7-2<第一村人>
第一村人が現れた。どうしますか
[>はなす
ほおっておく
………
脳内で浮かんだゲーム的な想像を散らす。いやいや流石にこれは失礼だろう。
走ってきた第一村人は、まさに農村村人テンプレのようなボロッとした服を纏い、履物も草履のようなもの。
顔も薄汚れていて赤茶けた髪はボサボサの短髪30代。と言った出で立ちだった。
「こんにちは」「こんにちは」
とりあえず二人で挨拶をする。
「あ、あんたら…ハァハァ…何処から…来ただ?」
帰ってきたのは質問。走ってきたせいで息が切れているが、はて、そういえば何処だ?
日本?前の世界?狭間の世界?いや、そういう答えは求めていないだろう。となると…
「神殿…からかな?」
「ユートさんっ」
しまった、つい口が滑った。ソフィーが慌てて俺から続く言葉を防ぐ。
「神…殿…?アルモスの街からでないのか?」
「あ、いえ、そう。旅の途中神殿で巡礼をしまして、王都に向かったのですが、その後ちょっと道に迷って森に入ってしまいまして、仕方なくウルラス川を下って来たのです。」
ソフィーがフォローをする。だが声が上ずってしまっている。正直、苦しい。
「森に?そりゃ災難だったなぁ…ここはオサの村だ、旅人さんよ。今はちっと立て込んでるが歓迎するよ。」
「あの柵ですか。」
どうやらソフィーの機転は苦しいながらに成功したようだ。
村人の男性と3人で柵に向かって歩きながら話す。
「んだ、実は1週間程前にな、モンスターが来たんだ」
「そんな、ウルラス川を越えられないはずなのに…」
「んだ、今までも越えてきた事はなかったんだ、んだが何故か1匹だけ来た。」
「それであんな事に。」
「あぁ、最初は1匹だったんだが、ヤツはここ数日で急に増えおってな、昨日なんて3匹が畑を荒らし、それだけに飽き足らず家畜や家を襲ったんじゃ」
前にソフィーが言っていたモンスターの増え方を思い出す。
新しく来た訳でなく分裂をしたのかもしれない…?
「討伐隊は…軍の詰め所かギルドに連絡はしなかったのですか?」
「こんな辺鄙な村には両方無いだ…」
「そんな、でしたら最寄の所は…」
「村からだと馬で5日ぐらいの距離のアルモスじゃ…」
軍は兎も角、ギルド?民間の対モンスター対策組合でもあるのだろうか?
ともあれ連絡して、討伐隊が準備をしてここに来るとしても最短で10日以上、ということだ。
そして1週間前に使いを出したとしても、最短であと3日。準備やら何やらで確実にもっとかかるだろう。
「それでは、このままでは…」
「だから柵を作っとるんじゃ。あいつらは食うばかりで壊すのは2の次じゃからな、柵向こうに食料が有ればわざわざよってはこねぇ」
だが、それでも後何日持つか…
村人が消え入るように呟いた。
「………ユートさん」
「…いいのかい?」
ソフィーの言いたい事は声音と表情に分かりやすい程出ていた。
なんとかしてあげられませんか。と。
勿論出来る。しかし俺達は追われている身だ、目立つ行動を起こして良いのだろうか…?
「私には見て見ぬふりは出来ません…」
「フフ、そっか。じゃあ異存は無いよ。これでも元・勇者、人助けはライフワークだったからね。」
くすり、と笑って快諾する。
「ライフワーク…?」
「生きている限りやるべき仕事って意味。」
「生きている限り…すごいです…」
…マールが聞いてたら『カッコつけおってからにー!』とからかわれそうなモノだが、
ソフィーは純粋に感動したようで、尊敬の眼差しでこちらを見つめてくる。は、恥ずかしくなってきた。
思わず目を逸らし村人へと向き直る。
村人は会話の意味が分からなかったのだろう。「?」と言った感じの疑問符を浮かべている。
だから伝える。分かりやすく、端的に。
「俺がモンスターを退治しましょう。今夜にでも。」
「!?」
村人が驚愕する。
「で、ででで、できるだか!?」
「できます。」
「大丈夫ですよ、ユートさんにお任せ下さい。」
「ほ、ほほほほ、ホントだか?モンスターだぞ?」
「何のモンスターか分かりますか?」
「<甲冑猪>だ、<甲冑猪>が3匹いるだ!」
「<甲冑猪>ですね。問題ありません、コイツ……ですよね。」
鞄を開き、中から<甲冑猪の牙>を取り出す。
村人が目を見開き、そのどう見ても金属製っぽい2m近くある巨大な牙を見つめる
「あ、あんたら森に入ったって言ってたな?討伐隊だったんだか!?」
「そういうわけでも…」
「と、ととととにかく、そうだ、オサに、オサに連絡するだ!」
村人が転びそうな勢いで走っていった。
「…追いかける?」
「えぇ、ゆっくり歩いて追いかけましょう。」
ソフィーが嬉しそうに微笑みながら、俺の腕に自分の腕を絡めて歩き出した。
主人公、調子に乗るの巻。
ここからは暫く平和な話が続きます。