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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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8-4<それぞれの戦い、追う者たち2>

『………凄まじい執念ですね』



レキが呟く。


足止めを行わせた<ヴイーヴル>を神殿ごと滅茶苦茶に切り伏せ、走って追いすがられた時も唖然としたが、徐々に飛行に慣れ、今度こそ振り切れると思ったのだ。


それが今度は…


背後を確認する。


そこに見えるのは、<ヴイーヴル>に乗ってグングンと接近してくるフィオとユート。



『そこまでして私を殺したいのですかね? それとも貴女が目当てでしょうか?』


「わかりません。ですが、私は後者で有って欲しい」



操り人形に成り下がったソフィーが答える。



『ふふ…まぁ、どちらでもいいですか。ソフィーリア様。迎撃をお願いしますよ。貴女も使えるのでしょう? <神殺しの刃>を』


「可能です」



レキがソフィーを包み運んでいた翼を器用に動かし、翼の上にソフィーを乗せる。



『では、お願いします。貴女の祖が使った<神殺しの刃>見せてあげなさい』


「はい。

 ―Itsn beeabt aner Mett en cotompy―

 ―inage Ssentimedu cill enttel―

 ―J'don otau tollori Japositmais rl vowely―

 ―Thild isc venny argn Arcee kllvos sssined―

 ―Mndae ett―

 ―<時空裂断>―」



詠唱が終わり、魔法が発動した瞬間。ソフィーの前方の空が、ずれた。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「フィオ! あれが何か分かるか!?」



目の前に無数に見える空のズレを指し、確認する。



「……初めて見ます、けれど…<時空裂断>だと思います。……かつて初代女王が王竜を倒すために駆使したと言われる魔法です。……ソフィーリア様なら、使える筈です。」



<時空裂断>。名前を聞いただけでどういう魔法か見当が付く。つまり、あの空のズレは空間がずれて見えていると言う事か。


そして、またソフィーを操り、利用したという事に怒りがこみ上げる。



「……どう、しますか? ……あれは対魔法障壁でも防御不能の魔法です」


「突っ切ってくれ。俺が砕く」


「……承知、しました」




手綱も鞍も無い、不安定極まりない<ヴイーヴル>の背に立ち、一番手っ取り早い手段で砕こうと<勇者の剣>を振りかぶる。



この程度の魔法は魔族でも使う。対策が無い訳が無いだろう!!



苛立ち混じりに振るう。進行方向上の邪魔な魔法を切り裂け、と命じながら。


パキパキパキパキと高い音を立て、薄氷を割るかのように空に幾つもの線を作り出していた<時空裂断>が砕け、散る。



砕かれた<時空裂断>が細かな光の破片となって舞い落ちる只中を、


そのまま<ヴイーヴル>が最短距離でつっきり、レキの斜め下方向から急接近する。



「なめるなあああああああああああああ!!」



すれ違い様に切り付ける。



…意識したつもりは無かった。


だがレキを狙って振るったその剣は、ソフィーに直撃するのを避ける軌道で走り、鋭さを失っていた。


それでも、片側のソフィーが乗った翼を含む7枚が纏めて切り裂かれ、ソフィーが宙に舞う。



くそ、外した!! もう、いち、どっ…!?



振り切った剣を、再び振るおうとする。


けれども不安定な足場にバランスを崩してしまい、返す刀での一太刀を繰り出すタイミングを損なう。



ああ、くそ、あっちは後回しだ。



致命傷では確実に無いだろうが、それなりの手傷を負わせた。


それに<ヴイーヴル>の方が速い以上ヤツはもう逃げ切れやしない。


…今はそれよりも



「フィオ! 追ってくれ!!」



何を、とは言わない。


俺の意図を過たず理解し、フィオがヴイーヴルを急旋回させ墜落中のソフィーを追う。



羽ばたかせ、加速し、一気に追いつき…手を伸ばせば届く距離にまで近づく。


抱きとめる為に、<勇者の剣>を解除する。


と、同時に<女王螂の剣>で出来た刀身は砂塵となって散った。


刃の維持にこそ成功していたものの、解除してみれば流し込んだ魔力に耐え切れていなかったようだ。



…外周に纏った<勇者の剣>が殻になり、散る事を防いだが為に維持できていただけ、か



役目を終えた剣の柄を手放し、今度こそ手を伸ばし、捕まえ、抱きとめる。



…やった。取り戻した。



安堵が、胸を包む。



「……ユートさん! 腕輪を!」



フィオが叫ぶ。そうだ、<傀儡子の腕輪>を取らなければ…


目ざとく確認し、掴み、そのまま握りつぶし、引き千切る。


一瞬ビクンッと痙攣し、後は完全にぐったりとする。気絶、しているのか。


ともあれこれで、ソフィーは自由になった。


後は、レキだ……



フィオと合流し、ソフィーを取り戻し、いつの間にか鈍り薄れてしまっていた意識を再び黒に染め上げる。


剣を失ったが新しい剣を取り出すのも面倒くさい。


人質が居ない今、遠慮はいらない。


吹き飛ばして…いや、まずは氷結呪文で体内から切り刻んでやる。マールの1/100でも苦しみを味わって、死ね。



「―Cahes terrst smipalch Nd……」



詠唱を始める。眼前に人の頭大の水球が作り出される。


この水球が砕け、飛び散り、動物に当ると水滴が口腔等の穴という穴から進入し、さらに体内で一気に結晶化する事で臓器をズタズタにする。


えげつなさならピカイチの魔法。


だが、魔法が完成するよりもレキが動くほうが早かった。



『よ、く、もおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』



<竜化>したレキの巨体がうねり、襲い掛かる。


片側の翼を半分以上失っているのに、その突進に鈍りは感じられない。


フィオが<ヴイーヴル>に急旋回をさせ、なんとかかわすのだが、


足場の悪い背の上でソフィーを抱えた俺は、揺れと増減する加重に上手く対応出来ずに集中が乱れ、詠唱を失敗する。



『堕ちろ! この下等生物どもがあああああああああああああああ!!』



今度はレキの頭部前面に火球が次々と発生し、打ち出される。


フィオもそれを必死にかわす。



「くそっ面倒くさい真似を!」



フィオがかわしきれなかった直撃弾を、直接拳で殴り、消す。


今のは俺への直撃コースだったから良かった。だがヴイーヴルに当てられたら面倒だ。どうする?



『…そういうことか! ならば、これで、どうだあああああああ!!』



ほんの一瞬対策を考えたその時、何かに気づき、レキが叫ぶ。


しかし、何かが飛来する様子も無い。


何を、した…?


そう思った瞬間、<ヴイーヴル>が急降下を始め、猛烈な速度でレキから距離を取り出す。



「フィオ! 何が…」


「……ごめん…なさい、……ここまでの、ようです。」


「どういうことだ!?」


「……魔道具が、砕かれました。ヴイーヴルの制御が、できません」



そう言った、フィオの腕が、肘から先が、無い。


だぼだぼだった袖は吹き飛び、ぼたぼたと、血を流している。


腕輪が、爆発した、のか?



「……腕に直接術式を書いて操っていた事に気づいて、こちらに割り込みで命令をして来ました……抗ったのですが…耐えきれませんでした…」


「止血を…」



しようとした。その瞬間だった。


ヴイーヴルが、下降を止め横回転しながら水平飛行へと以降し、天地が、入れ替わった。


騎乗用の補助具など、一切付いていない。


ソフィーは失神している。


フィオには、腕が無い。


皆、振り放され、落ちる。



「……ごめん…なさい」



フィオの懺悔の声が、空に消え入るように呟かれた。

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