第11話「断罪パーティー当日」
王妃陛下の誕生祭は、夜に始まった。
王城の大広間は、シャンデリアの光で満たされていた。白と金の装飾、貴族たちの正装、どこかから流れてくる弦楽四重奏。絵画のように美しい光景だった。
私は、その中心に立っていた。
(来た。ついに来た)
ドレスの裾を握りしめる。隣にはクロードがいる。少し離れた場所にアルヴィンがいる。リリアは別の場所で待機しているはずだ。
作戦は決まっている。証拠も揃えた。あとは、動くだけ。
「緊張しているか」
クロードが小声で言った。
「していない」
「嘘つくの相変わらず下手だな」
「うるさい」
でも少しだけ、力が抜けた。
---
動いたのは、夜が深まった頃だった。
ダーリン侯爵の息子、ルードが人だかりの中に進み出た。若くて、笑顔の爽やかな青年だ。でもその目は笑っていない。
「皆さまに申し上げたいことがございます」
声が広間に通った。
「クレシェント公爵令嬢アルディア様が、リリア・ベル様に対して継続的な嫌がらせを行っていたという証言を、複数の学院生から得ております」
広間がざわめいた。
(来た)
「さらに、アルヴィン殿下の執務を妨害し、王家の品位を傷つける発言を繰り返していたという証言も──」
「それは虚偽です」
声が出た。自分の声だった。
広間の視線が、一斉に集まる。
(怖い。でもここで引いたら終わり)
「クレシェント様」ルードが笑みを崩さずに言った。「証言者が複数おります。否定されますか」
「否定します」
一歩、前に出た。
「その証言者の名前を教えていただけますか。私が直接、何があったか確認したいので」
「それは──」
「言えないのですか」
ルードの笑顔が、わずかに固まった。
「リリア・ベル様」
私は声を上げた。
広間の端で、リリアが進み出た。栗色の髪、小柄な体。でも今日の彼女の目は、まっすぐだった。
「私はクレシェント様から嫌がらせを受けたことは一度もありません」
広間がどよめいた。
「むしろ、入学当初から親切にしていただきました。図書室に案内していただき、話を聞いていただき……クレシェント様は、私の友人です」
「リリア様、それは」ルードが声を荒げた。「脅されているのでは──」
「脅されていません」
リリアは一歩前に出た。
「それよりルード様、一つお聞きしていいですか。私の故郷はダーリン侯爵家の本拠地に近い場所なのですが、そこで三年前から流れていた噂をご存知ですか」
ルードの顔色が変わった。
「クレシェント家を陥れるための偽証を集めている人物がいる、という噂です。子供の頃から聞いていました」
静寂が落ちた。
「私はその証拠書類を持っています」リリアは懐から書類を取り出した。「殿下、ご確認いただけますか」
アルヴィンが前に出た。
書類を受け取り、一読する。その表情は静かだったが、目が鋭かった。
「……本物だ」
低い声が、広間に響いた。
「ダーリン侯爵家による、クレシェント公爵家への組織的な名誉毀損の証拠だ」
ルードが後ずさった。
アルヴィンがルードを見た。
「ダーリン侯爵を呼べ。今夜、この場で話を聞く」
広間が揺れた。
私はその場に立ったまま、ただ呼吸をしていた。
(終わった。終わった……?)
足が震えていた。
「アルディア」
クロードが隣に来た。
「立てるか」
「立ててる」
「顔が青い」
「大丈夫」
「強がるな」
クロードの手が、そっと背中に添えられた。それだけで、涙が出そうになった。
出さなかった。今は、まだ。
アルヴィンがこちらを見た。
広間の喧騒の中で、一瞬だけ目が合った。
彼は何も言わなかった。ただ、小さく頷いた。
それで充分だった。
---
*次話:「この世界で、生きていく」*




