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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
116/127

7-6<それぞれの戦い、玉座の間防衛戦2>

「はぁ、はぁ…トラ、どうだ?」


『不味い、な』



アーリントン卿とフェルブルム卿が防衛戦に参加して既に1時間が経とうとしていた。


その間にも負傷兵が回復し、避難誘導を行っていた兵士も数名加わり、負傷した兵士は下がり、今は約20数人が防衛戦を行っていた。


人数の上では当初より楽になっている。


バリケードも今のところ損害はそれ程でもない。


乗り越えたものに対峙する回数も人数の増加で減り、休憩が取れている。


だが、問題が起こっていた。



『貴様の剣程の業物であれば、こうはならなかっただろうが…』


「…支給品に改善の余地あり、だな」



砕けた槍と護身用短剣を結び、強引に武器を作成している兵士を横目に眺めつつ、息を整えながら話す。


…連戦に継ぐ連戦、そして時折混ざる<歩兵>と区別のつかない<鎧付き>


そのため兵士達の支給品である鉄製の武器は磨耗し、砕かれ、半数近い兵士が護身用の短剣を除けば武器無しの状態になっていた。



<人型>を相手にそんな状態で戦うなど危険極まりない。<獣化>したトラでさえ、専用の爪をつけている。


俺の方も当初受け取った槍は当の昔に砕かれ、宝剣<竜王爪フランメルグ>で戦っている。


300年前の戦いで討伐された王竜の一頭、その豪腕の肘部分から生えた最も長く硬い爪から作られたというこの宝剣は、刃こぼれもせず、当初の切れ味のままだ。



『我輩の爪は<灼剛虎>のもの、今しばらく耐えられるだろうが…』


「そういえばお前はもう<竜王双牙アーヴァー>を譲ったのだったか」


『応。なんせあれは我輩では持てぬからな。仕方なかろう』



確かに。手持ちの双剣である<竜王双牙アーヴァー>はトラが<獣化>した姿では扱う事が不可能だ。


…むぅ、しかしこうなれば誰かを武器庫へ向かわせ補給をしなくてはだめか。


しかしその派遣部隊の装備すらままならいのでは難しい。


もう少し早く手を打つべきだったか?


とりあえず、今は手ぶらの者は休息だ。


避難誘導組で出ている、という残り20名程が戻り次第、派兵しよう。



そう思った所で、バリケードの向こうからドゴン! という轟音が響いた。



『今の音は…』


「また来たか、<槌持ち>だな」


『どうする、何とかせねばバリケードが砕かれるぞ』


「…まともな槍はもう無い、かと言って降りて戦うは玉砕必死。…今度も魔法しか無かろう」



そうこう話して居る間にもドゴン!ドゴン!ドゴン!と壁に巨大な塊を叩き付けるような音が断続的に響く。



『糞、仕方ないか』


「魔法兵はいるか! 上から<槌持ち>を狙い、潰す必要がある」



呼びかける。だが、名乗り出た兵士は僅か3名だった。


それも致し方ない。治癒魔法だけでもかなりの人数が既に限界まで魔力を振り絞り魔力切れを起こし、昏倒している。


…それでも足りない事は無い。行こう。



「よし、行くぞ」


「「「はい!」」」



急ぎバリケードの上へと姿勢を低くして進む。


既にバリケードの中央部は何回も来ていた<槌持ち>に掘り進められ、先端はくの字に削れている。


その端から、中央の<槌持ち>を狙い、詠唱を開始する。



「――<氷柱飛針(フリーズ・ニードル)>」

「――<水流飛刃(ウォーター・カッター)>」

「――<氷雪嵐風(ブリザード)>」



打ち出された<氷柱飛針(フリーズ・ニードル)>に<水流飛刃(ウォーター・カッター)>がまとわり付き、<氷雪嵐風(ブリザード)>によってより強大な氷の槍を作り上げる。


