9-2<マール1>
「うっわなんだこれ?おいどうなってんだ?<召喚されし者>の兄ちゃんよ?妖精?」
「ソフィー、落ち着いて、ナイフを下ろして、説明するから、説明させて。」
「・・・」
『あっはっはっはっは』
オサが加わってさらに場が混乱する。
まさにカオス。あとマール、笑うな、お前のせいだ。
「どうぞ。」
ナイフを下ろさず、そのまま説明を求めるソフィー。目が据わっている。
なにこれ?まさか、この娘あれか?ヤンデレとかいうやつ?
背中を冷たい物が流れる。もうずっと昔に漫画か何かで見かけた
「私に黙って浮気なんて許せない!貴方を殺して私だけのものにする!!」
みたいな想像が浮かぶ。まずい。
「こここ、こいつはマールって言って、」
『これこれ、妾の自己紹介を取るでないぞ。後は妾にまかせい。』
「だ、大丈夫なんだろうな!?」
『さぁの、どーせ刺された所で平気じゃろうが。』
「そういう問題じゃないだろ!?」
「まだ、ですか?」
怖い。ソフィーが怖い。俺を見てるのに俺を見ていない。
瞳孔開いてない?何で目の焦点が合ってないの?
「おちつけ姫さんよ、相手はこんな妖精だ、アンタが心配してるような事は…」
『だから妖精ではないと言うに。』
オサがフォローしようとする。だが、状況は変わらない。
…このままではラチが開かない。
気合を入れ直して小さく深呼吸。眼前のナイフをグッと掴む。そして動かないようにする。
ソフィーが驚いた顔をする。だが据わった目は若干戻った。よし。
「ソフィー、聞いてくれ。ちゃんと説明するから。」
「…」
「…わかりました。」
俺の放つ真剣な空気にオサが黙る。空気を読んでくれてありがとう。
ソフィーも渋々、ナイフを手放した。
「ふー」
握ったナイフを半回転。一旦柄を掴んで、置く。
そして頭上に語りかける。
「マール、説明。ふざけないでくれよ」
『なーに心配するでない。では、仕切り直しじゃ』
『おほん。妾はマール。こやつの<魔導心臓>に同居しておる。魔族じゃ。』
「<魔導心臓>…確か<魔晶石>の事でしたね」
「魔族?聞いた事ねぇな…」
『魔族は魔族。<魔導心臓>を核とした種族の一つじゃ。そして<魔導心臓>と<魔晶石>なるものは別じゃ。前者は生体、後者は鉱物でしかない。…話が脱線したの。ともあれ妾はこの男とは切っても切れぬ腐れ縁、言わばこやつの女房。だが相棒とも言える仲じゃ。』
「!」「うぇ?」
ソフィーがビクッとして固まり、オサが素っ頓狂な声を出す。
『しかし誤解はしないで欲しい。妾はそなたがこの男の伴侶となる事に異存は無い。むしろ大賛成じゃ』
「!?」「へ?」
固まったソフィーが困惑し、ついでにオサも困惑する。
『何故なら妾はそなたも愛おしく思っておる。そなたとこやつ。二人ともを愛するのに何ら躊躇いは無いぞ。』
マールが自分に酔うかのようにつらつらと語る。
おいおい、確かに前にも言っていたが、まさか本人にそのまま言うとは。
「あの、話がわからなくなったのですが…」
「オレもオレも。」
剣呑な気配は去ったが、混乱を生んだだけのようだ。マール…
「適当に質問すればいいよ、大概は答えてくれるから。」
『うむ。妾は質問に答えるのは得意じゃ。』
「そうですか…では………」
ソフィーとオサによる寝堀葉堀の尋問?が始まった。