表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
120/127

8-1<それぞれの戦い、召喚の塔>

ソフィー達と合流を果たした後も、俺たちは走っていた。


目的地は、<召喚の塔>。


流石にこの人数を庇い続けるのは不可能だと思われたので、避難する所は無いか聞いた所そこへ向かう事になった。



ソフィーの説明によると<召喚の塔>には300年前に施された強力な結界があり、


中に入るためには認証を受けた王家の娘が必要になっている。


故に確実に内部に敵はおらず、入り口以外から侵入される危険も無い。ということらしい。


召喚された日は既に解除しきっていた為、俺は全く気づかなかったのだが。


結界関係はあまり気にしないで良いせいで鈍感なんだよなぁ…と自分の欠点を思い浮かべる。


…それは兎も角、一旦そこに避難して、迎撃を行おうと言う事になったのだ。



先頭は俺。その後ろにフィオとバルナム卿とその腕に大事に抱き抱えられ眠るイリアさん。


その後ろにソフィーとマール。殿はセバスさん。



前衛の俺のやる事は変わらない。先導し向かって来る敵をなぎ倒して進路を確保する。


そして後方の殿の戦いは、まずセバスさんが追いついた<人型>の注意を引き、


そこにソフィーが魔法の槍、<魂縛時槍>を撃ち、停止させる。


最後にマールがその両手に纏った魔法で出来た紐付き刃を投擲し、一撃必殺で貫き砕く。


三位一体。実に見事なチームワークで危なげなく<人型>を倒している。


しかし…



マールのあれ、喰ってるだろう? <人型>を。



薄々感じていたのだが、倒し方を見て思う。


投げつけた刃は貫いた後爆発四散する訳でもなく、刃を中心に半径5〜60センチがゴリっと削り取られる。


その後残った刃の紐が縮まり、再びマールの手に回収される。


そしてすごくほくほくした顔のマール。…絶対喰ってる。


なんという悪食…いや、元々人も喰うのが魔族だし…普通なのか? ううむ…複雑な心境だ。


こんな状況なのに悶々としつつ進む。


…道行は順調だった。




◆◆◆◆◆◆◆◆




そうこうしている間に塔の入り口へたどり着き、殿を交代する。



「門よ、私はソフィーリア=シルヴァ=シュトルーゼ=ベルム。今代の巫女、扉を開けて下さい」



ソフィーが門に語りかける。



「――パターンカクニン、ショウゴウ、ガッチリツ、キュウジュウナナパーセント。ホンニントカクニン。コウシンシマス」



門が、声を出した。


以前通った時は何も言わなかった。……閉めるときはオーロトックなのだろうか?


とりあえず女性の声だが抑揚も何も無い。フィオより酷い。強いて言えば機械音声に近い。



「――カンリョウシマシタ。ヨウコソ、スズナシノマツエイ、ソフィーリア。オハイリクダサイ」



ぎいいいいいと音を立て、門の奥の扉が開かれ、門の結界が消滅する。



「よし、皆中に入ってくれ。俺は残りを掃討する!」



背後を警戒しつつ、語りかける。だが、



「ユートさんも一度中に入ってくださいませ。結界を閉じてしまいますので」



ソフィーがそう言う。



「わかった!」



まぁ、かまわないだろう。


踵を返し、フィオ、バルナム卿、イリアさん、セバスさんの後に続き門をくぐる…直前で立ち止まる。



「ソフィー! 早く入って!」



何故かソフィーが立ち止まって居た。


慌ててソフィーの腕を掴もうとする。と、どんっと突き飛ばされ、たたらを踏んでそのまま門を潜り抜けてしまった。



「閉じなさい」


「――ショウニン、カンリョウシマシタ」



機械音声が響き、結界が…閉じた。



「ソフィー!?」


「ソフィーリア様!? 何を!?」


「いやぁ、待ってみるものですねぇ。まさか始末するだけで無く鍵まで頂けるとは」



ソフィーが、ソフィーの声で、ソフィーではない言葉を、放つ。



「ソ、ソフィー…?」


「…まさか、レキか!」


「ご明察」



そう言って、何処からとも無くソフィーの真横にマントを羽織ったレキさんが現れる。


馬鹿な、気配を一切感じなかった。何処から?



「不思議そうな顔ですねぇ? 良いでしょう。お答えしましょう。全てはこれ。<竜王翼ヘルマー・霞>でしたか。旦那様がお改造なさられた姿隠しの宝具でございます」


「レキ! 貴様宝具の使用制限まで!!」


「ええ、はい。いやぁ、元々素晴らしい物でしたが、なかなか面白い付加効果をお付けくださりありがとうございます。この宝具に王都に有るであろう残りの宝具もきちんと持つべきお方に返還させて頂きます。ありがとうございました」



にこやかに笑い、大仰に一礼する。



「ソフィーに何をした!!」


「何を、とはまた。見たら分かるでしょう? <傀儡子の腕輪>をちょいと付けさせて頂いたのですよ」



そう言ってレキが指差すと、ソフィーが自分の右袖をめくり、そこに着けられた腕輪を見せる。


魔道具の効果は魔法のそれに近い。


そのせいで、まだ己を害する魔法に抗する為の<強化魔法>を受けていないソフィーに効いてしまっていた。



「ほんとうに、もう驚きましたよ。始末し終わったと思ったら飛び出して来られましたので。ですのでどうせなら逃げずに隠れて待っていればここに来られるのではないかな? と思いましてね」



