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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第1章 二人の逃避行編
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1-1<召喚の儀式>

静寂の中、ちゃぷり、と水音が響く


…ついに、この日が来た。


私は今、全身を<清めの泉>に満たされた聖水で清めている。


…チャンスは一度、失敗は許されない


これから、私は<召喚魔術>を行う。




この日の為に準備をしてきた。


まず決行日。予定より3年も早い。さらに私の誕生日である今日を選んだ。


今日の夜には王城で私の誕生パーティーが行われる。そしてその会にこの神殿の人達を呼んだ。


言い訳には「3年後の<召喚魔術>について今から色々話を聞きたい。」と言っておいた。


その結果、位の高い神官達はこぞって出払い、神殿に残って居たのは下位の神官や下働きの者ばかり。


滑稽だった。どうせ誕生日パーティーと言った所で私は遠巻きに挨拶をするだけ。


実際に参加していても、護衛がだれも近づけさせてくれなかったろう。


だがそのおかげでさしたる抵抗も無く全員を一所に呼び集め、催眠効果のある香であっさりと昏倒させる事に成功した。


だから今、この<召喚の神殿>はほぼ無人。と言って良い。




さらに思考を進める。


<召喚魔術>の為に必要な神殿の7つの<神聖魔晶石>に、必要最低限の魔力が溜まっていることは2年も前に承知している。


私の魔力不足を補うため、お爺様が用意してくださった<マナ結晶>は7つ。これは、過剰…とも言える量だ。


魔力面に対しては万全、と言えるだろう。お爺様に改めて感謝する。


召喚後の対策も用意してある。


召喚に成功しても言葉が通じないらしいので、会話用の魔道具を用意してある。


そして、召喚後2人で叔母の家族の治めるアーリントンまで逃げる為に、馬車を用意している。囮用もだ。


その馬車で騒ぎになる前に近くの街へと入り、後はワイバーンで空を行けば10日とかからずにたどり着けるだろう。


同伴した護衛騎士はわずか5人。家柄は決して良くは無いが、お義姉様の見出した確かな実力と信の置ける者達だ。


アーリントンまで命を賭して私達を送り届けてくれるだろう。


……後は、私次第だ。




ざばり、と清めの泉を出る、体を拭く必要は無い。


用意しておいた儀式用の薄絹を纏う。


殆ど1枚の布生地に、頭を通す為の穴が開いていて、脇と腰の4箇所のヒモを縛るだけの簡易な衣装。


全体に召喚魔方陣の中心鍵になるための魔法糸が丁寧に縫いこまれているが、


水に濡れて肌に張り付いたそれは完全に透けており、少し…いやかなり恥ずかしい。


それでもこれが召喚の儀式での最高の正装。


成功率を上げる最高の衣装。




ヒタ、ヒタ、と水を滴らせながら儀式の間へと向かう。


今日<召喚魔術>を行う事は、殆ど誰にも告げていない。お姉様にも、叔母様にもだ。


知っているのはここに居る護衛の5人だけ。今王都で私の身代わりをしているだろう影役のルーシアですら知らない。


「お忍びで1週間程出かけたいの、お願い。」と言いくるめ王都を飛び出した。帰るまで7日と言ってある。つまり後4日。騒ぎにはまだ、ならないはずだ。


そこまで徹底してやった。だから、だしぬけるはずだ。いや、だしぬいたはずだ。


今更こんな所で、邪魔をされる訳にはいかない。




儀式の間の扉の前に2人の護衛騎士が居る、清めを終えた私が扉に触れる訳にはいかない。


だから何も言わずとも彼らは扉を開き、私が中に入ると閉めてくれた。




儀式の間を見渡す。高い天井、丸い円形の部屋。今は正午を過ぎた程度の時間のはず。室内は差し込む陽光でかなり明るい。


さらに部屋の端ににぐるりと円形配置された7つの<神聖魔晶石>も、薄ぼんやりと光を放って部屋の明るさを増すのに一役買っている。


視線を正面に戻す。


中央には部屋の大半の面積を占める足首程度の浅い円形のプール。


今満たされているのは魔法で作られた水、<魔法水>だ。




足首程度の<魔法水>で満たされた泉の中央へ向かい、用意した<マナ結晶>を周囲に配置する。


慎重に配置を終え、中央で仰向けに寝転び、祈りをささげるように手を胸の上で組み、瞳を閉じる


私は鍵になる。世界の壁の扉を開け、<召喚魔術>を発動するのだ。




静寂が降りる、何の音もしない。


意識を広げ、魔力を解き放ち魔方陣を描く。途中配置した7つの<マナ結晶>を補助とし、儀式の間に満たされた<魔法水>の隅々に意識を通す。


魔方陣の形は完全に記憶している。この段階ではまだ万に一つの失敗すら有り得ない。


魔方陣が出来上がり光を放つ。さらに7つの<神聖魔晶石>が光を強め、煌き出す。



「―Zeow ie poru Ttim-se, TttaE oa d'unmitffetE esnein Ooor dana Maui [mch] teeuleent MintT―」



