4-2<甲盾熊2>
「何か、大きなのが来る。10mぐらいはある。」
夕食を終え談笑しつつ、そろそろ寝らせていただきますね。という時にユートさんが言いました。
大きなモンスター、10m、この森でそのサイズのモンスターは最大級。…確か<甲盾熊>だけ。
私の知る限り、一般の討伐隊がこの熊に遭遇した場合、命からがら逃げ出して逃げ切れた幸運な者意外に生存者は無く、<召喚されし者>を含むような精鋭メンバーによる討伐部隊が、比較的弱い時期に幾人かの犠牲を伴って倒すようなこの森最悪のモンスター…。
…この森最悪。
それでも、これまでのモンスターを危なげなく一撃で葬っていたユートさんなら、
きっとあっさり倒してしまうのでは。と楽観していました。
だけど、「行ってくる」と行って大きなモンスターに挑んだユートさんはなかなか帰ってこず、
木がベキベキと倒される激しい戦闘音と「ゴアアアアア!」という物凄い叫び声がだんだんと近づいて来ます。
私は血の気が引いて行くのを感じていました。
どんなモンスターでも一撃。
だから今回もきっと大丈夫。と思っていました。
だけど、ずっと音が聞こえる。近づいて来ている。
震えが来ました。
何も出来ない。
私は足手まといでしかない。
私にはここで震えているしか出来ない。
…彼が、死んでしまう?
思考が悪い方向に流れ、弛緩し忘れかけていた気持ちが、堰を切って溢れ出す。
入念に下準備をし、<召喚魔術>を決行したあの時の気持ちが、
祖父の想いを、母の無念を、そして自分の幸せを掴もうとしたあの時の気持ちが、
悲劇を繰り返させないと、私が無念を晴らすとあの日母の墓前に誓った気持ちが―――。
………行こう。
私が行っても倒すための手伝いは出来ないかもしれない。
それでも母譲りの時空魔法なら足止め位なら出来るはず。
そうだ、その隙に逃げられるかもしれない。
いや、ユートさんの足ならきっと振り切って逃げられる。
彼を、ユートを助けるのだ。
彼は、私の為の人。絶対に、死させたりは、しない。
――させるもんか。
もう音はかなり近づいて来ている。
私は立ち上がり、薄ぼんやりとした月明かりの中、音のする方へと走り出していた。