前世を思い出した ②
「ふぁあ、よく寝た…。」
小さな体を起こし、キョロキョロと周囲を確認する。
(よし、誰もいないな。)
ベットから降りて、まずは部屋の中を見て回る。
高そうな家具に、いろんな本がたくさん並ぶ本棚に、子供用の小さな机と椅子もある。
机の上には、僕が書いた家族の絵が置かれていた。
少し眠ったことで、記憶が上手く融合したのか、頭痛は完全に治まっている。
まずは、今の状況を整理してみよう。
前世の事は、一応覚えているが、個人的な情報が思い出せない。
僕は、日本生まれ日本育ちの大学生だったはず。でも、家族構成や自分の名前も顔も細かいことは思い出そうとしても無理だ。何も思い出せない。
前世で死んだことは何となく分かるが、他人事のようで何の感情も湧かない。
今の僕は、どちらかと言うと、ユーリアスとしての人格が強いようだ。
前世の個人的な記憶もほぼ無く、自分はユーリアスだと、はっきり認識している。
前世の死についても悲観することなく、冷静で居られるのも、それが要因か。これについては、神様に感謝だな。
でも、どうして急に前世の記憶を思い出したんだろう。よくあるのは、頭に強い衝撃を受けたり、高熱を出して寝込んだ後に思い出すのが定番かな。
「えーと…僕は、何をしてたっけ…?」
確か、記憶を思い出す前は、僕は部屋で一人で遊んでいた。そこに、リリアーベルが入ってきて、遊んでた玩具の取り合いになったんだ。
❮ 回想 ❯
「もう!ぼくがあそんでたのに、おもちゃかえして!」
「やあぁぁ!リリもあそぶの!」
「リリのいじわる!もう、いじわるするなら、リリのことキライになっちゃうよ!」
「ひぁっ……きら…い…?リリのこと……きら……。やぁぁぁ!うわぁぁーん!やぁぁ!」
「リリアーベル様、大丈夫ですよ。フフッ、初めての姉弟喧嘩ですね。あらあら、このままではユーリアス様も泣いてしまいそうです。」
「うぇ、えぇぇ……ユーリ、ないちゃう?」
「そうですね。リリアーベル様に思ってもない事を言って泣かせてしまったので、悲しそうです。」
「ふぇっ……ふぇっ、リリ、なかないで。キライになんてならないから。ごめんね。」
「先にごめんねが言えて、ユーリアス様は、えらかったですね。リリアーベル様も、おもちゃを取ってごめんなさいが言えますか?」
「ふぇっ…ぇ…リリも…いえりゅよ。」
「そうですか。リリアーベル様も、えらいですね。それでは、ちゃんと仲直りしましょうね。」
「ユーリ、ごめんなちゃい。だいちゅきよ。」
――何だ。この天使の笑顔。最高にかわいい。
ズキュ―――ン!!!
「うっ…ぎゃわわわあぁぁ―――!!!」
❮ 回想終わり ❯
「そうだ。リリのあまりの可愛さに胸を撃ち抜かれて、前世を思い出したんだ…。」
姉の可愛さに衝撃を受けて、そのまま前世を思い出すとは、リリの可愛さ恐るべし。
ああ、初めての姉弟喧嘩で、ついキライなんて言って、リリを泣かせてしまうなんて、僕は何て酷い弟なんだ。
(はぁ、でも、リリは泣き顔も可愛かったな。)
もう、うちの姉は何をしてても可愛い。
あの可愛さを前にしたら、前世の記憶が蘇るのは当然だ。
あの輝く金髪のフワフワ巻き髪。触ると本当にふわっふわで、柔らかいんだ。
僕も同じ金髪だけど、真っ直ぐな髪質で、サラサラしてるから、可愛いリリとは違う。
それに、リリはクリクリとした大きな瞳で澄んだ薄紫色をしている。
その瞳は、いつもキラキラと輝いて、まるで宝石のように綺麗で、お人形のように可愛らしい。
僕たちは双子なので、基本はリリと似ているが、僕の瞳は海のような濃いブルーだ。
皆からは、よく美形の双子ちゃんと言われている。
僕の瞳や髪質はお父様似で、リリの瞳や髪質はお母様に似ている。
両親二人とも美形なので、必然的に僕たちもそうなるのは分かる。
しかし、リリは、それにプラスして天使の要素も入っているので、この世界の可愛いの頂点にいると言っても過言ではない。
