1-2<召喚されて>
ついに召喚魔法に乗った!
と思った瞬間激しい光で目が眩み、一瞬で世界が切り替わっていた。
ばっしゃぁんと水音を立てて着地、いや着水する。
水に落ちた? 湖? 川? 少し焦る。いや、大丈夫だ。浅い。手も足も底についていた。
それよりも、柔らかくて暖かい何かの上に乗っている…?
先ほどの光に眩み、閉じていた目を開くと…俺は少女を組み敷いていた。
…16、7ぐらいだろうか?
浅い水面に漂う、かなりの長さの黒髪、そして黄色人種っぽい色の肌。
一瞬日本人か? と考える。だが、その考えは早々に否定する。衣装が独特だ。こんな服を着ている人は今まで見た事が無い。
それは白を基調とし、複雑で不思議な模様が縫いこまれているが、いたって簡素な貫頭衣。
ただ、水に濡れて肌に張り付き、透けてしまっていて、色々マズい所も見えてしまっているのだが…
…ラッキーと思う気持ちは正直有るのだが、ちょっと困る。
目のやり場に困り、とりあえず瞳を閉じたままの顔をしげしげ見つめる。
瞳は開かれておらず、眠るように閉じられている。
…眠っている?
それにしても、召喚魔法の鍵が美少女なのは基本なのだろうか?
かつて自分を召喚した少女の姿が脳裏に浮かぶ。
今だ色あせず、はっきりと思い出せるその姿を、目の前の少女と比べてしまう。
目の前の少女は脳裏に浮かんだ活発な少女とは全然違うタイプの雰囲気を感じる。
なんというか、おしとやかなお嬢様タイプの見た目。だが、やはり美少女であることは確か。
と、不躾な思考をしていたら彼女の目がゆっくりと開かれた。
少し、以外だった。黒髪で日本人然とした顔立ちと肌色だったのに、
そこにあったのはやや青みの強い鮮やかなスミレ色の瞳。
と、しげしげと見つめていたせいで、ばっちりぶつかっていた彼女の視線が戸惑うように揺れはじめ、下へと下がり、ぼふっと言った感じに顔が真っ赤に染まった。
なんだ? と釣られて俺の視線も下がって・・・気づいた。
俺、全裸だ。
「―――――――――――――ッッ!!!」
彼女の全力と思われる平手打ちを食らい、俺は彼女の上からもんぞりうって転がり落ちた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「イテテテ…」
叩かれた頬を何となくさすりつつ座る。何故か知らないが全裸なので股間を挟んで隠せる正座だ。俺に露出趣味は無いのだ。
先ほど組み強いてしまっていた少女がハッっとして起き上がり、こちらを気遣うような顔をして語りかけてくる。
「■■■■■■? ■■■■■??」
「………」
…これは困った。何を言っているのか分からない。
どうしたものか? と首を捻っていると、バン! と勢い良く扉が開き、中世の鎧のような服を着た男? が2人突入してくる。
突入した2人は凄い勢いで彼女と俺の間に立ちふさがり、こちらに槍を突き付けて来た。
「■■■■? ■■■■■■!」
「■■■! ■■■! ■■■■■■!」
「………」
いきなり槍とは物騒な…うん、こっちも何を言ってるのか分からない。
「えっと、すみません。言葉、分かりません。どうしましょう?」
とりあえず語りかけつつ敵意は無い事をアピールしてみる。
いわゆる一つのホールドアップ? というやつだ。
怪訝な顔をされた。やはり相手も言葉は分からないようだ。
「■■■■ ■■ ■■■■」
彼女が騎士らしき二人に何かを言い、槍が下げられる。
騎士? が何かを彼女に手渡した。それを首に付ける。
…首飾り…か?
「…ん、あの、始めまして。これで言葉は通じると思うのですが、どうでしょうか?」
まさか、だった。少女が日本語で語りかけて来たのだ。
翻訳機なのか!? あの首飾りは!?
魔法の力? この世界ではこんなものが完成しているのか!?
驚き、感心する。
「えと、その…聞こえて、ます…よね? 故障…?」
しまった、つい驚いて言葉が出なくなっていた。
「あ、す! すみません! 聞こえてます、聞こえてます!」
慌てて返事をする。
「良かった、ちゃんと起動してるんですね<意言の首輪>」
「<意言の首輪>…すごいです、翻訳機なんて初めて見ましたよ!」
「そ、そうなのですか? それで、えっと、先ほどはごめんなさい…まさかそんな姿で召還されるなんて知りませんでしたので、驚いてしまってつい…ご無事、でしょうか…?」
「あ、いえ、はい! 大丈夫です! その…俺の方こそ、なんかこんなカッコで抱きついてしまって…」
お互い赤面して顔を逸らす。気まずい。
「ととと、とりあえずですね。自己紹介を。俺は『蒼鈴 勇斗』といいます。」
とりあえず意思疎通が出切るならば最初は何よりも基本、自己紹介だ。
「『アオスズ ユウト』様、『ユート』様、ですね。私は『ソフィーリア=シルヴァ=シュトルーゼ=ベルム』と申します。『ソフィー』とお呼び下さい。」
姓名を間違えなかった事に一瞬違和感を覚える。
だが間違って無いなら構わないか。そんな事より名前が長い…一回で覚えられそうに無い。
そして、今はそんな事よりも緊急を有する事がある。
「はい。ソフィーさんですね。それで、えっとその、」
「はい!何でしょうか?」
「その、何か着る物って有りませんかね?」
「・・・・・ ―――――!?」
ソフィーの視線がちらりと俺の隠された股間に向き、硬直する。思い出してしまったのだろうか? そのまま一気に真っ赤に茹で上がった。
おおっ、と思う。何故ならそれは今まで親しくなった女性達にはなかった、新鮮な反応だったから。
なんだろう、この娘。凄く可愛いかもしれない。
2話目。やっと主人公登場。チート主人公にチート武器を持たせたら手に負えないので持込は無し、さらにMPも切れかけでの登場です。
9/5「」、!、?周りを修正しました。