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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
119/127

7-9<それぞれの戦い、玉座の間前の決戦>

<十重刃扇・鳳>を振るう。弾幕を突破した<人型>2体それぞれの片足に刃が巻きつき、強く引くことで切り落す。


自分に出来る最低限で最大の効果。お母様のように完全にバラバラにすることは狙わない。そして、



「撃ち、なさい!!」



間髪入れずに指示する。向かっていた敵のおよそ5体が撃ち抜かれ、倒れる。


最初の頃より、射撃間隔が短くなっているので、数を倒せて居ない。


だが仕方ない。私では3体以上を相手にできないのだ。


そして今のが、18発目。限度だ。これ以上は危険。


だがまだ正面には30体以上の<人型>がいる。もう一巡撃てば、粗方の始末が付く。


撃つ、べきだ。


引き付けて…



「ごめん、なさい。限、界でス」



……え?


背後から消え入るような声が響いた。


同時に正面で<魔法矢>を防いでいた対魔法障壁が消える。


ベルが、力尽きた。



ガ、ガガ、と魔法矢が飛来するのを咄嗟に<十重刃扇・鳳>を盾に受け止めるが、体ごと弾き飛ばされる。


撃たれた、しまった、迂闊だった。後一歩と思い、ベルの事を失念していた。


背後に吹き飛びながら思考する。


完全展開できていなかったが為に<十重刃扇・鳳>は上半身をすっぽりと覆い隠す盾となってくれた。


だが、<魔法矢>を防いだ結果、私の手から弾かれ、離れてしまった。


武器を、失った。


けれども



「撃ちなさい!!」



吹き飛びながら、地面に転がる直前に叫ぶ。一瞬を逃しては駄目なのだ。



「がっ」



地面に落ち、派手に転がる。最初に感じたのは、衝撃、そして熱。


その直後に熱が痛みへと変換される。痛い。痛い、痛い、痛い!


強かに打ちつけ全身の肌がすり切れる痛みで思考が一瞬真っ白になる。


こんな痛みは、味わった事が無い。これが、戦場か。これが、これが。


痛い、痛い、痛い、けど!!


四肢に気合を込め、転がる体を停止しようとし、誰かにぶつかる。



「だ、…大丈夫で、スか…?」



転がる私を受け止めたのは、ベル。どうやらまだ意識はあったらしい。でも見るからに顔色が良くない。限界だ。


痛みを無視して思考する。こんな痛みに負けるようでは、私は資格が無い。そんな事は、理解している。


そんな事よりも、囮役の私達が今の一撃で大きく後ろに飛ばされてしまった事が問題。


痛みで滲む視界を無理矢理正面に向ける。


予想どおり、<人型>が散った。もう、今の陣形は用を成さない。


即座に、対応しなくて、は、でも、どうする?



密集陣形? 囲まれる。


人数では勝る。さらに拡散包囲? そんな広さは無い。


突撃? 自殺行為だ。


後退・撤退? 出来るのか?



どうする、どうする、どうする、出来る、事は…


思考が答えにたどり着かない、まずい。


さらに不味い事に、<魔法矢>が飛来していた。


しま……



『いってぇ!!』



障壁を張ることも、回避も不可能なタイミングだった。


だが巨大な影が私達の前に立ち塞がり、<魔法矢>をその身で受け止め、敵を見えなくしていた。



「カ、カ、カーニスさんでスぅー!」


『応よ! 俺にだって対魔法障壁ぐらい…張れんだよ!!』



ガア!! と一吼えし、障壁を展開する。<魔法矢>の追撃が、止まる。


さらに、ざざっと足音がして、一気に左右の隊列が解け、私達の前に横列の壁を作り上げる。


私は、何も指示して居ないのに。


そして理解する。これは私を守る、その為だけの陣形だ、と。



『よっし、てめぇら! ナイスフォローだ!』


「当然っすよ!! 俺らメリア様親衛隊、妹様を傷物にさせるもんかよ!!」


『いいぞ! ならついでに言ってやれ! この嬢ちゃんに俺らメリア様親衛隊のモットーを!!』



…何を、言い出したんですの?


