7-0<トラと・・・>
「で、なんで皆ここに来たのだ?」
アーリントン卿の軟禁される部屋に、その日訪れたのは3人の男達。
「知らんのう。」
「ワシは忙しいのだが…」
答えたのはフォワール卿とキャメル卿。
「我輩が呼んだのだ。」
「ああ、それは分かっている。」
最後の一人は勿論この男、フェルブルム卿。
「何の用があって呼んだのか、だ。いや、そうか決着が着いたのか?」
以前聞いた空軍と初戦が行われる、という日から既に数日。結果の報告が届いてもおかしくない。
「おお。それもある。まぁまずは説明させてもらえんかな」
「うむ。聞かせてもらうかの。」
「…そういことなら、仕方ないな。」
「どうなった? 勝ったのか?」
とりあえず急かす。
しかしフェルブルム卿はそれにはとりあわず、器用に指を1本立て順番に話し始める。
「ではまず今だが、あの根暗眼鏡は出かけておる。」
「ほう」
「ふむ。」
「みたいだな。」
それは知っている。
この部屋に居てもそのぐらいの情報は得られる。
「そして何のために出かけたのかだが、表向きはあやつの妻を診る医者が見つかったから訪ねている、という事になっている。」
「ほう」
「らしいのう」
そう聞いて複雑な心境になる。聞いた所によると奴の妻の病状は深刻で最早治療不能な状態の筈。
己も病身の妻を持つ身。必死になる気持ちは、分からなくもない。
「ワシもそう聞いたが、表?」
キャメル卿が問う。確かに、そこは気になった。表向き、ということは裏もあるのか?
「おう。裏が本命だ。実は神殿で王と王妃と会談をしに行った。」
「何だと!?」
「王妃に王、じゃと?」
「ほ、本当なのか!?」
放たれた言葉に皆揃って騒然とする。
事実だとすれば、召喚魔術の成功は確定した、という事になる。
そうなれば様々な問題が、一気に解決する。無理も無い。
「おう。喜べロリコン。先遣隊は見事に返り討ちにされて捕虜になり、本隊で強行策に出た空軍は良く分からんが対飛竜用の毒かなにかで落とされるも人的損害は0で完全降伏。そしてアーリントンから来た文は、その旨とあやつの妻子の治療をエサに会談と降伏を求めるものだった。」
「……」
「ほ、ほ、ほ、まさか、そんな展開になるとは、の」
「信じられん…」
聞いた限りでは、完勝。それもこれ以上無いほどの。
そんな事が、ありえて良いのか?
「我輩も信じられんかった。だが、報告の通りなのだ。嘘を言っても仕方あるまい?」
「……」
「そうじゃのう。」
「確かにそうなのだが…」
そうだ、そして完勝ならば賭けには勝った事になる。つまり…
「おい、何故剣を抜く」
「どうしたのじゃ」
「ひ…」
「…いや、済まん落ち着こう。」
メリアの夫候補と雌雄を決する事を考えつい抜いてしまっていた。
「何故、剣をしまわぬ…」
「プルプルしておるの」
「…や、やめて欲しいのだが」
「うるさい、察してくれ!」
「まぁ賭けに勝って嬉しく、だが娘婿を認めねばならず…と複雑なんだろうが…」
「ふぅむ。娘婿? ああ、そういえば言っておったのメリア嬢に春が来た、と。」
「…………」
「ああ、そうだ。いや、そんな事より何故我々を集めた? その報告だけではないのだろう?」
気を取り直し、やっと剣を仕舞い聞いてみる。
「おお、そうだ。今朝方出たので今この王都は手薄なんでな。どうする? とな。何かするなら今だろ?」
「中立じゃしのう」
「ワシも中立だ。」
「降伏は見えて居るではないか。わざわざ暴れるまでもなかろう?」
「それもそうなんだよな。」
「ならば何故集めた? 報告だけ、なのか?」
「はっはっは」
「だけ、のようじゃな」
「忙しいというのに…」
どうやらトラもあまりの朗報についやってしまったようだ。
気持ちは分からなくも無い。俺も祝杯を上げても良いような気分だ。
「ふむ。まぁ折角じゃし、あやつが降伏した後の事でも打ち合わせておくかいの?」
「おお、それはいい」
「む。確かに」
「…それなら実りが有りそうだな」
「とりあえずはソフィーリア様の事じゃし…ここまで人的被害が無ければクーデター事態を「無かった事」にとか言ってそうじゃの」
「ああ、我輩もそんな気はするな。」
「あれは優しい娘だからな…」
「フン。王家の統治を維持するならば、5大家を崩したくはないだろう。さらに今は一人でも味方が欲しいだろうしな。」
「そういう側面もあるか。ならばさらに有り得る、か」
「十中八九、じゃな」
恐らく、間違いないだろう。
「では、まずはそれを前提に詰めるか?」
「そうだな。ワシに異存は無い」
「わしもじゃ」
「私もだ。」
「ふむ。では……
◆◆◆◆◆◆◆◆
「とりあえず、落し所としてはそんな所か……仕方あるまい」
「ああ、必要な事だ。」
小一時間程語り、おおよその決が出る。
状況は難しいが、落しどころの一つが確定している為に意見は割れる事も無く、その周辺を整理するだけで済んだ。
バルナム卿もあれで、この国を思う中々見所のある男だった。
降伏しか無いとなると、恐らく我々の下した決断と同じ答えにたどり着き、己の役割をきっちりと理解した上で、潔く行動してくれるだろう。
「…しかし、何か、騒がしいな?」
語り終え、ひと段落した所でふと、気に成った。
「ふむ? 確かに。戦闘でも行っているかのような…」
「我輩達以外で、この隙に決起したものが?」
「きゅ、救出部隊かも知れんぞ?」
確かに、その可能性は有るかもしれない。
「会談の裏を突いて、か。」
「ふむ…」
「情報が漏れて居るとは思えんのだが…少し確認して来てみる。」
人払いをしていた為この部屋には兵が入室して来ていない。
扉を開き、トラが状況を確認しようと叫ぶ。
「誰か! 何事か!?」
えらく、遠くを確認するような声を出したな?
扉前の警備兵も居なくなっていた?
不思議に思う。
だがそれ程の間もなく、扉の前で警備をしていた兵がやってきたようだ。
「何が起こっている?」
「は、はい、それが、バルナム卿の持ち込んでいた<人工人型>の制御用魔道具が突然砕けまして、只今城内で戦闘が行われています。」
「なんと」
「なんだと!?」
「そそそそそんな!?」
自暴自棄になった? いや、そういう男でもない。では何だ?
いや、そんな事を考えている場合ではない。
モンスターが王宮内を徘徊している、だと?
即座に駆け寄り、トラに並ぶ。
「おい、トラ、どうする。」
「知れたこと。我輩がやらずして誰に任せる」
聞くまでも無かったか。
「ならば俺も行こう。」
「ほ、ほ、ほ、では老人はひっこんでおるかの」
「わわわわワシも駄目だ!戦闘なぞ!!」
二人の反応は予想できた。
「期待しておらんよ。兎に角、警備兵。我々は往く。構わんな?」
「は、はい!よろしくお願いします!!」
警備兵に断り、本当に久しぶりに、俺は部屋から飛び出した。