9-1<俗に言う、修羅場?>
5日ぶりの眠りの明ける朝は、少し目覚めが遅くなった。
何かが腕の中でもぞもぞとしている。…動かないで欲しい。
抗議するようにちょっとだけぎゅーっと抱き締め、動きを押さえる。止まった。
あぁ、暖かくて柔らかくて気持ちいい。このままずっと抱いて寝ていたい…
なんだろう、これは?
暖かく、柔らかく、なんだかいい香りがする。ティーナともマールとも少し違った優しい香り…
勝手なイメージだが、ソフィーあたりがこんな感じの香りがするんじゃないだろうか………
と、その可能性に思い至ったところで意識が急速に現実に引き戻される。
ガバッと薄いかけ布団を跳ね上げ起き上がる。
物凄く至近距離でソフィーが縮こまって赤くなっていた。
「お、おはよう、ソフィー?な、なな…なんでこんな傍に?」
「おはようございます…」
消え入りそうな声だった。
「昨日、夜中にユートさんが私を引き寄せて抱きついて来たんです。」
あれほど自分で節度を、とかおっしゃられていたのに。と攻められる。
なんだかまんざらでも無いような感じなのは、どうなのか?
だが確かに、起きた時の位置は俺が昨日寝た廊下側でなく真ん中よりソフィー寄りだった。
確実に俺が動いたらしい、言い訳できない。
『おんし自分の抱き付き癖に気づいておらなんだのか?』
「え?俺にそんな癖が?」
「誰ですか!?」
二人しか居ない筈の寝室に、俺には馴染みの第三者の呆れた声が響いた。
だがソフィーは知らない。跳ねるようにベッドから飛び起き、寝起きの和やかな空気が一気に引き締まる。
『おぉ、これはご挨拶じゃったな。詫びよう。では改めて自己紹介から…』
「マール!?お前起きたのか!?」
「マール?何処に…」
ソフィーがベッドの横の小さな棚の上に置いたナイフを取りつつ声の主を探す。
『…話の腰を折りおってかんに…ここじゃ、こーこ。』
俺の頭をペシペシと叩かれる感触。目線だけを上に上げると、頭の上からマールが顔を覗かせた。
バサッと豪快な印象の濃い金髪と同じように黄金色の瞳。褐色の肌に白の化粧のようなライン。
そして曲線を描く濃い赤色の2本の角。そこはいつも見ていたマールと同じ。
決定的に違うのは一つ、ミニマムなのだ。恐らく20センチそこそこ、3,5頭身かそこいらだろう。
上半身と、髪と同じ金色のさきっぽが膨らんだふさふさ尾っぽ程度しか見えていないが。
「…妖精?」
『妖精ではないのぅ』
ソフィーもマールを見つけたようだ。そしてその印象は分からないでもない。
今のミニマムなマールは実にそれっぽい。本物を見た事は無いのだが。
…そういえばこの世界は妖精も居るのか?
この分だとエルフとかドワーフとかもいつか出て来そうだ
っと今はそれよりも…
「魔族、だよ」
一応フォローをする。余り良い印象の無い、と言うより最低の印象しか無かった種族。
だが、個人単位である以上、そこは切り離して考える。マールは特別だ。
「…聞いた事が有りません。それに、マール?ユートさんの口から何度か聞いた事がある気がします。貴女の事なのですか?」
ソフィーがナイフを抜いて構え、マールに問いかける。
『問われた以上は答えよう。その通り、じゃ。こやつの口から出て妾以外を指す事はまず無いじゃろう』
「貴女は何者なのですか?」
『妾はユートと将来を誓い合ったモノじゃ』
ふふん。と得意げに笑っていきなり爆弾発言を投下する。
ソフィーがピキッと固まった。
「お前何を言って!?」
『なんじゃ?相違あるまい?それともあの5年間に及ぶ蜜月は嘘じゃったのか?』
「いやそんなことは、でも…」
確かに5年間、狭間の世界に二人きりで寂しさも相まって、
誘われるままにあんな事やこんな事を致してしまったのも事実。これまた言い逃れできない。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
うわっ
いつの間にかソフィーが固化から解けて構えていたナイフををこちらの眼前に突き付けている。
「どういうことなんですか…説明、して、貰えますよね?…」
「よーおめーらー、起きたみてーだな。朝メシ出来てるぞー………って。」
ソフィーの目が剣呑な色を点したそんな時、ドアをばーんと開けてオサがやってきた。
「ナニ?この状況」
『俗に言う、修羅場じゃの』
身も蓋も無かった。
26話ぐらいぶりにマール、復活(仮)!やっと賑やかになってきましたが…会話の兼ね合いが大変な事に。これからも主人公の周りには人がどんどんと増えていく予定ですので今から戦慄を隠しえません。(ノ∀`)




