8-1<風呂1>
「そうだ、風呂にでも入ったらどうだ?」
<甲冑猪>の討伐を終え、オサの家に帰り着いた所で唐突にオサが言い出した。
「風呂が、有るのか?どんな?」
「ジオの木製の風呂だ。でけぇぞ?10人は浸かれる。」
「さっき出かける前にヤスに湯を張るように言っといたんだ。お前らの貸切さ。」
「なぁに一仕事してくれたんだ。ゆったり湯船に浸かって旅の疲れをほぐしてくれよ。な?」
浸かる、湯を張る、湯船、という単語に反応する。これはもしや本当に「風呂」なのではないか?
そういえばこの国は水資源が豊富だと言う話を思い出す。ならば王侯貴族の道楽でなく、
こんな一般庶民にすら入浴という文化が芽生えていてもいいのではないか?
「男湯と女湯ってあるのか?」
「ねぇよ?お前ら<召喚の夫婦>だろ?二人で入れよ。あ、多少なら粘っこいので汚してもいいぜ?」
オサがうへへ、と下卑た笑いをこぼした。この見た目10歳、何て事を言うのか。何で汚すというのか。
ソフィーも想像したのか顔を赤くしてチラチラこちらを見ている。だが、そうはさせない。
「じゃ、ソフィー、先に入っててよ。俺はこの中身をオサに分けとくから。」
と、腰の鞄を指差す。何のことは無い、適当に言い訳をして分かれて風呂に入るのだ。そしてここはレディーファーストだろう。
「あぁ?いや分けてくれるのは嬉しいが、おめぇそれは………」
オサが「うわ、ダメだコイツ。」といいたげな目をする。うるさい、ほっとけ。
「では私もその後で入ります。一緒に入りましょう。」
「え?」
ソフィーが賛同してくれなかった。
「いやいや、一緒に入るとか、マズいでしょ?」
「そんな事はないです。」
「じゃ、じゃあ俺は疲れてないし今日はいいよ。ソフィーは入ってきなよ。」
「では私も遠慮させていただきます。戦ってないですし。」
ああ言えばこういう。どうしよう。
「折角お前らの為に湯を張ったのに…風呂沸かすの大変なんだぞ。入ってくれよ?」
オサが追い討ちをかけてくる。だが、何故そのセリフでニヤニヤ笑っている?
「わ、分かったよ。俺が先に入る!ソフィーはオサに鞄の中身分けといてくれ。風呂はどっち?」
「ここを出て右に行って突き当たりを左。そのまま真っ直ぐ行けば脱衣所だ。着替えはもう用意してある。使ってくれ。」
「なら、私も「それはダメ」むー」
ソフィーがむくれる。
「諦めろ、このヘタレはお前と入るのは嫌だそうだ。まぁ今はその中身を分けてくれ、終わったらオレと入ろうぜ。」
「それじゃ意味が…いえ、そうですね分かりました。ふぅ…仕方ありませんね。ユートさん、先に入っていてください。後でオサさんと行きますから。そうですね。ゆっくりと入っていてくださいね?」
オサの言葉に渋々ながら納得するソフィー。
オサ、いいぞ、ナイスフォロー!
心の中でサムズアップ。すぐさま鞄をソフィーに手渡し、「じゃ、いってくるから」と言い残して小走りに風呂に向かう。
パパッと入って軽く体を洗って上がればいい。歯と刃を幾つかと言っても少しは欲目が出るだろう。そこそこ時間が稼げるはずだ。
上がる前に済ませて追う気なんだろうが、こちとら烏の行水覚悟だ。交渉が終わる前に上がってしまえばこの難局は越えられる!
右、左、まっすぐ。意気揚々と脱衣場に向かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「いったな」
「ですね」
「さて、追うか。アイツが風呂に入ったら即、行くぞ?」
「勿論です。」
「へへへ」
「ウフフ」
二人の笑い声が廊下に小さく響いていた。
日本人には切っても切り離せないモノの一つだと思うんですよね、風呂。
その内書きたいと思っていました。
そのせいか何なのか案外サラっと書けたので、1日2回の12時間更新にここから4話程戻りたいと思います。