合体魔法、<大氷槍(コールド・ジャベリン)>威力を追求したタイプの<氷柱飛針(フリーズ・ニードル)>の上位互換だ。


一人でも使える魔法だが、3人がかりで作成する事によってより魔力の消耗を少なくする。



3人が打ち合わせ通り魔法を組み合わせ、狙いを過つ事無く<槌持ち>の上半身を貫く。


よし、<槌持ち>は片付いた。


兵が念のため、と身を乗り出して確認する



「! 伏せろ!!」



一瞬、視界に入った光に慌てて声を上げる。


だが<槌持ち>の最期を確認しようとしていた為に兵たちの反応は遅れた。


ドガン! と突然眼前に起きた爆発で正面に居た魔法兵3人共々吹き飛ばされ、転がる。


迂闊だった。油断した。


だが3人の背後に居た為に己の傷は浅い。体制を立て直す。



「衛生兵!!」



間髪入れる事無く衛生兵を呼ぶ、まずい、直撃を受けただろう一人は明らかに重傷、残り二人もかなりの傷だ。


ここで魔法兵を失う訳には行かない。




さらにガッガッ! ガッ!! と今度は何かで突き刺すような音が鳴り響く


これは、



『<魔法使い>だな。くそ、見えないうちは大人しくしていたのか。バリケードの上から貴様達が見えた途端に<魔法矢>を撃ち出しおったか』



トラが俺たちを庇うように前へ陣取り、語りかけてくる。



「面倒な…どうする。」


『どうするもこうするもない。相手が遠すぎる、バリケード頼りだ』



その通りか。くそ、打つ手が無さ過ぎる。


さっきバリケードの端で確認したがバリケードの向こうの敵はまだどう見繕っても100体以上居る。


<槌持ち>も1体ではないだろう。


<魔法使い>を強引に倒す手段よりもバリケードを崩すそっちが問題だ。



衛生兵に治療を受けている3人の魔法兵を確認する。


一人は…だめだ。命は取り留めたようだがこれでは最早戦えない。


咄嗟に防御したのだろう。左腕は中指から小指が、右腕は肘から先が千切れて無くなっていた。


千切れ潰れた手指を魔法で繋ごうとしているようだが…現状では満足な治療は望めない。この戦いでのこいつはもう、再起不能だ。


目を離し後の二人を確認する。…外傷はあるが、軽微。こちらは大丈夫なようだ。



「よし、お前、お前はもう良い。後方に下がり治療を受けろ」



重傷の一人を下がらせようと、指示する。



「だ、大丈夫です…自分は、まだ…戦えます。それに自分は空軍の兵士…総帥にはご迷惑を、おかけしました。その償いの為にも、戦線を離れる訳には…」


「…その腕では不可能だろう、全てが終われば俺が<再生魔法>に長けた医師を紹介してやる。下がれ」


「いえ、まだです、自分はまだ…戦えます…」



そう言って、腰の鞄から拳より3回り程大きく、大人の頭部よりはやや小さい球体の物質を取り出す。



「……いざと言うときは、この<炸裂弾>で敵を1体でも多く巻き込んで、果てて見せる所存です。ですから、戦わせてください」


「…」



二本しか無い指で大切そうに<炸裂弾>を抱え、真剣な、熱に浮かされたような、狂気に彩られた瞳でこちらを見つめてくる。



<炸裂弾>。空軍の爆撃用兵器だ。外見は丸い紙の塊。中身は薄い切れ目だらけの鉄板で火薬を包んだもの。


上空から落とし、地面に激突した衝撃を利用し発火装置が起動、爆発する。破壊力もかなりある。


だが、落したり投げた程度の衝撃では爆発しない。


つまりこいつがこの<炸裂弾>を爆破させるためには、高度が必要。


今ここで得られる最大の高度はバリケード。その上から飛び降り、自らの体で<炸裂弾>を地面と挟み、圧迫。


その衝撃で自爆するつもりなのだろう。


成功率は…1割もあるとは思えない。



頭を抱える。責任感を感じるのは良い。だが償い方を勘違いしている。やる気のあるバカだこいつは。



「…いいか、よく聞け? ……」


「<オオオアアアアアアアアアアアアアアアア>」


『おい! デュラン!!』



バカを諭そうとした時、トラが叫び俺を頭で突き飛ばす。


ゴッガッと地面が抉れ、くぐもった音が響く。


この攻撃は…!



