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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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5-3<紅い空>

「大隊長、間もなくクローズ陸軍基地です」


「ああ」



我々の隊はアーリントンの領内を飛んでいた。



「…予定通り、やるのでしょうか」



もう30分も飛べば目的地のアーリントン南部クローズ陸軍基地上空にたどり着く。



「ああ、降伏宣言は成されていない」


「…了解、しました」



空軍第3大隊、ワイバーン15騎にディノスバーン250騎。


搭乗者はワイバーンに各1、ディノスバーンには各5。総数1265人。


今回の作戦は、端的に言えば基地上空より空爆を敢行し、壊滅もしくは被害甚大を持って降伏を迫る…そういう事だ。



「迎撃は、あるのでしょうね」


「ああ、恐らく我々の部隊が最も激しい攻撃を受けるだろう」



どうしてこうなった?


本来ならば先遣隊が制空権を取り、空爆は成される事無く降伏させる、という作戦のはずだったのだ。


しかし、先遣隊は敗北し、制空権は向こうのままでの強行爆撃作戦に変更された。


このままでは陸、海軍に致命的損失を与える事に成功しても、我々も迎撃を受け大損害をこうむるだろう。


爆撃用の装備で足の遅いディノスバーンが主の部隊なのだ。


さらには中隊規模に分散したため護衛騎が満足に配備できず、空戦となれば迎撃に出るだろう陸軍のワイバーン部隊にとっては殆ど止まった的に過ぎない。


正直、死ね、と言われたのに近い程の無謀な作戦。



だが、命令は下されたのだ。いまさら引けない。



「勝って、どうなるのでしょう」


「しらんよ。我々は任務を遂行するまでだ。余計な考えは持つな。死ぬぞ」


「ですが、ここで陸・海・空全軍が甚大な被害を受ければ国防等ままならなくなります」


「例の<人型>を操った物で守るんだろう、空軍用のワイバーンもどきもだろうな」


「…だからと言って人的損害を無視した作戦など」


「諦めろ。やらねば抗命罪でこの俺がお前を即決刑にすることになる」


「…」



それは、遠まわしに死刑にする。ということだ。



「お前とも、もう6年だ。今更そんな事はしたくない」


「はい」



「この国はどうなってしまうのだろうな…」


「分かりません…」



今までは本当に平和な国だった。


何時から狂いだしたのだろうか? …分かりはしない。


しかし考えたところで自分は只の大隊長。今更どうしようもない。


今は、任務をこなそう。その後の事は生きて帰ってからだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆




『こちら第1偵察騎! 大隊長! 副長! 聞こえますか!?』



大隊長との会話を一旦区切り、暫くたった頃だった。


唐突に、2km程前方で哨戒中継をしていた第一偵察騎から慌てた声が届いた。



「どうした」



大隊長が確認をする。



『第5偵察騎から報告、「前方から赤黒い霧のようなものが向かってきます」との事です』


「なんだそれは?」


『分かりません。ですがかなりの速度と範囲です。もう、目の前に…避けられません!! うわぁあああああ!!』


「偵察騎!? おい、偵察騎! 返事をしろ!!」


「大隊長、正面、見えます。なんですか…あれは?」



そこには前方の空一面を埋め尽くすように広がる赤黒い霧のようなものが見えていた。


あれが、1〜5番騎を瞬く間に飲み込んだのか?


