8-3<風呂3>
振り向けばそこは、桃源郷だった。
…何を思っているんだ俺は?いや、あながち間違っても…いやいやそういう問題じゃないだろう?
どうやら混乱しているらしい。頭の中を整理しよう。
軽く体を洗い、まだ時間はあるだろうと湯船に入り、湯船の中を歩いている最中に、背後でガラリと扉が開いた音がした。
うん。そうだ。
そして振り返ってみると、湯浴衣らしきものを纏った黒髪と白髪の2人の少女が立っていた。
「・・・・・」
一瞬の空白、そして相手が誰かを理解すると共に正常な思考が戻ってくる。
(ななな、何故だ!?幾らなんでも早すぎる!)
そう、予想ではまだもっとかかるはずだったのだ。
(どうする!?逃げる?隠れる?何処に?隠す?何を?ナニを!)
殆ど単語で思考する。自分が焦っているのが自覚できる。
即座に頭部のタオルをとり、しゃがみこむと同時に股間を隠すように沈める。湯船にタオルを!なんてマナーを言ってる場合じゃない。
「ななな、なんで!?」
「おうユート、きたぜ。」
「お待たせしましたユートさん。お背中、お流ししますか?」
そう言ってソフィーはこちらの居る湯船へとにじり寄り、オサが桶を二つ取り、一つ投げる。
受け取ったソフィーがそのままかけ湯をし、オサも続く。
湯で濡れた薄い湯浴衣が肌に張り付き、白い肌に一際目立つ桜色の部分が、薄く透ける。
(どうする、どうする、どうする?)
混乱し動けないで居るとあれよあれよと言う間に桶を置いた二人が湯船に入り、にじり寄って来る。
直視できない、目の置き場が無い、そして逃げ道が、ない。
それでもジリジリと往生際悪く横にずれて行ったのだが、ほどなく角に追い詰められてしまった。
「へへへ、往生際が悪いぜ?」
「一緒にゆっくり浸かりましょう?」
(何か、何か、何か、)
何も、思いつかない。
「か、体!体洗うから!!」
なんとか思いついた言い訳を叫び、二人の間を抜けて湯船から抜けようとする。
はっし
「でしたら、お背中お流ししますね。」
満面の笑顔を浮かべたソフィーに捕まった。
手を離してくれない上、そのまま体を押し付けるように擦り寄って来られてはひとたまりも無く。
俺は仕方なくすごすごと風呂場へ上がり、最後の抵抗と言わんばかりに壁に顔を向けた。
(煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散)
ソフィーが俺の背中を石鹸をつけたタオルでゴシゴシと擦り始める。
…先ほど網膜に焼きついた艶姿が浮かぶ。
(煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散!)
慌ててその思考を乱し、消そうと試みる。
マールのニヤけた顔が浮かんだ。畜生、負けてなるものか。
そうやって俺が自制心を鼓舞しだした所に、
大人しく?湯船で泳いでいたオサが、すい~っとこちらにやって来た。
(どうしてこうなった。どうしてこうなった?)
答えの無い疑問。兎に角脱走する方法を考えよう、とした時だった。
「ちょっっお前、何で何も履いてねーんだ!?」
オサが唐突に叫んだ。
「え?」「え?」
二人の声がハモる。
「ゆ、湯浴衣あったろーが!なんですっぽんぽんなんだよ!?」
すっぽんぽんとか久々に聞いた。うん、でもそれ所じゃないんだ。
オサが顔を真っ赤にして湯船から上がり、俺たちの背後を走り抜け脱衣所に顔を突っ込んで叫ぶ。
「シズク!ユートの湯浴衣とって!」
そうか、男用の湯浴衣もあったのか。というか走るのは危ないぞ、などと考えていたら、
何時の間にかソフィーが俺の腰を巻くようにして股間を覆っていたタオルを掴み、ハラリと引き解いた。
「!!??」
ちょ、な、何をするんだこの娘は!?
咄嗟に手で露になった股間を隠しつつ、肩越しにソフィーを振り返る。
その犯人であるソフィーは「きゃー」とでも言いたそうな顔を両手で塞ぎ、指の間からバッチリ両目が覗いている。
…これいじょういけない。視界の端、ソフィーの足元に見えた俺の腰から外されたタオルに手を伸ばす。
と、同時にソフィーの手も伸びていた。手を伸ばした、ガードの開いた、俺の股間に。
「!!??」
背中に、ぴったりと密着される。むにゅん。と、犯罪的な、柔らかい感触が二つ。当っている。
さらに、伸ばされていたソフィーの指先が敏感な部分に触れる。
思わずタオルを掴もうとしていた全身が硬直する。
むに。むに。
触れた指が感触を確かめるように動く。
まずい、予想外の刺激を受けたことにソレが反応し出す。聞かん坊が目を覚ましかけている。
このままでは、危険。最早、一刻の猶予も無い。
がばっと立ち上がりソフィーを振りほどき脱衣所へ向かって走る。
オサが走っていたのを危ないな、とか思っていたがそれもどうでもいい。ここは、危険だ!!
急ぐ、意識が戦闘モードになりつつある股間に向きすぎて、当然<強化魔法>なんて発動しない。
それでもあっという間に誰も居ない脱衣場の扉の前にたどり着き、
ガラッ!と一気に扉を開いた。
やった、逃げ切っ…………た?
俺の目の前に男用の湯浴衣と思われる布を持ったオサが居た。
OK確認しよう。
俺の格好
全裸、タオル無し。
両手、扉を握り開いている。ノーガード。
聞かん坊改め聞かん棒、元気度水平越え+30度ほど。今だ上昇中。
オサ
外見、10代の小柄な少女。
ソフィーと同じく湯浴衣は濡れ、透けてしまって色々丸見えである。
現在、俺の真正面で硬直している。
つまり、遮蔽物は一切無く、
身長差の関係でやや元気になってしまっている聞かん棒はオサの顎先へと向かって突き出され、
あたかも鎌首をもたげた蛇が如くであり、その距離僅か10数センチ。と言った所だった。
俺の顔を見上げる為やや上を見ていたオサの顎が引かれる。
視線が、そこにたどり着き、焦点が合わされる。
「ひっ」
オサの口から一瞬だけ吸い込むような悲鳴が漏れる。
「ふぅ〜〜〜〜〜〜」
そのままパタリと仰向けに倒れた。
「ちょっと、おい、オサ!大丈夫か!?おい!?」
完全に気絶していた。