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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第1章 二人の逃避行編
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8-5<一日の終わり>

「あ゛ーー酷い目にあったー」



風呂から上がったソフィーとオサと合流し、寝室に案内される道中、照明具を持って前を歩くオサが呟いた。


酷い目にあったのは俺じゃないだろうか。いやだが、眼福、役得と思えば実は良い目に有ったのかも知れない。


何とも言えない複雑な気分だ。…素直に喜べる性格ならどれだけ気が楽だったろう。




今は3人、縦に並んで歩いているので後ろのソフィーを意識する。


さっきの風呂でのしどけない姿、そして密着した時の柔らかな感触をつい思い出してしまう。


いけない。今の自分はガードが下がっている感がある。これ以上は危険だ。



「ここだ」



目的の部屋に着いたのか、ガチャリとドアを開いてオサが先に入り、俺たちを中へと促す。


ここはドアノブなんだな…


いままで引き戸だったのに何故かドアノブ付きの部屋だった事に疑問を抱く。


だがまぁ不思議だが気にする事でもないだろう。そのまま部屋に入ることにする。


中に入り見渡す。部屋はあまり広くは無い。だが、問題はそこではなかった。



「オサ、ベッドが一つしか無い気がするんだが?」



言葉の通りだ。部屋には横幅の広い正方形に近いベッドが一つと棚が大小各2つ。そのぐらいしかない。



「見えるのかよ…もう魔法切れてるよな?」



そう言ってオサが入ってすぐの小さい棚の上にある照明具を点灯する。部屋がほんのり明るくなる。


あれも魔道具だろうか?そんな事よりベッドの方が問題だ。



「んだよ、お前ら<召喚の夫婦>だろ?ベッドが一つなのは当然じゃねぇか…」


「そんなこと言われても…」


「さっきの風呂といい…お前もいい加減諦めろよ。悪い話でもねぇだろ?それとも何か?誰かに操でも立ててんのか?」


「そういうつもりでもないんだが…」



後ろめたい。ティーナの事もだが、マールの事もだ。


死んだ人間はもう何も語らない、語れない。


だからティーナには俺の幸せを祈ってくれと想う事で、ごまかして来た。


だがマールはどうか?


今彼女は俺とソフィーの為に限界まで力を使い、眠っている。


その間にソフィーとそんな関係になるなど、だまし討ちも同然ではないだろうか。


いくらマールが構わない。と言っていたとしてもだ。



「だめだ、俺はソフィーとはまだそんな関係にはなれない。」



二人の事を思い出し、気を引き締める。



「だがよぉ今更他の部屋を用意するのは…」



確かに、すでに時間は深夜で夜間照明がこの程度なのだ。厳しいだろう。



「なら俺は床で寝るからソフィーは…」


「端と端で寝れば大丈夫です。何だったら私が床で寝ても構いません」



厳しい口調でソフィーが俺の提案を切って落とす。



「ソフィー?」


「ユートさんはもう5日も寝てないのですから、きちんと眠るべきです。そして、眠るならベッドを使ってください。」


「いつ…か…?」



オサがまたマジかこいつ?と言った目で俺を見る。


あぁ、そういえばもうそんなになっていたのか…



「でもソフィーだってずっと野宿で、地面で、熟睡なんてできなかったろ?」


「私は毎日寝させてもらえました。お願いですから、これ以上引け目を感じたくないんです。」



ソフィーが懇願する。このままでは本当に床で寝てしまうのではないだろうか?


…ベッドの広さは十分ある。俺は………ソフィーの案を選んだ。



「分かったよ、それじゃ、端と端で。節度を持って。」


「はい」



「まとまったかー?それじゃオレは行くぞー?」


「あぁ、お休みオサ」


「お休みなさい」


「おやすみー」



そう言い残してオサが出て行った。





眠る前にもう一度部屋を確認する。


ここは3階で窓は1つ。頑丈な作りだ。窓からの襲撃は無いだろう。


ドアは普通の木と金属製のノブ。はっきり言って簡単に蹴破れる。もしもの為に俺がドア側だな。


よし、と決めてベッドの真ん中あたりに座って物思いに耽っているソフィーに話しかける。



「俺はこっちで寝るよ。」


「そうですか、では、私はこちらで。」



ソフィーが真ん中から反対側へと離れる。妙に素直だ。


先ほどの風呂での積極性を思い出すと何か有るのではないかと疑ってしまう。


と思っているとソフィーはそのままベッドから離れ、こちら側へと回り込んでくる


どきり、とする。


だが、そのままこちらへ来る訳でなく、オサが点けて行った明かりの元へ向かう。



「明かり、消しますね。」



明かりを前にソフィーが言う。


俺が使えないだろうという配慮なのだろう。



「…あ、あぁ」



若干声が上ずってしまったが、そう答えるとすぐに照明が消えた。


そしてソフィーが俺の側を迂回し、ベッドの反対側の定位置に入る。


…杞憂だったかな


俺もベッドの端に背を向けて寝転び、眠ることにした。






…久しぶりの柔らかい寝床の感触に落ち着かず、なかなか寝付けない。


ベッドについて暫く経ち、眠れはしていなかったが沈黙して居ると、背後のソフィーがこちらに擦り寄ってくる気配を感じた。


振り向く事無く小声で語りかける。



「…ねぇ、ソフィー」


「…なんでしょう」



声はかなり近い。きっとその気になれば今すぐにでも俺の背中に抱きつけるだろう。



「今は、待って欲しい。」



だから、止める。



「…今は、と言うことは将来的には可能性がある、と信じていいのですか?」


「あぁ。」


「………でしたら、待ちます。」



少し長めの沈黙の後、ソフィーがため息をつきながら答え、離れる気配を感じる。



「ごめん」


「ですが、あまり長くは待てませんよ?」



ソフィーの声が聞こえる。元の位置で向こうを向いて話しているようだ。



「そんなに長くは待たせない…つもりだよ。答えは、出すさ」


「…私の認める答えは一つしか無いですよ?」


「それも、わかってるさ」


「なら、いいです。」


「ありがとう」


「どういたしまして」



会話が終わり、再び静寂が降りる。



「それじゃ…寝るよ」


「おやすみなさい、ユート」


「おやすみ、ソフィー」



緊張が解け、程なくして俺は5日ぶりの夢の世界へと落ちていった。

指摘頂いた一部名前が間違って居た部分を修正しました。(2回目) 7/6

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