5番偵察騎と1番の距離は10kmはあった筈なのにあっという間だった。



「分からん、見たことも無い。偵察騎! 聞こえるか! あの霧は何だ!?」


『こ、こちら第1偵察騎。現在霧に飲まれています。視界が悪いですが、それだけのようです。他の偵察騎からも別に何もありません。只の霧…いえ、霧よりも軽いです』


「…色的なイメージでは有りますが毒、という事もないようですね」


「…驚かせおって」



…そもそも常識的に考えて、魔法を使おうが何をしようが空一面を覆う程の毒が撒ける筈もないのだ。


つまりこれは只の自然現象。只の霧。


何故赤いのかは分からないが、避けようも無いし問題が無ければ突っ切るだけか。



「左右の中隊、聞こえるか。前方の赤黒い霧は只の霧だ。だが回避出来る規模でも無い。突っ切るぞ。視界が悪くなる事に注意しろ! 以上」



大隊長の判断も変わらない。


瞬く間に霧が近づく。こちらも向かっているし、こちらに向かって来ても居るようだ。


飲まれる。



『だ、大隊長! 副長! 聞こえますか!?』


「聞こえる、どうした?」


『こちら第1偵察騎。第4偵察騎のワイバーンが翼痙攣を起こしました。不時着させます。との事です』



翼痙攣、だと? それは無理をさせ過ぎた飛竜等が稀に起こす症状だ。


これが起こると飛竜は上手く風を掴めず酷い時には飛べなくなる。


勿論空に居れば墜落しかねない危険な症状。


…今回の偵察騎は8騎。ローテーションはきちんとしていた。


それ程疲労が溜まっている筈はないのだが?



「許可する。落ち着いたら追ってくる様に。おい! 第6偵察騎! 代わりだ。行け!」


『き、聞こえますか!? 第5、第3、第2偵察騎、共に翼痙攣を起こし、不時着体制に入りまし…った!?』


「どうした?」


『こ、こちら第1偵察騎、私の、ワイバーンも翼痙攣を、ふ、不時着します!』


『隊長!』『ディノスバーンが!!』『堕ちる…堕ちる…!?』

『翼痙攣です!』『不時着を!』『不時着します!!』『ワイバーンが!』

『高度、維持出来ません!』『翼痙攣を起こしています!』



第一偵察騎がその報告を伝えた途端だった。悲痛な声が一気に届く。何が、起こった?


と、同時に自らの騎乗したワイバーンもがくり、と動きを止めて堕ち始める。



「こ、これは? 翼痙攣を起こしたのか!?」



座った鞍の下から、小刻みな振動を感じる。間違い、無い。


隣を見ると、大隊長のワイバーンも高度を下げている。何だ? どういうことだ?



『だめです、堕ちます、不時着します!』『不時着します!』『すみません、不時着します!』



声が途切れない。振り返り見れば、後続のディノスバーン10騎。ほぼ全てが高度を落している。


馬鹿な、全ての飛竜が翼痙攣を起こしているのか? そんなことが有りえるのか?



「副長、済まん! 俺も不時着する!」



大隊長が叫ぶ。だが、俺のワイバーンも高度がグングン下がっている。不時着するしかない。



「大隊長、私も駄目です! 不時着します!」



それだけ叫び、翼痙攣を起こしたワイバーンを軟着陸させるために集中する事にした。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「わははははははははははははは!!」


「―**なる***の空よ! 我が******と成せ! 我**名に従い、我が***を成せ! 我が名は******! 答えよ***の空よ!―」



マールの嘲笑と呪文が響く。


だがこれはなんだ? これが魔族の魔法なのか?


先ほどからマールが叫んでいるのは明らかに詠唱とも発動言語とも違う。


俺の体を、俺の魔力を駆使しているから分かる。


この魔法は、俺が良く知っている「魔力を燃料にして擬似的自然現象を起こす」といった類のモノではない。


魔力をあたかも苗床であるかのように使い、目に見えない程の微小な生命を生み出す。


その生命に何かを食わせる事で、赤く霧状に見えるほどの恐ろしい量の病原菌を吐き出させている。



俺の使う魔法はある意味で電気やガソリンを使うようなもの。魔力を何かに変換する。


そして俺が知る限りではそこから外れた例外的な魔法は無い。


若干違うものもあるが、概ね魔力を使い何かを作り出すと言う点に変わりは無い。



しかし、これはその常識を飛び越えている。作るのではなく、産む。いや、創るのか?


