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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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7-2<それぞれの戦い、神殿・空2>

廊下を駆け、前を走る<人型>を追い抜き様に切り倒し進む。


セバスさんとイリアさんの居る部屋は目の前。だが索敵範囲に入った直後に最も近い所に居た数匹は既に突入している筈。


今回はセバスさんも護身用で無く戦闘用の魔道武具を用意したと言っていたが、それでも相手はモンスター。


危険だ。急がなくては!


奥から向かって来る<人型>にナイフを投擲、そのまま急停止をかけて扉の粉砕された部屋へとなだれ込む。



「セバスさん! 無事ですか!?」



薄暗い室内へと飛び込んだ直後、目に映ったのは<人型>の背中、良く見ると、両腕が無い。


その背中が、胴から斜めにずれて落ち、その奥には無傷らしいセバスさんが居た。



「ユート様。私は大丈夫です。ソフィーリア様達は?」



そう返事を返すセバスさんの両腕には、短刀よりも短い極太の刃、いや、杭と言ってもいいものの生えた手甲が装備されている。


…あれで、切った?


足元には2、3の<魔晶石>が転がっている。部屋に他の<人型>の姿は無い。


疑問はあるが、全て迎撃し、倒していたようだ。流石だ。



「こちらに向かってる。途中目に映った<人型>は始末しておいた。だけど、急いで合流した方がいい。」


「そうですね。では、私がイリア様を…」


「いや、俺が担ぐよ。その方が早い」


「承知しました。では、僭越ながら護衛を勤めさせて頂きます」


「ああ、よろしく頼むよ」



一人でも卒なく倒していたようだし、任せても構わないだろう。


素早くイリアさんを簀巻きにして肩に担ぐ。


粉砕し開け放たれた扉からセバスさんを先導に飛び出し、再度気配を探る。


ソフィー達は…まだ辛うじて索敵範囲にひっかかる程度の距離だ。


急ごう。



そのままセバスさんの速度に合わせ廊下を駆ていると、目の前の壁が豪快に吹き飛び、新たな<人型>が進入してきた。


慌てて破片からイリアさんを庇って離れる。と、そこにセバスさんが飛び込んだ。


観察する。敵は変わらず<人型>。だが、おかしい。なんだあの右腕は?


まるでそこにもう一人分の人間が詰め込まれたような異様なバランスで肥大化している。


その腕が、勢い良く振り上げられ、


ブン、とセバスさんの真上に肉の塊が振り下ろされる。



「<槌持ち>…です、かっ!」



ドゴン! と轟音を上げ足下の石畳が砕け、数10センチ程の深さまで抉れる。


かなりの衝撃、直撃すればひとたまりも無いだろう。


しかし、あまりにも動作の大きすぎたその攻撃は、セバスさんには通用せずあっさりとかわされる。


鋭く横合いに回りこんだセバスさんの、両腕に装着された手甲から生えた60センチ程の幅広の剣が一閃され、その巨大な右腕を二の腕の位置で切り離す。



…幅広の剣?



勢いそのままさらに回り込み、返す刀で再度振られた反対側の剣が反対側の腕も切り落とす。


そこで、目を見張る事が起こった。



「―参式機構変化―<模倣千剣・剪刀>」



ギチギチギチと耳障りな音を立て手甲から生えた剣が伸び、ジグザグに湾曲する。


さらに両腕の剣が組み合わさり、新たな武器を形作る。


それは<人型>の胴をすっぽりと挟みこむ程の巨大なハサミ。


じょぎん。と、腕を失った<人型>が胴を真っ二つにされた。



「凄い…」



思わず声が漏れ出る。完全に刀身が変形した。可変式の武器だなんて!


こんな時なのにわくわくさせられる。


本当にこの世界の魔道具は千差万別で物凄く興味を引いてくる!



「私は齧った程度ですので4形態しか使いませんが、ね」



そう言って崩れる<槌持ち>の<人型>をそのままに再び走り出す。



「<千剣>の本来の使い手の方はそれこそ千種類の刀身を駆使すると聞き及びますよ」


「それはまた、一度は見てみたいな。」


「王都にたどり着きましたら、お会いできますよ」


「楽しみだ」


「ええ、ですのでその為にも」


「ああ。この場を切り抜けよう!」



廊下を駆け、曲がる。その先にはソフィー達の姿が見えていた。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「遅い! 遅い!! 遅い!!!」


<魔槍ヴェルスパイン>で戦場を縦横無尽に貫く。


狙ったのか流れ弾なのかは知らないがこちらに向けられる魔法は<護炎球の腕輪>の過剰発動で作り出した炎の壁が弾き、すれ違い様に打ち出した<爆裂火球>が敵を包み、それで落ちなかった鎧を着たものは直接貫き砕く。


誰も、止められない。


いつもより調子が良いどころの話ではない。


槍の性能が上がったこともあるが、それよりも私自身の体のGに対する耐性と魔力量が圧倒的に違う。



すごい、すごい、すごい!