「ベルム王国万歳!!」



相手を確認する為、目を離した僅かな間に腕の接続治療中のバカが起き上がり走り出した。



「なっ」



慌てて走る。向かう先はバリケードの上部。


登ってきた敵<人型>は腕部が左右共に然程肥大しておらず、有頭。つまり、<魔法使い>


その<魔法使い>に向かって走るバカを背後から剣で殴りつけ、倒す。



「<オオオアアアアアアアアアアアアアアアア>」



バカの頭上を<魔法矢>が走る。


そのまま<魔法使い>に走り寄り、袈裟切りに切りつけ、さらに蹴り落す。


恐らく先程バリケード上で<槌持ち>を倒した時に撃って来た奴だ。俺たちを視認した為に一気に前線まで来たのだろう。


切りつけた傷は深い。落ちてもみくちゃにされればくたばる筈だ。よし、後は…



息を整えつつ、さっき殴り倒したバカの元に戻る。


足元に転がっていた<炸裂弾>を拾いバリケードの向こうに投げ捨てる。


あわよくば、槌持ちあたりが踏みつけて爆発するだろう。バリケードの内側で爆発されたらそれこそ大惨事だ。



「ああ…」



悲しそうな声をバカが上げる



「バカか、お前は。何を考えている?」


「わ、私は、フェルブルム卿や総帥を守ろうと…」


「それで玉砕しようとした、とでも言いたいのか」


「はい…! 私の命など! 貴方様達を守る為ならば…!」



ガツン! とバカの顔面をフック気味の拳で殴る。



「な、何故…」



ガツン! とさらにバカを殴る。



「分からんかこの、馬鹿者が…何を、勘違いしておるのだ!」



あまりのバカさ加減に腹が立つ。



「俺たちの為に死のう、だと? いいか? そんなものは、そんな考えはいらぬ! 死ぬ為の言い訳など捨てろ! 持つなら、思うならば生き残る為の言い訳…生き残る為の理由を探せ!!」



…良い機会だ。バカはこのバカだけでないだろう。ならば言って聞かせよう。



「聞け! 貴様達!!」



残った兵、治療中の兵、全ての兵に向き直り、叫ぶ。



「いいか、俺には病身の妻が居る! 未だに婿を連れてこない不肖の娘も2人居る! その娘達が結婚し、生まれてくる孫娘を元気になった妻と二人で抱くまでは俺は何が有っても死ねん! 死なん!! それが、俺が生き残る為の理由だ!!!」



叫ぶ間に、背後に数体の<人型>が登ってくる。再び踵を返し、敵に向き直り、続ける。



「貴様らにも有るだろう、愛する女の為? 富や名声の為? 何でも良い! 言って見ろ!!」


「帰って一杯のみてぇ…」「俺はかーちゃんに会いてぇ…」「総帥の…が欲しい…」

「俺、生きて帰ったら絶対告白して結婚する」「息子に会いたい…まだ、2歳なんだ…」

「まだ死にたくねぇ…」「生きて帰りてぇ…」「俺が死んだら、誰が…の世話するんだよ…」



兵が口々に呟く。そうだ、口に出せ、頭で考えているだけでは駄目なのだ。



「そうだ、そうだ!! 自分の中で生きる為の理由を見定めろ! いいか、死を恐れないものなど要らぬ! 死は恐ろしいものだ! 恐れるものだ!! だがその恐れを越えろ! 己の見定めた生きる為の理由を持って勇ましく戦い、乗り越えて見せよ!!」



トラが叫ぶ俺にのっしと並び立ち、にやりと獰猛に笑う。


前方には、誰の背も存在しない。どの兵よりも敵に近い最戦前。やはり我々にはこの場こそが一番似合う。


そう考えつつ、さらに続ける。



「絶対に、一瞬たりとも死んでも構わないなどと考えるな!! そんなものは死んだ後に考えろ!! いいか!!」


「「「オ、…オオ、オオオ」」」



兵士がまばらに、鬨の声を上げる。だが、これでは足りない。もう一押し、する。



「返事はどうした!!!」


「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」



今度こそ兵たちが猛り、鬨の声を上げる。


装備も兵数もままならないが士気は十分だ。まだまだ戦える!