まさに魔法だ。とても真似できるとは思えない。魔法生物というのは伊達ではない。


さらに…この風だ。


先ほどから大量に生産された病原菌を撒き散らしているこの強風に、マールは魔力を全く使用していない。


魔力の流れをどう感知しようとしても、同じ結論に至る。


つまり…普通に俺の常識で考えるならばこれは自然現象のはずなのだ。


だが、これだけ明らかに人為的で不自然な風が自然現象の訳が無い。


信じられない。


最早己の意のままに、世界を思うように改変し、まるで無から有を成している…ような、そんな不気味な気配を感じる。


どういう事なんだ? 


かつての記憶を思い出してみるが、俺が戦って来た魔族も魔王も魔法の扱いに関しては、俺の知る基本のそれと比べて、見た目には…然程変わらないものだった。


あれも、これと同じで、理解不能な技術だったのか?


それとも、マールはただの魔族ではない?


…そういえば魔王に食われた、とは言っていたが魔王の眷属とは言っていなかった。


さらには<意乗の言>も働いている筈なのにマールの口から放たれる呪文の一部が聞き取れない。



『マール、お前は一体…?』



つい、質問してしまっていた。



「残念じゃがその質問が出るようではまだ答えられぬな。おんしではそれを知るには足りぬ」


『…そうか』



一瞬あせり、その返答に安堵する。



マールに迂闊な質問をすると、対価を奪われかねないからだ。


基本的に大抵の質問には気軽に答えてくれるのだが、


ごくたまに、俺に利益が出る質問や、俺が知らなかった重要な知識が答えになる場合に、奪われる。



1回目の時はプール外の自由に出来る魔力の大半を擬体用に、と根こそぎ持っていかれた。


2回目の時は、…搾り取られた。体力とか、色々。


3回目は……割愛しよう。2回目以降は似たり寄ったりだ。


そして、幾度目かの時にこう言った。「案ずるでない。こうやって対価を貰うのは、後にも先にもおんしだけ。光栄に思うのじゃな」と。


………いや、そんな思考をしている場合ではない。


色々まずい思考を振り払い、元に戻す。



ええと、そうだ。今回の答えは「答えられない」…なら、無理なのだろう。


…いつかは聞かせて貰えるのだろうか?



「もういいじゃろ。ん? どうかしたかえ?」


「…いや、派手にするとは聞いていたが、まさかここまでとは」



ワイバーンの背中に立ったマールの前方に座っているメリアが振り返り、呆れたような声を上げる。


その呟きも頷ける。


何故ならアーリントンの空は今や見渡す限り全てが禍々しいまでの真紅の霧に包まれており、さらには光を遮られたせいで薄暗くなってしまい、不気味さがより一層増している。


何処の魔界だ? といった趣だ。



「ふっふっふ。とりあえずこれで空軍は全て落ちたじゃろ。後はおんしらがどうするか決めよ。妾は戻る」


『ああ、ありがとう』


「そうだな。戻って早急に作戦会議だ!」


「うむ。それとあの根暗娘の治療もじゃな」


『そうだね』


「それもあったのか…しかしどうするんだ? 治癒魔法をかけても自然に完治した傷跡などには効果は無いだろう?」


「ああ、何、やるのは治癒魔法ではないのじゃ」


「ほほう。となるとまた何か異世界魔法を見せてもらえるのか?」


「うん? おんしも知っておるモノを使うだけじゃぞ?」


「…? 私も知っている? ならもったいぶらないで教えてくれないか?」


「ふふふ、折角じゃしユートに聞くんじゃな。妾は先に戻らせて貰おうかの」


「…そうか? いやまぁ分かった。ありがとう」


「礼には及ばぬ。では」



そう言った瞬間俺の体に自由が戻る。髪が、目が、刺青が、全て元に戻る。


頭を振って、全身の感覚を確認する。



「おお、お帰りユート。で、どうやって治すんだ?」


「ただいま、えと、それは――」



聞かれたままに答えるとメリアは微妙な顔をした。


マールのやつ、間違いなく分かっていて俺に言わせたな……

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