まるで歌を歌うように唱える。


何年も何年も繰り返し記憶した呪文。



(―開け扉よ。異界の門よ。時は、魔法は、満ちている。さぁ、今こそ開け、時空の門よ―)



呪文の意味を思考する。言葉として出ているのは専用の魔法言語だが、何度も何度も繰り返し学んだので意味もきちんと覚えている。



「―Thild f Ce monde de pouvoir tnser―」


(―この世界の、力を、譲りましょう―)


「―Thild wee oue mousvA, eneiloe Pseed―」


(―この世界の、一部を差し出しましょう―)



7つの<神聖魔晶石>から放たれた7つの光が交錯し、儀式の間の中空に真っ暗な扉が開く。その見た目は扉と言うよりは、穴と呼んで良い気がする。



「―Thild ae ldy Pr ..Unneesse Pouruaoir.. tve―」


(―この世界には、もう、力は、必要無いのです―)


「―Ttild anfurr AcC monut ..Hareay ..Yoay Noe..―」


(―この世界には、もう、これ以上、無くて良いのです―)



開いた扉に恐ろしい勢いでマナが吸い込まれていくのを感じる。この二十余年でこの大陸に溜まった余剰マナが吸い出されていく。


物凄い速度だが、その量も物凄い。なかなか終わらない。この段階が終わらないと、次の段階には行けない。


歴代の巫女の2/3程度しかない私の魔力が、減っていく。



「―Bearce iq'ils Aeemak―」


(―だから、お願い―)


「―Mmoy.. [daaar] ineua ofe olsey oe innez-let―」


(―だから、代わりに、一つだけ、私に、与えて下さい―)



呪文が進み、ついにマナの奔流が緩む。ここだ。祈るように組んでいた両手を開き空中の門に向かって伸ばす。


7つのマナ結晶の補助を受け、私の両腕から魔力で出来た光の腕が伸び、扉に向かって伸びる。



「―Lrsonn ers iI dfare―」


(―私の、為の、ヒトを―)



光の腕が扉を抜けて進む、この扉が維持出来ている間に掴まないといけない。


その感覚は完全に未知、カンに頼って必死に手を伸ばして探る。


………何処に、居るの?


焦るな、私。必ず見つかると聞いている。



「―Iattt oa achend―」


(―祈りよ、届いて―)



呪文が完成する。私の魔力も限界に近い、あと少し維持するのが限界だ。


………やはり私の魔力では足りなかった?間に合わないの?


そう思い、心が弱気な方向へ流れかけた瞬間だった。私の周囲の時が、停止した。




停止した時間の中、光の腕だけがすごい勢いで扉の向こうへと進んでいく。


今までの私の意志で探るような感じではない。何かを目指すかのように、真っ直ぐ。ひたすら伸びていく。


そして


ついに、腕が何かに触れた。


時が、再び動き出す。




激しく室内が輝き、扉が消えて無くなる。<神聖魔晶石>が色を失い魔方陣も霧散し<召喚魔術>が終わりを告げる。



ばっしゃぁん、と


何かが、突き出された私の両手の間に抱きとめられるようにして落ちた。


思わず、触れる。柔らかく、暖かい温もりを感じる。そして分かる。これは人だ。



ずっと閉じていた目を開く。私の目に映ったのは真っ黒の髪とこちらを見つめる真っ黒の瞳。<召喚されし者>についての文献どおりの外見。


少年…いや青年?歳は私とあまり変わらないように見える。17,8と言ったところだろうか?



…よかった


歓喜と、安堵の気持ちが降りる。やった。<召喚魔術>は成功したんだ。


だが、それと同時に自分の状態を再確認してしまう。


彼に組み敷かれて、薄絹もはだけてしまっているような…。


薄い貫頭衣のすそが捲れてしまって、太もものあたりが空気に触れてスースーするような……



つい気になって視線を落とす。


そして気づき、目撃する。





彼は全裸だった




初めて、見る、男性の、アレが――――



頬が、いや、最早顔全体が物凄い勢いで赤くなっていくのを感じる。




「―――――――――――――ッッ!!!」




私は咄嗟に声にならない悲鳴を上げ、彼に全力で平手打ちをしていた。

兎にも角にも1話目となります。ある程度書き溜めていましたのでキリが良い所ぐらいまでは投稿の練習で出してみたいと思います。

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