可愛いだけじゃない
3/13に最後の方を修正しました。
あの誕生会の後から、リリは部屋から出てくることが減った。
元々、リリは体を動かすことが大好きだ。いつもなら、朝食後は屋敷や庭を駆け回り、目を離すとあっという間に何処かに行ってしまう。
マリアや護衛騎士たちも、リリを追いかけるだけで大変だと嘆くほど、活発な子供だった。
それなのに、あの日から朝食後は、ずっと部屋に籠って、僕でも部屋に入れない。リリが、誰も部屋に入れるなと拒否してるようだ。
そして、人前で話したり笑顔が減った。あの小鳥の囀りのような可愛らしい声も、天使のような輝く笑顔も消えてしまった。
僕が、リリを守れなかったから…。
初めの挨拶の時に、アンナマリーに嫌な印象を受けたのに、何も対策しなかった。子供だからと侮って、結果、リリを傷つけた。
あれから、伯父が謝罪の為に屋敷に来て、アンナマリーについて、何故あんな態度を取ったのか説明した。
勿論、リリも僕も会いたくなかったので、お父様が対応したが、その理由には呆れてしまったし、何を言われても怒りしかない。
「テオドール、二人には本当に申し訳ないことをした。実は、アンナマリーが、ユーリアスを気に入って、仲良くなりたかったようなんだ。でも、リリアーベルが側にいるから、ユーリアスと二人で話したくて、ちょっと意地悪な言い方になってしまったようだ。」
「兄さん、どんな理由でもリリとユーリが傷ついたのは確かだ。ユーリは、アンナマリーに会いたくないと言っている。私は、別に兄さん達と仲違いしたい訳では無いからね。一応、謝罪は受けとるが、アンナマリーは、二度と二人には関わらないで欲しい。いくら、アンナマリーがユーリと交流したいと言っても、ユーリが拒否してるんだ。アンナマリーには、兄さんから、きちんと伝えてくれ。」
伯父は、お父様の言葉に肩を落として帰った。
リリを傷つけた理由が、僕だったなんて最悪だ。僕自身も許せない。
顔か?顔なのか?こんな綺麗な顔で生まれてしまったのが悪いのか。この顔のせいで、リリが害されるなら、いっそ整形するか。この世界に整形があるかは知らないが、それがいい。
「ユーリが望むなら良いけれど、顔が変われば、ユーリはリリとは違う顔になるわね。今は、双子でそっくりだけど、リリとは似てない別人の顔になるけど、ユーリはいいのかしら?」
顔を変えたいと、お母様に相談すると、そんなことを言われた。
「リリとは、違う顔………………嫌だ。やっぱり顔を変えるのは止めて、他の方法を考えます。」
顔を変えようなんて、ちょっと冷静では無いようだ。落ち着かなければ、冷静になれ!
改めて、3歳は幼すぎる。そんなの当然だが、転生して大学生だった記憶があるから、無敵だと思い込んでいた。
自分では何も出来ない。力も弱いし、体も小さい。アンナマリーでさえ、自分より大きくて目の前にすると怖かった。体を張っても負けていただろう。幼児の2歳差がこんなにも大きいなんて、知らなかった。
知識を詰め込むだけじゃ駄目だ。やっぱり体も鍛えなければいけない。
この世界には、魔法がある。ただ、僕は魔力が、そこまで多くない。平均くらいは何とかあるかな。それでも、貴族としては少ない方だ。
それなりの魔法は使えるだろうが、リリをどんな事からも守るとなると不安だ。
そこで、僕は考えた。剣を極めよう。僕のお父様は、近衛騎士団の団長だ。身近に手本になる人がいる。時期を見て、剣を習いたいとお父様に伝えれば喜んで指南してくれるだろう。
その為には、まずは体力作りだ。僕は、リリとは違って、部屋で遊ぶことが好きだったから、リリよりも体力は落ちる。
僕は、なるべく外で体を動かすようになった。時々、ゴルドリッチ家の護衛騎士達の訓練も見学したり、騎士達の体力作りの方法や、前世の記憶も駆使して、体力を付けることに専念する。
食事も好き嫌い無く何でも食べるように、頑張った。前は少食だったが、今は体を動かす分お腹が空くので食べる量も増えた。
次は…次こそは、絶対にリリに悲しい思いはさせない。
リリが、安心して部屋から出てこられるように、僕が強くなるんだ。
そう…思っていたのに…。
♢♢♢♢♢
リリが、話さなくなって部屋に籠ってから、3ヶ月が経った。
