5-1<閑話過去>
いつも自分は一人突出し、魔族を殲滅していた。
誰かの援護なんて貰う事はそうそう無かった。
自分は勇者で、規格外の存在で、並び立てる者など存在しなかった。
だからあの日も攻めてきた魔族の大軍団相手に一人突出し、かく乱し、殲滅し、勝利して戻った時に初めて聞かされた
終わってしまっていた事を。
地理的に人類側の領土の最深部にあり、何重もの大結界に守られていた筈の皇都が。
一番の安全地帯だった筈の首都が。自分の帰るべき場所が、滅ぼされていた。
奇襲、だった。結界の盲点を付き、地下五千mを掘り進み、結界の要の塔を地盤ごと崩落させ、破壊し、
溶岩すら物ともしない魔族たちが街の中心に躍り出たのだ。
最大の安全地帯は地獄と化し、あっという間に人々は殺しつくされ、散り散りになった。
そして、その中にはユートにとって大切な人も含まれていた。
第九皇女、メルティオーナ=オル=レナルグス
ティーナと呼ばれた<召喚の姫>
かつて、一人の欲に狂った王に召喚された魔王によって9割の大地を奪われ、
滅亡寸前の人類が起死回生の希望を込めて行った<勇者召喚>
それはかつて狂王が行った<魔王召喚>を改造しただけの、人道にもとる魔法だった。
魔力の高い一人の姫を生贄の鍵とし、17人の術者の命と捕らえた10体の魔族を生贄に勇斗は召喚された。
まだ14歳の頃だった。
手段を選ばなかった皇帝は、言葉も分からず、混乱する勇斗に強引に<強化魔法>を植え込み、生死の境を彷徨わせた。
定着し、安定するまで勇斗の体は何度も砕け、再生を繰り返した。あまりの激痛に何度も正気を失いかけ、いつしか己の境遇を、こうなった原因を、ただ憎むだけになっていった。
だが、そんな折に出会った。<召喚の姫>として生贄に使われ、自らの<魔導心臓>の9割を失うも生還したティーナと。
お互いの通じない言葉を超えて献身的に看病するティーナに、荒んだ心と傷付く体を癒される。
そして徐々に言葉を学び、心も取り戻し、…恋に落ちた。
かつて腹の底から湧き上がっていた憎しみは、恋の前では些細な事だった。
ティーナの為に魔族を倒し、大地と平和を取り戻す。
勇者となった勇斗は破竹の勢いで魔族を殲滅し、人の領地を広げていく。
そして召喚されて2年。3割程の大地を取り戻したころだった。
皇都が陥落した。
皇城に居た皇族は、皆その場で殺されるか、捕まり処刑された。
そしてその中に勇斗の妻となったティーナと生まれたばかりの二人の娘、フィオナも居た。
全てが終わるまで勇斗は何も気づかず、ただ陽動として攻めてきた大軍団を殲滅していたのだ。
人類は最後の拠点と指導者を失って散り散りとなった。
軍隊は統制を失い、補給を失い、次々と殲滅され消えていった。
もはや残党狩り。人類は絶滅していく。
最後まで戦った仲間が戦死し、餓死し、絶望し、…自殺する。
召喚されて3年目、勇斗は最後の一人となり、数多の魔族を屠り、ついに魔王城へと単身乗り込んだ。
生前のティーナが教えてくれた元の世界に帰る手段を得る為に。