第8話「夢の中で、記憶が戻ってきた」
夢を見た。
画面の光。指先の感触。スマホを持って、ソファに寝転んでいる。
前世の記憶だ。
夢の中の私は、乙女ゲームをプレイしていた。『永遠の薔薇に誓いを』。あの頃の自分が、画面をタップしている。
(見てる。見てる、これ)
夢の中なのに、意識だけははっきりしていた。
画面の中に、断罪シーンがあった。
広いホール。シャンデリア。集まった貴族たち。そして中央に立つアルディア。
「アルディア・フォン・クレシェント。貴様の罪状を読み上げる」
誰かが言う。夢の中でも声が聞き取れない。でも次の言葉は、はっきり聞こえた。
「──でたらめだ」
アルディアの声だった。
泣いていた。あの完璧な悪役令嬢が、人前で泣いていた。
「私は何もしていない。何も、していないのに──」
そこで夢が途切れた。
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目が覚めたとき、頬が濡れていた。
(泣いてた)
自分が泣いていたのか、夢の中のアルディアに引っ張られたのか、分からない。
暗い天井を見上げながら、夢の残像を必死につなぎ合わせる。
アルディアは泣いていた。「何もしていない」と言っていた。
(もしかして)
もしかして、アルディアは本当に何もしていないのではないか。
乙女ゲームの悪役令嬢といえば、ヒロインをいじめて、攻略対象の邪魔をして、最後に断罪される。それがテンプレだ。私もそう思っていた。
でも。
この三ヶ月近く、アルディアとして生きてきて、一度も「悪いことをしたい」と思ったことがない。体の衝動も、記憶の中にも、そういうものがない。
アルディアは──元々、悪役じゃなかったのではないか。
(だとしたら誰が)
誰かが、アルディアを悪役に仕立てた?
眠れないまま夜明けを迎えた。窓の外が白み始める頃、私の中で何かが静かに固まった。
もう「やり過ごす」だけではいけない。
真相を、知らなければならない。
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翌朝、私は図書室に直行した。
「アルディア? こんな朝早くに」
クロードが驚いた顔で立っていた。彼も早朝から図書室にいるらしい。
「調べたいことができたの」
「何を?」
少し迷ってから、答えた。
「貴族の派閥と、この五年間の政治的な動きを」
クロードが目を細めた。
「……アルディア」
「何?」
「何かに気づいたか」
その問いに、私は思わず足を止めた。
「……クロードは、何か知っているの?」
クロードは少しの間黙って、それから静かに言った。
「俺も、ずっと調べていた」
図書室の中、朝の光の中で、二人は向き合った。
「話してくれる?」と私は言った。
「ああ」とクロードは答えた。
ここから先は、もう一人じゃない。
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*次話:「黒幕の存在に気づいた」*




