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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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8-3<それぞれの戦い、追う者たち>

どすん、とヴイーヴルが目の前に不時着した。



『GIRAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』



だが負傷したせいか勢いを殺しきれず、叫びながら転がる。


…片翼は半分ほど千切れているが、それでもその程度では陸戦性能は然程劣りはしないだろう。


つまり、あれは現状でも<人型>よりも危険な相手。



「フィオさん、バルナム卿、お下がりください。ここは、私が」



アーリントン家のセバスチャンが、私達の前に立ち、語りかける。だが…



「……あれを殺さず、抑える事は……できませんか?」


「…といいますと?」


「……あれで、追います」



ワイバーンでは恐らく追いつけない。


人が乗るには適さないヴイーヴルだが、その速度はワイバーンよりも速い。


きっと、ヴイーヴルなら追いつける。



「無茶な! どうするというのだ!」


「……<傀儡子の腕輪>を作ります。術式回路は記憶しています」


「なるほど、承知しました…!」



そう言って駆け出す。流石はセバスチャン。理解が早くて助かる。


……彼が上手く抑えられるかは分からない。だが、今は<傀儡子の腕輪>を急いで作るほうが先決だ。



愛用の指先まで隠れる長袖の服の袖をまくり、肘から先を露出させる。


もう何の傷跡も無い、美しい肌がさらされる。


ふと、自覚せずにその肌に触れ、なでていた。


…やはり私は傷が癒えた事が嬉しいらしい。


そう、自覚する。



先ほどまでの<人型>との戦闘の折に回収しておいた<魔晶石>を取り出し、置く。


そして今まで使っていた防御用の腕輪を外す。


軽く息を整え、<魔晶石>に手を、乗せる。



「フィオ、私も押さえるのを手伝ってくる。頼んだぞ」



義父さんがそう言って母さんを私の傍に寝させ、セバスチャンの後を追う。


…猶予は、無い。


指先から魔力を<魔晶石>に流し込む。


ほんの数秒で、<魔晶石>が輝き、マナが溢れ始める。


<活性魔晶石>に変化したのだ。



これは熟練の魔道具技師にしか出来ない芸当。


<魔晶石>の癖を読み取り、適量の魔力を適切に流し込むことで鉱石化したマナを流動させる。


<魔導炉>が完成する前は技師が行わなければ<活性魔晶石>を作り出すことが出来なかった。


そしてこの<活性魔晶石>こそが、燃料にも、回路にもなる全ての魔道具に欠かせない材料。



手を、離す。5本の指先に糸の様に<活性魔晶石>からマナが繋がり、伸びる。


それを、腕輪に乗せて、今度は腕輪の金属の癖を調べつつ回路を上書きし始める。


慣れたものだ。


すらすらと書く。技師によってはこの工程に半日を費やす、慎重さと精密さと正確さを問われる工程なのに。


だが、問題ない。私の腕は精密機械のように正確に記憶にあるその術式回路をなぞり、ものの数分で1組の<傀儡子の腕輪>を完成させた。



……動作確認をしている暇は無い。義父さんとセバスチャンは?



見る、ヴイーヴルは仰向けに転がり、じたばたとしているが、その翼の付け根を2本のハサミが縫いとめ、さらにロープが張り巡らされてる。


完全に拘束している。見事な手際。流石はセバスチャン。


よし、後はこの腕輪を…と思った所でパキン。と腕輪が割れる。


さらに崩れ、原型を失う。



「……あ…」



……<自壊術式>だ。


ソフィーリア様に着けていたから解除したのかと思ったが、解除はされていなかったのか…


いや、そもそも解除など出来ないものなのかもしれない。


よくよく考えてみれば王都のものまでここから遠隔操作などできる訳が無い。


恐らく、本来発動している筈の自壊術式を広域で阻害する何かしらの魔道具を用意していたのだろう。


それを停止させる事により、一斉に自壊させる事を成功させた…そんな所か。



どうする…


対応策を思考する。


術式を解析し、不要部分を洗い出し書き直している暇はさすがに無い。


では試しに幾つか術式を削って実験するか?


だめだ。失敗する可能性は高く、材料も足りない。


では…壊れない物に<自壊術式>ごと書き込む? 例えば、まずは腕輪に自己修復機能をつけて…


だめか。術式が多すぎる。出来たとしてもかなりの大きさの物になるし、出力不足が懸念される。


そして、そんな大きな物を作るための素材は、ここには流石に無い。


思考する。


なにか抜け道は、ないか。


壊れない、もの。


モノ。





……



…………ある、じゃないか。



閃く。私に知りうるモノで、この15年間壊されても壊されても壊されきれなかったモノがある事を。



再び<魔晶石>を置き、<活性魔晶石>に変える。


そして右手に纏わりついたマナの糸を、



私は自分の左腕に押し付け、術式回路を書き込んだ。




「………あっ…ぐ、ぅ……」



炎で熱した剣で切りつけられた時と同じ痛みを感じる。


痛い。だが、知っている。こんなものは、私には効かない。


己の体を、筋肉を、骨を、神経を、魔法脈を、術式回路が貫き侵して行くのが分かる。だが、いける。このまま書き切れる。


左手に<傀儡子の腕輪>の送信側の術式回路を書き終える。


さぁ、どうだ。私の体内には<自動治癒>なるものが根付いて居ると言っていた。<自壊術式>と、どちらが強い?