大当たりでしたね。と笑う。それが、その余裕ぶった態度が癪に障る。



「その結界に閉じ込められましたらもう最後。このソフィーリア様にしか開錠は出来ませんからね。そのまま餓死なさってくださいませ」



ガン! と剣の柄で結界を殴る。びくともしない。



「無駄ですよ。300年前にかの勇者によって作られた忌々しい結界です。…我々の技術を持ってしても開錠出来なかったのですから」



ガン! ガン! とさらに力を込めて殴る。五月蝿い、何を言っている。


そうこうしている内に、ばさっばさっと<ヴイーヴル>が降下してくる。



「ユートさん、もう無理ですよ。諦めてください。ほら、あなたの妖精もこの通りです」



またソフィーが、ソフィーではないソフィーの声で言う、


同時にレキから剣を受け取り、その抜き身の刃こちらに向ける。



そこには、




背中から貫かれ、



胸から刃を生やし、



血に塗れ、



ぐったりとして動かないマールが



モズのはやにえのようになって刺さっていた。




殴っていた腕が止まる。


思考が、停止する。


言葉が、出ない。



「カンの良い妖精です。腕輪を付けようと私がこの<竜王翼ヘルマー・霞>から手を出したとたんに感付きましてね。早急に始末させていただきました」


「そういうことなのです。見ての通りこの妖精も死んじゃいました」



またソフィーがそう言ってマールの頭を掴み、剣を滑らせ股下へ切り裂き、抜く。


ぼたぼたっと内臓が零れ、崩れ、消えていく。



「ほんとうに、ざんねんです」



ぽい。とマールをぞんざいに上へと投げ、放物線を描き、落下して来たところを一閃。


首が、飛んだ。


ソフィーによって二つに分かたれたマールが転がり、崩れる。


魔族の死が、始まる。



「あ、…あ…ああああああああああああああああああ!!!!!」



「あははははははは! 良い慟哭です! ユートさん! 私、凄く心が癒される気分です!」


「マール! マール! 答えろよ!! お前の本体は俺の中だろ!? マール!!」



声に出し、叫ぶ。けれども帰ってくる答えは沈黙。



「? ですが残念です。私ももうそろそろ王都へ向かわなければなりません。後始末がございますので」


「ごめんなさい。ユートさん。私レキさんと行きますね? 貴方とは、婚約破棄させていただきます。なんて、言ってみちゃいました。あははははははははは」



涙まで散らしながらソフィーが笑う。ソフィーの声で、ソフィーと違う言葉で。



…その腹話術を、やめろ! ヤメロ!!



心が染まっていく。真っ黒に。かつての勇者の憎しみの色に。



「では皆さん。お先に失礼致します。良い最期を」



そう言ってレキが踵を返し<ヴイーヴル>に跨る。



――フザケルナ、ニガス、モノカ。



剣を握る拳をさらに強く握り締め、魔力を込める。


バンッ! と音を立て<女王螂の剣>で出来た剣が砕け散る。



――コレジャ、ダメダ。



鞄を開き、ずるり、と新しい剣を取り出す。


刃渡り2m強。柄まで加えると2m半以上のバケモノ大剣。


アルモスの鍛冶屋で受け取った、2本の最高品質の<女王螂の剣>から作られた大剣。


その剣と俺の放つ異様さに背後のフィオたちが気おされ、萎縮する。



そうこうしている間にソフィーも乗り、<ヴイーヴル>がゆっくりと浮上し始める。



――ニガサ、ナイ



魔力を込める。許さない。見せてやる。俺の、最高の、復讐の刃を。


魔王を仕留めてみせた、一つの世界の人類の、その命すらも犠牲に磨き上げた、技術のハイエンドを。



「……ユートさん…?」



フィオが誰よりも早く立ち直り、心配そうに声をかける。


だが、聞いちゃ居ない。もう、何も聞こえない。



有るのはヤツに対する憎しみと殺意。他は何も要らない。


魔王との戦いの後、只の一度も使われなかったその魔法の為の魔力プールは、とっくに満ちている。


後は、発動言語を放ち、俺の最高最悪の魔法を解き放つだけだ。


息を吸い、口を開く。



「…降臨しろ、<勇者の剣>」



発動言語を受け、溢れ出す膨大な魔力が剣を突き抜け纏わり付き、元の刀身の周りに新たに淡く輝く水晶のような刀身を作り上げ、伸びる。


その剣が伸びきりもしない内に振りかぶり、「目障りな物を全て叩き切れ」と念じながら前方の俺の行く手を塞ぐ結界に叩き付ける。


不完全な<勇者の剣>の、たった一太刀の元に、300年塔を守っていた結界が、門ごと、その向こうの建物ごと、


およそ数100mに渡って何の抵抗も無く、切り裂かれ、砕け散った。

プロローグからあちこちにこっそりとヒントを撒くだけで、ずっっっとひた隠しにしてきた主人公最強設定が120話目にしてやっと一部お目見えを。ここまで本当に長かったです(´Д⊂


9/29誤字修正しました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