7-4<オサ2>
「なるほどねぇ。王都に行く途中道に迷って森に入って、ちょっとモンスターを討伐して、ウルラス川を下って来たと。」
さっき第一村人ことヤスさんにざっと説明した話と同じ話をする。
「おおよそそんな感じです。」
「ふむ。で、目的地はアルモスを越えて、アーリントンってとこか?ソフィーリア=シルヴァ=シュトルーゼ=ベルム様よ?」
「!」
ソフィーが固まる。同時に俺は椅子を蹴ってソフィーを抱え背後に飛び下がり、間合いを取る。
相手は動いていない…過剰だったかもしれない。だがつい反射的にしてしまったのだ。しかたない。
「おいおいおい待てって。別に何かする気はねーって。てかカマかけただけだったが当りかよ。何やってんだよ王女様よ?」
何故バレた?それに王女、だと?それなりに身分は高いだろうと思ったが、まさかまた一国の姫様に召喚されていたとは…
兎も角俺には彼女の素性も知れないし、油断はならない。警戒を解かず語りかける。
「何故分かった」
「ハッ。黒目黒髪の男に、菫色の瞳に黒髪の女。バカでも見当がつくぞ?<召喚の夫婦>だってな。」
…ソフィーが黒髪だったから気にして無かったが、黒髪は珍しいのか?
「流石は村長さんですね。王家の特徴だけで無く私の名前までご存知でしたか。」
俺の胸に抱きかかえられたソフィーが硬直を解き、話しかける。
「この国の姫様だしな。あとオレを呼ぶときは「オサ」でかまわねぇ」
「分かりました、オサ。…ユートさん、大丈夫です。ばれないなんて思ってませんでしたから。ちょっと驚いただけです。」
「…追手とは関係無い、のか」
「追手、ねぇ…こんな場所に居るのだから訳ありとは思ったが、キナ臭い話みてぇだな。だがまぁ安心しな、この村は見ての通りただの辺境の些末な村さ。貴族や王家のゴタゴタなんかにゃ一切関係ねぇ、強いて言えばモンスターに襲われて困ってる、程度だな。」
「………」
冗談めかして言ってはいるが、その目は真剣だ。
確かにこの世界ではモンスターに襲われる事は死活問題に直結するのだろう。
必死さすら感じられた。
彼女の言葉に嘘はなく感じる、ただの直感でしかないが…信じられるのか?
ソフィーに視線を送る。…頷かれた。
ゆっくりと、抱きかかえていたソフィーを降ろし再び席につく。警戒は解かない。
「おいおい今代の<召喚されし者>は何モンなんだ…見たところ<意言の首輪>もつけてねーし、てかその殺気やめてくれないかな。息が止まりそう。」
「ユートさん」
ソフィーが首を振る、仕方ない、警戒を解こう。だがその前に警告はしておく事にする。
「…俺はこの国の人々の心情とか情勢は分からない。だがコレだけは言っておく。ソフィーを害するなら、許さない。」
「そんな気はねぇさ、何もしねぇよ、オレの祖先に誓っても良い。心配すんな。」
「…話を戻しましょう。私たちが討伐隊でない事は理解していただけたでしょうし。」
俺が警戒を解き、剣呑な空気が若干和らいだ所でソフィーが話題を戻す。
「この村は現在、3匹の<甲冑猪>に襲われていて、早馬でアルモスの詰め所に救助は求めたが、少なくとも討伐隊到着に後3日はかかる。そうですね?」
「概ねその通りだ。討伐隊が後3日で来る訳がねぇと思うがな。…まぁ、そこのヤスが『討伐隊が来てくれた!』って転がり込んできた時は奇跡を信じかけたがな。」
ジロリ、と縮こまっているヤスさんをオサが睨む。見た目10歳程度の少女に睨まれ縮こまる三十路の男性。シュールだ。
後ヤスさん、やっぱり話をちゃんと理解できてなかったのか…
「それで、わざわざオレんトコに顔出した理由は?正体がバレるのも承知だったみてぇだが?」
「私達には特に要求はありません。ただ今夜<甲冑猪>を討伐してアルモスに向かいます。」
「…えらく自信満々に言うんだな?モンスターだぞ?それに、要求もない?」
「私は王族、可能である限り民の生活を守る義務があります。それにそれだけの自信に足る理由もありますので。…私達は5日前に<召喚魔術>を行ったばかりです。そう言えば分かってもらえますよね?」
「確かに5日ぐらい前に急激にマナが薄れた感はあった。でも、確か予定は3年後だったろ?それにあの森を5日で抜けてきたってか?2人で?」
「そうです。」
オサが猛烈に怪訝な顔をする。
「…………本当なのか?ありえないだろ?お宅の軍の精鋭部隊でも1月はかかってたろ?」
「そうですね、ですがそれでも事実です。証拠を見せた方が良いですか?」
「ああ、有るのなら是非、見たい。」
「ユートさん。鞄を見せてあげて下さい。」
鞄と聞いて腰を見下ろす。途中中身がかなり多くなったので2つ目を貰っていた。
その鞄を2つともベルトから外してオサに手渡す。
…ソフィーに呆れられた俺のコレクションだ。
思い出して、少し、悲しくなった。
手渡された鞄を怪訝そうな顔で一通り眺めてから、中を覗いてオサが固まった。
と、思ったらそのまま凄い勢いでまくし立てる。
「おいおいおいおいおい、なんだよこれ!?<狂乱鳥><双頭蛇><木人樹><犬狼樹><雪毛鹿><甲冑猪>に<晶眼蟲>!?…何でも有るぞ?それにこっちには…こいつは<甲盾熊>の盾じゃねぇのか!?すっげぇ!300年そこそこ生きて来たがこんなサイズは初めて見るぞ!すっげぇ!!」
…すごいテンションだ。そしてソフィーさん。何その顔、すごく自慢げですね?ドヤ顔?
