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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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7-4<それぞれの戦い、玉座の間防衛戦1>

「城門の閉鎖と城外に出ていた<人型>は駆逐したのだな?」


「はい! 完了しております!」



軟禁された部屋から飛び出し、廊下に集まって来た8名の兵士に確認する。


3名は元々部屋の前に居た警備兵。


残り5名は息を乱し、鎧の所々に傷も見受けられる。


逃げ遅れた人々を、我々を避難誘導する為に城内をかけずり回っていたのだろう。



「ふむ、では後は城内の<人型>か。」



同じく飛び出したトラもこたえる。



「非戦闘員や怪我人の避難状況は?」


「既にほぼ全員が玉座の間に避難しております。」


「成る程。確かにあそこならば防衛にも向いておるし避難する広さもあるな。」


「ああ、マニュアル通り、だな。」



トラの補足に応える。


玉座の間には4つの出入り口がある。


前の出入り口は大きく開かれた1つなのだが、後ろの3つの出入り口は小さく、やや入り組んでいる。


もしもの時にそこから脱出し、追っ手を振り切るため即座に道を崩せるように。そういう構造なのだ。


無論、崩した後も瓦礫を取り除き再び組めば再利用できる。


この事態だ。恐らく2つは崩しもっとも入り組んだ1本を残しているのだろう。


そして自分が収監されていたここは最上階。避難誘導が最後になっても不思議は無い。



「ならばやつらも玉座の間に集まろうとするだろう、そこを駆逐するか。」



提案する。より近距離の、そして多人数の集団に引かれるのはモンスターの習性だ。


それに知性もあまり高くない。入り組んだ後ろの道を使えるとは思えない。


今の<人工人型>なら間違いなくそうだろう。


となれば前門でバリケードに行く手を防がれ、そこに集まっている筈。



「うむ。では飛ばしていくか。おい、ロリコン。背を貸してやる。」


「いい加減、それは止めないかトラ。緊張感が失せる。」


「むぅ、そうだな、では行くかデュラン」



そう言って上着を脱ぎ捨てたフェルブルム卿が毛を逆立たせ、全身を一回り肥大化させる。



「<獣化>」



その言葉と同時にフェルブルム卿の体躯が変化する。獣人よりもさらに獣らしく。


足が伸び、首が伸び、ゴキゴキと音を立てどんどんと骨格が四足歩行のそれとなる。


…ぶるり、と身を振るわせ変化が終わる。


そこに居たのは4m強は軽くあろう威風堂々とした白虎。



『来い』


「応」



呼びかけに応じその背に飛び乗る。



「槍はあるか?」


「はい、私のものでよろしければ…」


「構わん、貸してくれ。」


「はい、どうぞ!」



支給品の鉄槍を借り受ける。ただの歩兵用の槍では騎乗したまま使うのには長さが心もとないが、この際だ。剣よりはマシだろう。



「お前たちはキャメル卿とフォワール卿を護衛しつ退避路から玉座の間に入れ。あちらなら<人型>も来ていないだろう?」


「はい、今のところあちらの道は平気です。<人型>は正面口に結集しているようで、現在バリケードを建築し徹底抗戦中です。」


『では、行けるな。我輩達は正面から食い破る。』


「…御武運を!!」



槍を脇に挟み固定し、身を低くかがめ、背中の毛を掴む。


それを確認し、ひと吼えしたトラが疾走を始める。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「ふふふ、こうして駆けるのは何時振りだ?」



トラの背で風を楽しみながら、軽く語りかけた。



『さぁな、最早忘れた。だが乗せるならば女がよいわ』


「贅沢言うな。さて、どうやら既に随分な状態のようだ。」



視線の先の廊下に、大きく開かれた玉座の間の入り口辺りだった所が見える。


そこには既に見ただけでは数え切れない程の<人型>が集まっていた。


入り口の上部を崩し即席だろう、バリケードが作られている。


高さは十分あり、人型が人型を数匹足場にしないと乗り越えられそうに無い。


だが不味い事に、見たところ、乗り越えようとしている<人型>がそれなりに居る。



『上を越えて前に出るぞ。落ちるなよ!』


「応!」



トラの巨躯が跳ね、<人型>の群れの真上に着地する。と同時に人型を2体踏み砕く。


着地したトラに向かって即座に突き込まれた槍状の物体を脇に抱えた槍を使って弾く。


その隙を逃さない。


トラの牙が腕が変化した槍を弾かれ無防備になった<人型>の胴体に噛み付き、振り回し、周りの<人型>をなぎ払って食い千切る。



「<槍持ち>か、やはり歩兵だけでは済まないようだな!」


『<剣持ち>も居るぞ、<魔法使い>もおるやもしれん、気を抜くな!』


「分かって…いる!」



答えつつ、また踊りかかって来た<歩兵>を石突きで突き飛ばす。取り付かれる訳には行かない。


トラがさらに跳躍し、バリケードを越えようとしていた<人型>を踏み越え、バリケードの内側へと飛び込んだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆




『ちい、やはり越えられておったか』



予想通り、防護は完全ではなかったようで、防壁の内側では乗り越えた数体の<人型>と兵たちが乱戦の様相を呈している。


トラから飛び降り槍を剣に持ち替え、倒れた兵士の足に食らいついていた人型を袈裟切りに切り捨てる。


大丈夫だ、傷は深いが致命傷ではない。



「衛生兵!! コイツを頼む!!」



声をあげる。そうこうしている内にトラも一体を殴り倒し、兵たちがとどめを刺している。


さらに数名の兵士が残る1体を槍で貫いて、倒したようだ。


見たところ後…1体。だが…


なっていない。こいつらには<人型>との戦闘経験が無いのか?