理解不能な流れに困惑する。目の前には今にも踊りかかりそうな30体…いや40体を超える<人型>が迫っているというのに。


何を言い出したのだ。彼らは。



「「「「「一つ! 俺らの目の前では絶対隊長を傷物になんてさせねぇ!!」」」」」


『そうだ!』


「「「「「二つ! 俺らが死んでも隊長だけは守り抜く!!」」」」」


『そうだ!』


「「「「「三つ! 隊長が嫁に行くまでは絶対守り抜く!!」」」」」 


『その通りだ!!』



唖然、とする。なんだこの集団は。これが、本当の、戦場の兵士なのか?


今まで見たどの文献でもこんな集団は出てこない。私の常識には、無い。


それにお姉様の部下だけなら兎も角、ただの陸軍兵まで混じっている。



『それでどうだ! 今の隊長は、この嬢ちゃんは、俺ら親衛隊が命を張る価値の有る女だったか!?』


「「「「「勿論だ!!!」」」」」


『なら問題はねぇ! 全員構えろ!! ここからは総力戦だ!!』


「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」



兵が、吼える。


正常な思考が帰ってくる。


ああそうか、そういうことか。


肩が震える。


くっくっく、と笑いを漏らす。



「メル…皆、カッコイイで……ス……!?」



ベルが涙声で私に話しかけ、振り向き、私を見て硬直する。ああ、そうだろう。


彼らは今バカな言葉を吐き、私を命をかけて守ると言ってのけた。



バカにするな。



バカにするな、バカにするな! バカにするな!!



私は、私がこの戦場の指揮官だ。私がこの戦場を操るのだ。


それを、一撃食らい、弾かれ、転がりかすり傷を負った。その程度で、もう過保護に守ろう、だと?


ふざけるな。


怒りが、こみ上げていた。


彼らが、私を侮っていたことに。


もう、私にはこの戦場が担えない、と見くびられたことに。


ふざけるな!!