「よし! ならば全員抜刀! 凌ぐぞ!!!」



そう叫び、バリケードを乗り越えた<人型>へ、我先にと踊りかかった。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「フン。なかなか見事なものだな。総帥殿」


「…キャメル卿?」



バカを殴り倒してから数分後。


乗り越えた数匹をつつがなく仕留めた後に前衛を譲り、バリケードから下がって後方へと戻った所、およそこの場に相応しいとは思えない男、キャメル卿がそこに居た。



「着いた早々でこの騒ぎじゃ。なかなか苦戦しておるようじゃの」


「おお、フォワール卿…も…?」



どうやら2人も無事たどり着いたらしい。しかし何故前線ここへ? 


視察、激励のつもりか? 優雅な物だ。


少し苛立ちを感じかける。


だが、そんな事よりもふと目に付いたものに視線が釘付けになる。



「…貴公ら、それは、まさか」


「ふん。貴公らが体を張っておるのに何もせぬなどとならば、ワシらも五大家の当主としての沽券にかかわるからな」


「うむ、この老骨、歳甲斐も無く老体に鞭打ってきたぞい」



そう言った二人が持っているのは、俺の宝剣と並ぶこのベルム王国の至宝。



「<竜王殻・千刀>、―第壱拾弐式機構変化―じゃ。<螺旋錐>」



フォワール卿の両腕に付けられた小型のシールドから2本の刃が螺旋を成して伸び、


20m以上向こうで新たに登ってきていた<人型>の胸部を貫き、そのまま上下に展開、千切る。


だが、フォワール卿は悠然とその場に立ち、よろめきもしていない。


…凄まじいまでの技のキレ。


流石は師匠…なのだが…



「い、―壱式機構回帰―。ぬおお……や、やはり無理じゃ。見栄を張るものではないの…」



急速に刃が縮み、シールドだけに戻った所でフォワール卿が腰を抑えくず折れる。


ああ、やっぱりか…。


フォワール卿は俺やトラの剣技・武技の師匠だった。


一時期こそ王国最強の剣士を名乗る程の武勇を誇ったものだが、30余年程前に腰を痛め引退していた。


…寄る年波には勝てなかったのだ。



「無茶をするな、全く。ここまでの道中ワシらを守って孤軍奮闘、戦って来てくれただろうが。もう十分だ、後はワシが引き継ぐ。起動しろ<竜王玉ロウススフィア>」



今度はキャメル卿が手に持った杖の先端の宝玉に手を添えてその力を解放する。


杖から広がる金色の波動が瞬く間に床を、壁を、天井を、バリケードを覆い尽くしていく。



「ぐ、う…やはりワシには厳しいな。この障壁結界が砕かれたとしても、恐らくもう1度張れたら良いところだ。」


「……いや十分だ、済まない。」



莫大な量の術式回路を書き込め、膨大な量のマナ含有量を誇るキャメル家に賜られた至宝<竜王玉ロウススフィア>によって張られた<儀式魔法>クラスの強力な障壁結界。


これさえあれば今ここに居る最低レベルの<人型>ごときでは結界が消えない限りバリケードを砕く事は不可能な筈だ。



「フン。ワシもベルムの民。この危難において黙って守られて居るだけでおられるものか」


「ふぉっふぉ…こやつ「ワシも何かせねば気が済まぬ」と突然叫び出しての、そのまま避難を急遽取り止めさせ、政務室まで回収に向かったかいがあったのう…」


『見直したぞキャメル卿! 金算用だけが貴公の能では無かったのだな!』


「……………フン。兎も角、ついでに武器庫も周って幾つか武器を見繕ってきた。どうせ損耗して不足しておるのだろう」


「おお、その通りだ。そう言えば武器も無くなりかけていたのだ…ありがたい」


「そんな事だろうと思ったわ、戦の時分ですら貴公らは補給が疎かだからな」


「面目ない…」


『すまん…』


「にやにやしながら謝られたところで、謝罪されている気には成らんのだがな…」


「ふぉっふぉっふぉっふぉ」



そのぐらいは大目に見て欲しい。我々は嬉しいのだ。


300年前の戦いで物資の調達と補給を担い、やり遂げた事を誉れとするキャメル家、その当主ならではの気遣い。


この男も今までは金算用ばかりしている腑抜けかとも思っていたが、なかなかの気骨を持っていた。


それが、嬉しいのだ。



「兎も角、ワシの役目は果たした。後は任せるぞ総帥どの、トラ公どの。…守り抜いてくれよ」


「『応!』」



頼もしい援軍の激励に勇ましく答える。


まだ、我々は戦える。

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