もしか<自壊術式>が競り勝つならば、術式回路の侵食が体に及ぶ前に即座にこの腕を切り落とせばいい。


だが、私の目算では……


腕に、激痛が走る。自壊が始まっているのだろう。だが…崩れない。予想通り、<自動治癒>は競り勝ったのだ。



「……やっ…た」



成功した。


そのまま今度は左腕で<活性魔晶石>を作り、右腕に受信側の術式回路を書く。


つつがなく、完成する。


後は、あのヴイーヴルに乗るだけだ。


立ち上がり、近づく。



「フィオ、お前…」


「フィオ様…それは…」



手際よくヴイーヴルを抑えた二人が、術式回路を書き込まれ淡く発光する私の腕を見て言葉を失う。


…理由は理解できる。


生身に術式回路を書き込んだ者の末路は、技術者、識者ならば誰もが知っている。



「……私が制御に成功したら、ヴイーヴルに<魔晶石>を与えてください。……この傷なら、3つもあれば再生します」


「ああ」


「……それから、速度を優先するのと騎乗の問題で、私が一人で行きます」


「…ユート様を途中で乗せるのですね?」


「……その通り」


「お願いします。ソフィーリア様を、…ユート様を、お救い下さい」


「……言われるまでも無い事。彼らには、返せない程の借りがある」


「フィオ…」


「……義父さん、母さんをお願いします。必ず、生きて会いましょう」


「…分かった」


「……では」



そう言って、仰向けで暴れるヴイーヴルの翼に両腕を当てる。


ピタリ。と暴れていたのが、止まる。


腕に書き込まれた術式は、完全にその効果を発揮した。



「……いけます」



義父がロープを、セバスチャンがハサミを取り払う。


ヴイーヴルが転がり、その背に乗り込む。


セバスチャンが<魔晶石>を取り出し、地面に並べたのをヴイーヴルに指示し、食べさせる。


クーデター前に検証した事の実践だ。元々モンスターの負傷は時間がたてば再生する。


しかし<魔晶石>を食べさせ魔力を一気に補給すれば…


効果は劇的。先ほど開けられたばかりの翼の穴は塞がり、あっという間に翼が元の長さに再生を始める。



「……いきます」



十分に再生した所で義父とセバスチャンに断る。


二人が数歩、離れる。


ヴイーヴルが四肢に力を込める。



「……いって、きます」



2人と、その後ろに眠る母に向けてそう言うと同時に、


強靭な四肢から解き放たれた力で、ヴイーヴルは一気に上昇を開始した。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「くそっ」



ユートは神殿の北の森を走っていた。


神殿を脱出したレキは、西北西に向かって飛んでいる。


ときおり<勇者の剣>で森を切り裂き、空を確認しながら追っているのだが、やはり、気のせいではない。


徐々にだが、引き離されている。


地形のせいで走り難いのもあるが、相手も徐々に加速している。


このままでは、いずれ振り切られる。


どうする?


立ち止まり、攻撃魔法を用いるか?


いや、攻撃魔法ではソフィーごと消し飛ばしてしまう。


<勇者の剣>は「切りたくない」と思った対象は切らない。やはり、落すならばこの剣だ。


再び森を切り、走る。


また、離された。


何か、手を打つ必要がある。


いっそ、この森をヤツの進む方向へと全て吹き飛ばし、まっ平らな地面にしてしまうか?


それなら走りやすい。



――こんな自然なんて知ったものか。



――この先に何かあった所で、かまうもんか。



――やってしまえ。



俺の中の勇者が囁く。そうだな、やるか――



「……ユートさん」



そう考えた所で背後から俺を呼ぶ声が届き、思いとどまらせた。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「フィオ…か?」



走りながら声に出す、だが、しまった。<拡声の首輪>を着けていない。


此方の声は届かない。



「……ユートさん、聞こえますか? ……私は、ヴイーヴルに乗っています。……これから貴方の背後に降下します。……タイミングを合わせて、飛び乗ってください」



そんな事は100も承知なのだろう。一方的に説明を受ける。


それに、ヴイーヴルに乗っている? だとすれば、


…ヴイーヴルの速さならば、追いつける!



「……いきます。3」



カウントが始まる。走りながら、気配を探る。



「……2」



かなり近い。速度も速い。だが…減速している。合わせて来ている。



「1」



まだだ、あと少し。



「0」



ゼロを聞いた瞬間、ジャンプする。背後は一度も見ていない。だが距離、速度全て完璧の筈だ。


狙いあまつ事無く俺の真下をフィオが乗ったヴイーヴルが潜り、その背に着地する。



「……流石ですね」


「フィオこそ、完璧なタイミングだったよ」


「……ありがとうございます。……では、追います」


「ああ、頼む!」



ヴイーヴルが力強く羽ばたき、一気に加速する。


なるほど。この加減速と羽ばたきでは一般人は乗れはしないだろう。だからずっと無人だったのか。納得がいった。


だがフィオは人よりは頑丈で、俺は言わずもがなだ。ヴイーヴルの性能をフルに発揮しても問題ない。


見る見る内にレキの変化した竜へと追いすがる。


いいぞ、とっととヤツを殺してソフィーを救おう。


ヴイーヴルの背に立ち、<勇者の剣>を構え、縮めておいたその刀身を再び開放した。

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