第4話「幼なじみの圧が強い」
クロードは、翌朝に現れた。
学院の正門をくぐった瞬間、「アルディア」と呼ぶ声がして、振り返ると背の高い男子生徒が小走りで駆け寄ってくるところだった。
茶色の髪に、日焼けした肌。笑うと目が細くなる。剣士系の体格で、でも威圧感はなくて、全体的に「犬」という印象だった。
(あ、これは覚えてる)
幼なじみ。攻略対象その二。確かクロードという名前だったはずで──
「クロード」
「そう、俺の名前。久しぶりに一発で呼んでくれたな」
(一発で呼んでもらえないことがあったの? 前のアルディアは何してたの?)
「体の具合はどうだ? 昨日は顔色が悪かったって、マリアから聞いた」
「もう大丈夫よ」
「本当に? 無理してないか?」
「大丈夫と言ったでしょう」
「でも顔色はまだ少し──」
「クロード」
「はい」
即座に返事をした。
(圧が強い。心配の圧が強い)
悪い人ではない。むしろ明らかにいい人だ。でも朝から全力の心配をぶつけられると、こちらの体力が削られる。
「一緒に歩いてもいいか」
「どうぞ」
「荷物、持つ」
「自分で持てます」
「遠慮するな」
「遠慮じゃないわ」
「顔色が悪い人間が重い荷物を持つべきではない」
「もう悪くないと言っています」
「俺の目には悪く見える」
押し問答の末、荷物は半分だけクロードに持ってもらうことになった。
(なんか負けた気がする)
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授業の合間も、昼食も、なぜかクロードが近くにいた。
「監視してるの?」と聞いたら「心配してる」と返ってきた。
「昨日から様子がおかしい」とも言われた。
(おかしいのは当然なんだよな。別人が入ってるんだから)
「何かあったなら言ってくれ」
クロードが、珍しく真剣な顔で言った。
「俺たち、ずっと一緒にいただろう。今さら隠し事はなしだ」
(ずっと一緒に……)
アルディアの記憶が、ぼんやりと浮かぶ。小さい頃から隣にいた男の子。剣の稽古で転んで泥だらけになっても笑っていた子。
(この人、本当にずっとそばにいたんだ)
なんだか、胸が痛い。
今ここにいる「私」はその記憶の持ち主ではないのに、アルディアの体がちゃんと覚えている。この声を、この温度を。
「……何もないわ」
「本当に?」
「ええ」
クロードはしばらくこちらを見てから、小さくため息をついた。
「嘘つくの下手になったな、アルディア」
(下手になったというか、別人なんですが)
「気が向いたら話せ。俺はどこにも行かない」
それだけ言って、クロードは自分の席に戻っていった。
私は机の上で、そっと手を握りしめた。
(この人を、傷つけてはいけない)
理屈ではなく、そう思った。
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◇
──その夜、クロード・バレンシアの日記にはこう書かれていた。
『アルディアが変だ。優しい。怖い。でも目が少し寂しそうだった。気になる』
気になるな、と私も思った。この幼なじみのことが。
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*次話:「断罪イベントの日程が判明した」*




