る道しるべ、じゃ』
「大層だな。でも、いいんじゃないかな。」
「そうですね」
『うむ。』