「お、お、いいなぁこれ、<伐採鼠の歯>、ぱっと見で30本近くあるし何本かくれない?
コイツ使ったクワや斧はほんと性能よくってさぁ、欲しかったんだよ………」
…さっきまでのシリアスな空気は何処に行ったのか、オサが眼をキラキラさせて上目遣いで俺に聞いてくる。
「な、な?こんなにあるんだ。話通りだとお前さんらにはチョロかったんだろ?幾つか分けてくれよ。色々融通するからさぁ…」
ソフィーに目配せをする。どうしよう?
「ユートさんのお心のままに。私は構いません…どうせ私倒してないですし。ぷー…」
むくれた。
「おお?これは!<闇夜狼の刃>!…これは鎌に使うのにピッタリなんだよなぁ…ほしいなぁ…」
なんだろう、欲しい、欲しいと欲目を言っているのだが、邪気というか汚いモノを感じない。
まるでオモチャの山を前にした子供のようだ。まさに見た目の歳相応な感じ。
なんだか一気に毒気を抜かれてしまった。警戒してたのがバカみたいだ。
それに不遇だった俺のコレクションもこんなに大好評。なんだか気分も良くなってくる。悪くない。
クスリと笑って答える。
「良いですよ。ええと、歯と刃を幾つかですね。それじゃ代わりに宿と食事をお願いします。こんな状態ですが余剰がありましたら食料も頂けますか?まだ旅は先が長いようですので。」
「ぇ?マジ?分けてくれんの??こんなの1つあれば10日は宿とれるぜ?大丈夫か??頭?」
何気に酷いことを言われたが、なんだかもう気にならない。
オサの事が大体分かった気がする。歯に絹着せない人なんだろう。それも全く。
「えぇ、何せチョロいものだったので。折角知り合ったんですから親交の証という事で、差し上げますよ。」
「うっひょー!お前いいヤツだったんだな!目つきわりぃなコイツ、ムカツクし。とか思って悪かった!愛してるー!」
文字通りテーブルをピョンっと飛び越えたオサが首に抱きついてきて頬にキスをされた。
うーむ。300歳そこそこと言っていたが外見は10歳程度。飛びつかれても軽い軽い。
「そうと決まれば部屋とか用意するぜ、おいヤス!シズクとアンナ呼んで来い。晩飯作らせるぞ!」
「わ、わかりやしたー!」
首に巻いた腕を解き、ピョン。と軽い感じにオサが抱きついた俺の首から飛び降りヤスさんに指示をする。
「さって、オレは部屋の用意をしてくるぜ。あんたらはこれからどうする?ヤツらは夜行性だからまだ当分こねぇし、村でも見て回っとくかい?」
どうしようか?と思ってソフィーに確認しようとして視線を回し…止まる
凄くニコニコと満面の笑顔を浮かべこちらを見て、ピクリとも動かないソフィーがそこに居た。
何故だろう、笑顔が怖い。笑顔の後ろから黒々としたオーラが放たれているような…
「ソ、ソフィー?」
「はい、なんでしょう?ユートさん」
「これからどうしよう?夜まで時間が結構あるみたいなんだけど?」
「どうしてくれましょうか?」
…何かおかしな言い方だったような
と、不穏な空気を放つソフィーに戦々恐々としていると、
俺から離れたオサがソフィーの傍へトテトテと歩いて行き、何かを耳打ちする。
なんだ?
「実はよ、…………なんてどうよ?……だろ?」
「………魅力的ですね」
「そうよ、どうせ朴念仁なんだろ?なら…………」
「なるほど、そんな方法で…………」
「あとほら…………………すれば」
「いいですね………」
「だろ?だから……………えないかなぁ?」
「……………分かりました。説得してみせます。」
ナンダロウ。何カ不吉ナ予感ガスル。
「ユートさん。食料を融通して貰えるそうです。あと服の洗濯等もして頂けるそうですので、今夜と明日の夜は宿泊させていただいて、明後日の朝にアルモスへ向かいましょう。」
オサと小声で何か話し合っていたソフィーが話を終え、こちらに語りかけて来た。
…さっきと違い黒々とした気配は無いのに、ものすごい不安になる笑みだった。
最近ストック消費量>書き溜め速度になっているので焦りが出ているのか
ちょっと展開が強引だったかな…?と考える昨今。
先達の皆さんの文章力と構成力と胆力に感心し続ける毎日です。