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Violence Hazard〜痴漢考 小説編  作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
4/4

第3話〜痴態

静寂を切り裂く悲鳴も、濁流のような理不尽も、すべてはあの冷たい橋の下から始まりました。これは、尊厳を深く傷つけられながらも、失われた自分を取り戻すために暗闇の中を歩み続けた一人の女性の記録です。


 手を牽かれ、わたしは橋の基礎フーチングの陰——周囲の視線から完全に遮断された暗がりへと引きずり込まれた。

 襲いかかる恐怖と強い拒絶感、嫌悪感そして全身を苛(さいな)む羞恥心に、足がすくんで動けない。


「やめて、ください……」


振り絞るように絞り出した声は途切れ途切れで、はるか頭上を過ぎる喧騒には届かないことが、絶望的な距離感から痛いほど伝わってきた。


『何を。まだ何をするとも言ってないよ。え?もしかしてお前、これから何をされるのかをわかっているのか?』


 三人目の一番若い男が薄気味悪く言い放った。わかっていたわけではない。でも、本能的に知ってはいたのだと思う。


 それでも、ただ屈するわけにはいかなかった。一人の人間としての尊厳を守るため、必死で抗い続ける。


「痛(い)ってぇな! 噛むな、大人しくしてろ!」


 男の怒号が鼓膜を刺す。事態の深刻さに打ちのめされながらも、どこかで冷めた自分が「この出来事は、誰にも言えない」と確信していた。


 屈服してはいけない。心を失ってはいけない。遠のく意識の中で、ただひたすらに耐え抜くことだけを祈っていた。


『こ……、殺すのだけはやめて。それ以外なら何したっていいから……』

「くくく。何をしたって、ねえ。じゃ、まあ遠慮なくさせて貰うぜ」


 わたしの切実な思いは、あまりの恐怖にその方向へと変わった。命だけでも助かれば良としとしよう━━と。


『いや』

 「こいつ、こんなに喋るのか?大人しそうな顔して」

『やめて』

 やめて欲しけりゃももっと股開けや

『こんなのってへん』

「ヘンだと?この野郎」

『そこだけはやだ』

「そこって何処だよ?口に出して言ってみなよ」

『知らないっ』

『こんなところじゃいや』

「あ?じゃあ何処ならいいんだ?強姦されて、ホテルにでも誘うってか?」

『汚いっ!』

「何だと?失礼な餓鬼だ」

『子供ができちゃう』

「わはは!できるわきゃねーだろ」

『こんなのおかしい!卑怯者!』『痛い』『大き過ぎる。無理です』『いたあい』『一生恨んであげる』『私だけじゃなきゃいやよ』『嗚呼、血が出てる。なにこれいや、死んじゃう』『御母さぁん……』『汚らわしい、恥ずかしい』『ヘンタイ!』『誰か来る』『隠れたい』『お口、塞いで』『あ、あたしの躰がへん……』


どれほどの時間が過ぎただろう。気がついたときにはただ必死の思いで自宅へ帰り着き、バスルームへと駆け込んでいた。傷口を刺すような熱いシャワーを全身に浴びせ、身体に残る不快な記憶をすべて洗い流そうと必死だった。痛みはまだ残っており、最悪の思い出を、脳裏に焼き付かせるようだった。


たまたま帰宅して、その様子を見た母は、何も聞かずにわたしを深く抱きしめた。女同士、察するものがあったのだろう。


「様子を見てあまり酷い痛みが続いたら婦人科のお医者様に行こうねに……もう、あんなところへ行っちゃダメよ」


涙を浮かべた母の瞳には、哀しみと深い傷みが宿っていた。そして憎しみと。


——行っちゃダメ?

 その言葉の本当の意味を理解するには、当時のわたしはあまりにも傷つき、混乱していた。そして、幼かった。





第3話をお読みいただきありがとうございます。

暗闇の中での過酷な体験と、それによって生じた母との絶妙な歪み――主人公が背負うことになった痛みが、ここからどう動いていくのかを描いていきます。

重い展開が続きますが、彼女の歩みを最後まで見守っていただけますと幸いです。評価やブックマークも執筆の大きな励みになります。よろしくお願いいたします。

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