「それにしても、ここで前世を思い出すとは、何か物語の世界だったりして?」
日本で生きていた時は、僕自身は小説やゲームとは無縁だったと思う。
ただ、前世の親友が、乙女ゲームや悪役令嬢が出てくる物語が好きで、僕にもよく話してくれた事を覚えている。
個人情報は、覚えてないのに、こんなことは覚えているなんて、やっぱりこの世界と何か関係があるのか。
転生したら、断罪される悪役令嬢で、断罪回避するために奮闘したりするんだっけ。
あとは、婚約破棄とか、ざまぁとか、ざまぁ返しなんて言ってた気がする。
乙女ゲームなら、攻略対象が数人いて、逆ハーエンドなんてのもあると言っていたな。
『乙女ゲームは奥が深いんだよ。面白いからお前もやってみろよ。あと最近は、悪役令嬢が溺愛される小説もオススメだぞ。』
顔は覚えてないけど、親友がそんなことを言っていた。
「もしかして…本当に?」
そうだ、乙女ゲームの攻略対象者は、全員がイケメンで、王子様や高位貴族の令息が対象だと言っていた。
悪役令嬢の兄や弟が、攻略対象者なんて設定もあると言っていた。
「あんなに可愛くて天使なリリは、何かの物語やゲームの登場人物だったりするかも?」
もしも、リリアーベルが登場人物なら、普通に考えたら、ヒロインしかない!
あの可愛さは、それ以外考えられないが、ヒロインは平民か男爵令嬢と、身分が低いと決まっている。(…と親友が言っていた。)
侯爵令嬢のリリでは、ヒロインとしての身分が高すぎる。
……ということは、絶対に普通なら考えられないが、悪役令嬢の可能性が高い。
悪役令嬢の兄弟は、攻略対象者になって、対立する可能性も出てくる。
「そんなこと!許せるはずがなぁーい!」
悪役令嬢は、最終的に断罪されて婚約破棄され、国外追放や、酷い話なら死刑もあると言っていた。
万が一、ヒロインだとしても、攻略対象と結ばれるなんて最悪だ。
攻略対象なんて、婚約者がいても他の女に目移りする、ただの浮気やろうの集まりだろ。そんなやつに、可愛いリリを託すことなんてできるかぁ!《注: 万が一、僕が攻略対象者になっても、リリ以外は目に入りません。》
「リリが断罪されて、国外追放や死刑なんて駄目だ!ヒロインとして結ばれるのも最悪だ!絶対に阻止しなければ、僕は耐えられない。」
親友が話していた、よくある結末やイベントなるものを、なるべく多く思い出して、全て回避してやる。
「これから、忙しくなるぞ。まずは、思い出した物を全て書き出しておこう。」
―トントン―
誰かが扉をノックする。この音はたぶん…。
「はい、どうぞ。」
扉が開くと、お母様とリリが入ってくる。後ろには、乳母のマリアが付き添っていた。
リリは、小さな手でリンゴが載った皿を持っており、ゆっくり慎重に歩いてくる。
「ユーリ、体調はどう?果物を持ってきたけれど、食べられそう?」
お母様が優しく声を掛けてくれる。
「眠ったから大丈夫。僕、お腹空いちゃった。わぁ、僕の大好きなリンゴだ。」
リリが、僕の目の前にお皿を差し出す。
「どうぞ、ユーリはリンゴが、ちゅきでしょ。いっちょに、たべましょう。」
はわわわ、天使からのカワイイお誘い。
「うん、一緒に食べよう。お母様もマリアもこっちにきて、一緒に食べようよ。」
「そうね。みんなで食べましょうか。」
マリアが、リリからお皿を受け取り、テーブルに並べる。
お母様が、リリを抱えて椅子に座ると、リンゴを一つ手にしたリリが、僕の口にリンゴを運んでくれる。
リリから貰うリンゴは、今まで食べたどのリンゴよりも美味しい。
「ユーリ、おいち?」
「とっても、おいしいよ。」
僕も、リンゴを一つ取って、リリの口に運ぶ。
シャリっと良い音がして、それと同時に可愛い笑顔が弾ける。
「ユーリ、ありがと。ふふ、みんないっちょで、たのしいね。」
ああ、リリの笑顔が世界で一番輝いている。
この可愛い笑顔が曇ることが無いように、僕がリリの未来を幸せを守ると誓うよ。
きっと、僕は、そのために前世を思い出したんだ。




