4-1<甲盾熊1>
あれからさらに2日、順調過ぎる道行に森もその3分の2程を終えた4日目の夜。
食事も野宿も4日目ともなると慣れたもので、2人で手分けしてテキパキとこなし、
また取りとめも無い会話を交わした。
そしてソフィーがそろそろ眠りにつこうか、という直前に事は起こった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
ギイィンと耳障りな音を立て、最後のナイフが弾かれ闇に消える。
頭頂部から背の半ばと腕の外側全面を覆う甲殻のようなもののある熊に似たモンスターが、
10mはあるだろう巨体を丸め、その甲殻の手甲部分で頭部に向けて投擲されたナイフを弾いてた。
「やはり魔力を込めても投擲では貫けないか…!」
今投げているのは最初に使っていたナイフではない。途中で<刺突兎>から手に入れた角そのままだ。
どうやら兎は角を研いで鋭くする習性があるらしく、柄の部分が加工されて無いだけで刃の部分は全くナイフと遜色が無かったので、スローイングナイフ代わりに使用していたのだ。
それを20数本、手甲で何本か弾かれたとは言え、かなりの数を体に打ち込んでいるが、熊は衰える気配が無くむしろ猛り狂っている。
さらに失敗だったのは、ナイフが効かないならばと剣で切りかかった際に、その太い首に突き立て、切り裂ききる前に猛然と暴れられ、剣をへし折られてしまったのだ。
相手が巨体だったためにか致命傷も負わせられなかった。非情にまずい。
そう、もう武器が、無いのだ。
他のモンスターの素材は武器としては加工しなくては使えそうに無く、
<硬固>のかかってない槍ではお話にもならない。
かといって素手でどうにかするには巨体過ぎる敵。
あまりにモンスターに歯ごたえがなかったから、油断していた事も有る。
「まいった………ね!」
「ゴアアアアアアアアアア!!」
怒り狂った熊が両腕の爪を何度も何度も振り回し迫る、かわし、噛み付きを掻い潜り、その横っ面を殴る。
甲殻は無くとも毛と脂肪と筋肉。どれも分厚い。貫けない。これではどうにもならない。
ゲーム的に言えばHP10万の敵に1発1づつダメージを与えるが、10秒で1000回復されているようなものだろう。
千日手、だ
「…<攻撃魔法>を使うしかない、か?」
ソフィーに<生命強化>をかけてから2日半、消耗した<強化魔法>への供給に費やしていた為自由に出来る魔力はそれ程回復しておらず、攻撃魔法を使うのは躊躇われる。
失敗した、と思う。ついいつもの様に<強化魔法>を充実させる事に拘泥してしまっていた。今はそれを込めても砕けない剣も無いというに。
…今の魔力残量だと使えて消費の軽いものを1~2発。
詠唱途中に攻撃されても集中が途切れたりはしないだろうが、製造過程の魔法を壊されるとそれで魔力切れだ。
「それでも…ソフィーの所まで来られても、困るもん、な。」
熊の爪をかわしながら考える。
ソフィーの周りにはモンスターは居ない。この熊が恐ろしいのか、周辺には今他のモンスターが一切居ないのだ。
だから安全ではある。が、こいつを何とかしないとその限りでは無くなってしまう。
「やるしか、ないか」
本来の威力は出せないだろうが、今の魔力でやるなら恐らくコレが確実だ。
使用する魔法を決め、それを使うために下準備をしよう。と思ったとほぼ同時ぐらいだった。
突然動きが鈍った熊が空中の何かを鬱陶しそうに払い、違う方向に注意を向けた。
何だ?何が、と思い熊と同じ方向に視線を送るとそこには
立ち止まり、両手を前に突き出した姿勢で熊を睨むソフィーが居た
ついに魔法を…と見せかけてまだお預け。と言う回でした。