今までは出せなかった速度が出る。


今までは出来なかった速さで旋回できる。


腕輪に流す魔力も全力のままなのに。


こんなペースで魔力を使ったら10分も飛べば危険域になっていたはずだ。


なのに、10分なんてとっくに過ぎている筈なのに魔力が尽きる気がしない。


1時間は軽く飛んでいられそうな気がする。



――これが<強化魔法>


――これが、ユートのくれた力!



胸の内から多幸感と高揚感がとめどなく溢れ出し、抑えられない。



「くくく…ははははははははは!!!!」



抑え切れなくなった笑いを吐き出す。


楽しい。嬉しい。愛しい。


つい数日前に私を追い詰めたヴイーヴルが次から次へと蚊トンボの如く堕ちる。


まさに鎧袖一触とはこのこと。


ユートがここに居ないのは寂しいが、


今この空の戦場を支配しているのは私。


後で、伝えよう。


良くやったね。と褒めてくれるだろうか?


楽しみだ。


ああ、楽しみだ!!




◆◆◆◆◆◆




粗方のヴイーヴルを堕とし、ワイバーンの数と比べても互角以下に減った所で手近なワイバーンに取り付く。


<護炎球の腕輪>は停止させたが他はそのままだ。何時でも飛び出せる。



「おい、お前、空軍の兵だな? どうなっている? 何故お前たちがヴイーヴルと戦っている?」


「ひっ、は、はい! 自分は、空軍105小隊、セ、セルダン准尉であります! せ、戦闘理由は、モンスターを制御していた腕輪が突然砕け、自由になったモンスターが襲い掛かってきたので、緊急措置として迎撃しておりました!」


「自由に、なった? それは<人型>もか?」


「はい、地上では城門を閉ざし陸兵が交戦し、全ての人を玉座の間に避難させております!」



城門を閉ざした?


緊急時の判断としては、間違っていないのだろう。


だが、城門はかなり特殊な構造で一度閉ざすと再び開くまでにかなりの手間がかかる。


となれば、ワイバーンでも使わない限り援軍が中に入れるのはどんなに見積もっても閉ざした5時間以上後になる。


…空は、殆どヴイーヴルが占拠していた。


では内部は居合わせた兵達のみでの迎撃をしている…?



「…私が誰だか分かるな? お父様達は?」


「はい、同じく避難誘導が行われている筈です」



やはり、中か。



「そうか、ここの指揮官は誰だ?」


「隊長も副長も落とされました…今はあそこのミレイ中尉が臨時指揮を取っています。」



指し示された方向を確認する。低速でヴイーヴルと1対1の混戦飛行を行っている兵が見える。あれか。



「よし、ありがとう。おい、聞こえるかミレイ中尉。陸軍特殊任務隊隊長、メリアルーナ=ルグス=アーリントン中佐だ。状況は聞いた。ここからは私と私の隊が引き受ける。お前たちは一旦下がり、編成し直せ。その後、手伝うつもりが有るならば私の指揮に従え。以上だ。…いや、もう一つ付け足そう。無駄に死ぬな。以上だ。」


「……っ、了解、しました。」



その言葉を受け待機状態だった<剛爆炎の腕輪>を発動させる。


一息で作り上げ、放った爆裂火球がミレイ中尉とヴイーヴルに向かって襲い掛かる。


だが速度は然程出さなかった。


危なげなく双方が分かれるようにかわしたところで爆発。その隙を突いて彼女も離脱に成功する。



「聞こえたな。お前も下がれ。こんなバラバラな編成では落とされるだけだ。分かるだろう。」


「は、はい!」


「よし、では、私は往く。」


「…御武運を!!」



再び空へと身を投げ、飛ぶ。お母様達が来るまでは…まだ距離がある。


彼らを守れるのは、今はまだ私だけだ。



「お母様、聞こえますか…」



全力で<護炎球の腕輪>と<剛爆炎の腕輪>に魔力を流しつつ、円周軌道をお母様達に近づくよう調整し、報告を始める。

9/21 誤字修正しました。

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