どうやら、部屋の中には、お母様とマリアだけは入室を許可されているらしい。
「リリは大丈夫よ。強い子だもの。ユーリも心配だと思うけど、もう少しだけ待っていてあげてね」
お母様は、穏やかに微笑みながら、リリの部屋に入っていった。
部屋の中で、リリは一人何をして過ごしているのだろうか。寂しくないだろうか。
あの時の事を思い出して、泣いていないだろうか。辛くはないだろうか。
リリの事を思うと心配で、時間があれば、リリの部屋の前をウロウロして、様子を窺っていた。
「ユーリアス様、今日もリリアーベル様の部屋の前で何をしているのです?」
心配で見に来ている事が分かっている筈なのに、マリアが少し意地の悪い言い方をする。
「もう、マリア意地悪言わないでよ。リリが心配だから様子を見に来たんだよ。」
マリアが可笑しそうに笑い、すみませんと謝る。
「もう少し待っていて下さいと言っても、ユーリアス様は、心配ですよね。仕方ないですね。少しだけですよ。」
マリアが、扉を少しだけ開けてくれる。
「リリは、誰とも会いたくないんじゃないの?」
僕は、小さな声でマリアに問う。
「大丈夫ですよ。ユーリアス様なら許してくれるでしょう」
マリアが開けてくれた扉の隙間から、中を覗いてみる。
「おいち…しい、さ、かなをくだ、さいな。」
「子ネコのミケが、魚屋さんに言いました。」
「こねこのミケが、た…さ、かなや…さ、んにいいまちた。いいま、し、た。」
部屋の中では、お母様が呼んだ本の内容を、リリが繰り返して声に出して読んでいた。
「…これって…」
「アンナマリー様に言われたことが、相当悔しかったらしくて、ずっと練習してるんです。」
いや、3歳ってまだ発音とか苦手な子もいるだろう。成長と共に上手くなっていくものだから、焦らなくてもいいのに、そんなに気にしてたのか。
やっぱりリリは、とても傷ついていたんだ。僕の胸がズキリと痛む。
「リリアーベル様は、自分がアンナマリー様に馬鹿にされたことで、ユーリアス様が悲しい思いをしたのが嫌だったようですよ。守りきれなくて悔しかったと言っていました。それで、次からは、完璧なレディになって、ユーリアス様が悲しまないようにしたいそうです。」
「えっ…。僕の為に…?」
「二人ともお互いを思いあって、本当に素敵な姉弟でマリアも嬉しいです。」
アンナマリーの言葉に傷ついて、焦って無理しているのではなく、僕の為に頑張っている…?
ああ、こんな嬉しいことはないだろう。本当になんて素晴らしい姉なんだ。
落ち込んで部屋に籠ってると思っていたのに、そんな事をしていたなんて、考えもしなかった。
そうだった。お母様が言うように、リリは強い子だ。あんな性格ブスなやつに、多少言われたくらいで落ち込むなんてリリらしくない。
リリは、誰にも負けない努力家で、誰かの為に頑張れる優しい女の子だ。
ただの可愛いだけの天使じゃない。
リリの素直で優しい綺麗な心が、表情や態度に表れているのだから、リリは天使で女神で、世界の頂点に君臨してるんだ。
「流石、リリだ。やっぱり僕の姉は世界一だ」
「そうですね。ユーリアス様も負けていられませんね。」
「うん!僕も、負けないよ。リリを守れるように僕だって強くなるよ」
僕は、勢いよく扉を開く。驚いたリリとお母様が、僕の方を見て、目を丸くしている。
(驚いたリリも可愛いなぁ)
僕は、そのまま二人の元へと進み、リリをギュッと抱きしめる。
「ゆ、ユーリ、入っちゃだめって、いったでちょ。」
「ごめんねリリ。だけど、一人で練習するより、二人でする方が楽しいよ。それに僕だけ仲間外れは寂しいな。」
「なかまはずれになんて、ちてないよ。それなら、ユーリもいっちょに、えほんよむ?」
「うん!リリと一緒で僕は嬉しいよ」
それからは、お母様と僕たち双子で、絵本を読む声が、しばらく屋敷に響き渡った。
もちろん、リリの天使な笑顔も復活。僕の体力作りにも付き合ってもらい、普段の元気なリリが戻ってきた。
リリは、いつでも僕に幸せを運んでくれる。同じように、リリにとっても僕がそんな存在だったら嬉しいな。
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