「<人型>に正面から近づくな! 必ず3人以上で当り、背後から突くのだ!」



目の前の<剣持ち>と一人で相対していた肩から血を流している兵士の間に割り込み切りかかりつつ、


基本的な事を叫ぶ。1対1の所が2つもあった。つまりそれすら行われていないのだ。



「目の前の<人型>にだけ気をとられるな! <魔法使い>を警戒しろ! 遠隔攻撃をして来るぞ!!」



<剣持ち>と剣を交えながら叫ぶ。膂力は向こうの方が圧倒的に上。上手くいなさなければ圧殺される。


気が抜けない。だが、力任せに振るわれる剣ごときに後れを取るわけも無く、そのまま剣を交えつつ位置を入れ替えていく。



「今だ! 突け!!」


「は、はい!!」



<剣持ち>が俺に気を取られたため、背後を取った形になった肩を負傷した兵士に叫ぶ。


はっとした兵達が槍で背中から<剣持ち>を貫く。


槍に縫いとめられ、動きが鈍った<剣持ち>の両腕を切り落とし、後は任せる。


これでいい、本来<人型>はモンスター中もっとも貧弱な類。


攻撃を引きつける役が耐えている時以外、それ程危険な相手ではないのだ。


これでバリケード内部の<人型>は始末できた。



「よし、そこのお前、指揮官か? 戦える兵は何人居る?」



肩を負傷した兵士を衛生兵に預け、手近な所に居た若干小奇麗な格好の兵士に確認する。



「い、いえ、隊長達は負傷してしまい、後ろです。指揮官は、おりません。それで、無傷なものは…およそ、12人です。後は負傷兵で治療後再び戦えそうな者が軽度重度合わせて20人余りになります。」


見回す。どいつもこいつも若い。数が少ないのは<人工人型>をアテにして配備を減らしたのだろう。


…ベテランは何処に行った? いやそれよりも、だ。


既に十分とは言えない兵数になっている。



「聞こえるな! 陸軍総帥デュラール=ミラ=アーリントンだ、これより貴様達には私の指揮下で戦闘を行ってもらう! まず負傷兵と衛生兵は下がれ! だが治療が済み次第戦えるものは順次戦線に復帰しろ! 分かったな!!」



了解です、と声が続く。よし、反発するものも居ない。



「いいか、隊列を組む必要は無い、私とフェルブルム卿に2人ずつ付け。残りは4人一組だ。<人型>に対しては必ず1体ずつ対応しろ! 包囲し背後から攻めるのだ。動きが鈍ったら両腕を切り落とせ! その後とどめを確実に刺せばいい! 攻撃魔法は使うな、この程度の<人型>相手には無用だ!! 次が来るぞ! 総員戦闘用意!!」


「りょ、了解しました!!」



返事を聞き終えたと同時に<人型>が1体バリケードを越え、踊りかかってくる。


そこへ指示した通りに兵士が4人一組で対応をする。



『流石だな陸軍総帥。烏合の衆になっておったようだがあっという間に兵士の顔に戻りおったわ。』


「ああ、いや、この寡兵で守り抜いたのだ。士気こそ下がってはいたが彼らは十分な精鋭だ。烏合の衆では無い。それに…まだここからだ。」


『ふ、そうだな、おい、<人型>がどのぐらい配備されていたか分かるものは居るか?』


「は、はい! およそ300体が待機中でした。ですが、200体程は檻の中での待機の筈でしたので、徘徊しているのはおよそ100体だと思われます。」


『300、と見たほうが良さそうだな。』


「ああ、そうだな。」



どんな檻かはしらないが、相手はモンスター。檻程度では抑えられない、と見たほうが良いだろう。



「<人型>の種類は? <魔法使い>は居るのか?」


「はい、その、<歩兵><剣持ち><双刃><槍持ち><槌持ち><鎧付き><魔法使い>…とりあえず確認されているほぼ全種が居た筈です。」


『<魔法使い>に<槌持ち>も、だと?』


「不味いな、このバリケードではいずれ破壊されかねん。補強する資材は?」



高さと質量はあるが、所詮は石。破壊力の高い<魔法使い>や<槌持ち>ならば問題なく砕くだろう。



「ございません…」


『やれるだけ、やるしかないのか、おい、我輩に付くものは我輩の後ろだ。我輩が一撃を入れたものにトドメを刺すだけでいい。』


「私に付くものも同じだ。私が前で抑えるので左右から突け。いいな」


「「「「了解しました」」」」


「よし、ではやるぞ!」



さらに乗り越えて来た数匹に対峙する。


バリケードを越える前に見た群れは、数え切れなかった。


長い、戦いになるのを覚悟しなくてはならない。

9/23 誤字修正しました

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