「―Uouc hielder da Hlaysics ―」



吐き捨てるように詠唱する。普通は発動言語だけで最低限の用が成せる為、詠唱する必要の無い類の魔法なのに。



「―Uouc hielder da Magiss―」



怒りを込める。彼らの口調が、態度がああだったのは私を頭でっかちの実戦知らずの女、となめていたからだ。と確信し。



「―Jmlis rl minsemd―」



この戦場は、私のものだ、それを邪魔するのならば、――お仕置きが、必要だ。



「―Ovduis-wious tmay Lapsyers plus eaeu Nivusrs―」



だから組み上げる。複雑に、強固に。



「<複合多重障壁>!!」



まさに両軍が激突する瞬間、その間に通路一杯に広がる強大な対物理、対魔法の複合障壁が張られ、両軍が壁にぶつかり、立ち往生する。


5層に及ぶ複合障壁。穴が空けられた瞬間次の障壁が補修、補強してさらにその部分がより頑丈になるようにした。


…消耗も効率も度外視で、全力で、作った。予想では30秒から1分は凌げる。その後全ての敵が同時に襲い掛かって来るだろうが。


そんなことはどうでもいい。



『お、お嬢? 何を…?』


「ふざけないで、くださいまし。今、誰の命令で動きましたか! わたくしは命を下しておりませんわ!!」


「「「「「………」」」」」


「この場の指揮官はわたくしです!! 何故、動きましたか!!」


『いや…それは…』



兵がざわつき、困惑する。意気揚々と突撃した所で冷や水をぶっ掛けたのだ。当然だろう。



「そんなに、貴方方は、使い潰されたいのですか! そうですか! でしたら…使い潰して差し上げますわ……!」


「ひぃ」



低く剣呑な響きで、笑いまで含んだ声に、ベルが小さく悲鳴を上げる。



「総員!! 3列横隊!!」


「「「「「りょ、了解!!」」」」」



呆気に取られていた兵達が、慌てて私の左側へと集まり、横隊を形成する。



「カーニス! 貴方は一番端へお行きなさい!」


『りょ、了解』


「では、第一列、わたくしが中心です。横列を崩さず、円を描くよう、全力疾走!! お行きなさい!!」


「「「「「りょ、了解!!」」」」」


「2列目! お行きなさい!!」


「「「「「りょ…了解!」」」」」


「3列目!! お行きなさい!!」


「「「「「了解ぃい!」」」」」



3本の横列が走り、渦を巻く。まるで私を軸にした馬車の車輪のように


車輪掛り。その最小版を再現する。さらに魔法で追い風を起こし、加速させる。


使い潰してやる。限度はどれくらいだ? 精鋭ならば30分は全力疾走してみせろ。


それだけあればあんな<人型>など全て轢き潰せる。



「ベル! 立てますわね、わたくしの傍を離れてはいけませんわよ!」


「は、ははははは、はいでス!」


「では、これより、敵を殲滅します。絶対に止まる事、減速する事は許しませんわ。<人型>よりも速く駆け続けて見せなさい!!」


「「「「「オオオオオオオオオオオオ!!」」」」」



言い終わると同時に障壁を崩す。全て消すのではない。回転する3列の外側に張り付くように移動させつつ残す。



本来は弓矢での応対を終え、いざ突撃、と言う際に槍兵の列を盾を持った騎馬で庇いながら行う陣形。


まばらな敵の矢は騎馬が防ぎ、接近し、敵の槍兵、歩兵が飛び出した所で襲い掛かる。


時計回りに回転するこの陣形は、上手く操れば敵のまん前を通過する。


すると敵は背後を突ける、と追ってしまう。


だがこちらは常にトップスピード。


追いつけない、と気づいた時には自分たちの隊列の背後、もしくは横合いから次の横隊が襲い掛かって来ている。


振り向こうとした時には自分たちの得物が邪魔をし、もたつく。


結果発生するのは、横槍だ。馬鹿な敵を釣り、一網打尽にする。


そういう陣形。


欠点は、隊列の維持の難しさと体力の消耗の酷さ。


平原などで、敵陣を無理矢理食い破って穴を開ける程度にしか使えない。


孤立しがちで半分玉砕特攻に近いような強行突破陣形。


だが、敵は馬鹿の代名詞のような<人型>


この陣形ならば、確実に嵌る。



崩した障壁から、まばらに<人型>が迫り、前を通過した列に釣られ、追い下がる。



『はっ! そういう事かよ!!』



カーニスは気づいたようだ。この陣形の意味を、効果を。


目の前で目標を最接近した後列へと変え、方向転換中の<人型>の腕を、ぞんざいに咬み、千切り、駆ける。



兵達も続く。2列目を追った<人型>は、3列目に、3列目を追った<人型>は一列目に、削られる。


大半を、即死させられていない。だが、それでいい。


車輪のように回ってきた第二、第三波が襲い掛かり、削り取り、いずれとどめを刺す。


けれども微調整は必要だ。あまり過剰に敵集団にぶつかると車輪が引っ掛かってしまう。


じり、と左斜め前方へ中心を移動をする。


本来ならそういう調整は中央から矢でも撃って敵を足止めする事でするのだろう。


しかし、今の私は障壁で手一杯だ。


調整は移動で補うしかない。


徐々に、敵が削り下ろされていく。


いける。このまま磨り潰してしまえば…



「見事な用兵だ、メル!!」



声が、響いたと同時に、これから突っ込んでくると思われた敵の集団が巨大な火炎球に吹き飛ばされた。


この、声、そしてこの炎は。



「お姉様!!」


「待たせたな!!」


「…っ!」



振り返れない私の代わりに後ろを見たベルが、ぎょっとした顔で、硬直する。


…何を、見た? 気になる。


一瞬なら…


振り返ろう、としたその時。


私の頭上を、お姉様が槍で飛び越え、<人型>の群れへと突っ込んだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆




唖然、とする。


まさかこの飛ぶにはどう考えても狭い室内の廊下を<魔槍ヴェルスパイン>でここまで飛んできた、とでも言うのだろうか。


…言うのだろう。


常識はずれにも限度がある。


ああ、そうか。納得した。


彼らは私をなめていた、という訳ではなかったのか。


お姉様がああだから、この兵達はこうなのだ。


もちろん少しはそっちもあっただろう。でも本当の理由はこっちだ。


そうか、そうか。


納得が行くのは実にいい事だ。うん。


…ついでにお姉様もひき潰してしまえ。邪魔。



<人型>の圧力が下がったので隊列を一気に進める。バリケード側に行った連中も倒さないといけないのだ。



「ちょ、メル、何を!?」



巻き込まれそうになったお姉様が私に問う。やれやれ



「そんな所に立ち止まられると邪魔ですわ。なんならお姉様もカーニスのようにお走りになって下さいまし。」


「…なるほど! そうか! 任せろ!!」



どういう陣形か理解したのか、お姉様も最外周を走り始める。


…心なしか、全体の回転速度が増した。


さらに兵全てが楽しそうな気配を放っている。


…ああ、やっぱりお姉様が原因なのですね。彼らの態度は。


呆れる。心底呆れる。


だがまぁ、頼もしい援軍だ。このまま進んで磨り潰そう。



全ての向かってきた<人型>を磨り潰しながら、歩を進め、再びバリケードに近づく。



そこにはフェルブルム卿の背に跨り、年甲斐も無くイチャつく両親が居た。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「ふふふふふ」



エーリカが笑い、9〜10体の<人型>が一気に縛り上げられ、切り刻まれる。



「よっと」



槍を振るい、<魔法矢>や、<槍持ち>の一撃を弾く。


この槍の穂先は常に対魔法障壁を纏っている、だから、魔法矢を受け止めるのは容易い。



『ふん!』



<十重刃扇・凰>を、俺の槍をかいくぐった<人型>に囲まれないよう移動しつつ、追いすがったものをトラが爪で弾き飛ばす。



そして再びエーリカが縛り、刻む。


俺も槍で貫く。


トラは倒す事を考えず弾き飛ばす。


他愛も無い。


エーリカが居るだけでこの始末。


追ってきた兵達も最早仕事が無い。と言わんばかりの状態だ。



ちらり、と奥を見る。


メルが指揮を取っている、と言う一団が、そこには見える。


先ほど強力な障壁で敵を一旦止めたと思ったら面白い陣形を取り、<人型>を猛烈な勢いで磨り潰し始めた。



「…見事な用兵だが、何処であんな陣形を学んだのだ?」



そもそも自分にすらあんな陣形を用いた用兵は記憶に無い。



「うふふふ、乙女は秘密が多いもの、ですわ」



エーリカが残った最後の<魔法使い>達を纏めて刻みつつ答える。


正直その直前まで見せていた用兵にも唖然とした。あれだけの<人型>を相手にして、一切の損害を蒙らずに殲滅していた。


さらにそれは途中で陣形を切り替えた今も、だ。


…もしかしたらメリアよりもメルの方が、当主に、総帥に向いて居るのでは無いだろうか?


だが、年功序列というものは有る。


メルは嫁に出さずにいっそ婿養子を取って参謀役でも担わせるべきか?



今まで知らなかった娘の才能につい援軍に向かう事も忘れ、思考する。


最も、あの様子では援軍は必要無さそうだが…



『…勢い勇んで飛び出したが、あの様子では手出しはせずともよさそうだな』



トラも同じ感想のようだ。



「そうだな…」


「ええ、流石私達の娘、でしょう?」


「そうだな…」



心底嬉しそうにエーリカが語りかけてるが、気もそぞろだ。


遠めに見えるメルの目が、完全に戦闘狂の類の色を点しているのが分かる。



「そうだな…」



トラの、言うとおり。メルもまた私達の血を引いて居たようだ。



「あら、メリアも来たようですわ」



奥からメリアらしき飛行する人物が見える。


…メリアもメリアで室内を<魔槍ヴェルスパイン>で飛んでくる、などと。


常識はずれだ。



『…どうやら、これでここの<人型>は片付きそうだな』


メリアが一撃し、残った<人型>を吹き飛ばす。


見た所、後残っているのはメルの周囲の傷付いてとどめを刺されていないだけの<人型>


あれだけ居た<人型>がついに殲滅されていた。



「…後は、残党狩りだな」


『そうだな』


「ふふ、もう、急ぐ事も無いでしょう?」


「そうだな」



最大の脅威は去った。


後は残党を狩り、メルとメリア達に負傷兵を治療させれば問題は無い。



そして、これで王都はクーデター軍から開放される。


我々の勝利だ。クーデターは終わる。



だが、心の中では勝利の味を噛み締めるよりも、これからの王国の問題を考えるよりも、


この妻と娘達相手に家長の威厳を保つ事の困難さを噛み締めていた。

かなり長くなってしまいましたが、これにて玉座の間防衛戦、決着。

次回からは主人公サイドに進みます。

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