僕は一人じゃない
選んでいただき、ありがとうございます。
ビッガートルの領地は自然が多く、農業や畜産が主な収入源だ。芋や数種類の果物、牛やヤギの肉はもちろん、チーズやバターなどの乳製品も多く作っている。
そして今日は、朝から牧場見学に来ています。
「ユーリ!ユーリ見て、牛の赤ちゃんだよ。可愛いね。ミルク飲ませること出来るって!早く行ってみよう。」
「リリ、ちょっと待ってよ。」
リリはこの日をとても楽しみにしていて、昨日からテンション高めだ。ずっとニコニコと笑顔が絶えない。
どうやら、牧場のおじさんの話を聞いて、子牛のミルクあげに挑戦するようだ。
大きな子牛用の哺乳瓶を脇に抱えて、ゆっくりと子牛に近づくと、待ってましたとばかりに、子牛が食らいつく。チュウチュウと音を立てて、元気いっぱいにミルクを飲む子牛は可愛い…が、赤ちゃんでも力が強く、引っ張られて今にも倒れそうなリリを僕が支える。
まるで綱引きのように、哺乳瓶を引っ張られては戻して、引っ張られては戻してを繰り返し、気づけば中身は空っぽになっていた。
「うわっ!もう全部飲んじゃった。」
「とても、お腹空いてたんだね。それとも、リリと同じで食いしん坊だったのかな。」
「もう!私は別に食いしん坊じゃないから。」
二人で顔を見合わせて大笑いする。こんなに思い切り笑ったのは久しぶりだ。
ずっと、リリの体調のことも心配で、厄介な従姉のこともあったから、王都では常に気を張っていた。
でも、ビッガートル家に来てからは、リリの心も安定して、魔力も安定している為か、体調は普段以上に良好だ。
「リリねえちゃま、あっちでチェリーとふりふりバターを作りまちょう。」
「いいわね。どっちが早くバターを、完成させるか競争ね」
チェリーちゃんとも仲良くなって、ここに来てからは、午後はよくお茶会を開いている。他家の子と関わることが殆ど無かったので、リリにとっては貴重な経験だ。
チェリーちゃんは3歳になったばかりとは思えない程、とてもしっかりしていて、リリとも気が合うようだ。
「ユーリ、俺たちは向こうで乗馬に挑戦してみないか?たまには男同士で過ごすのもいいだろう。ユーリは、馬に乗るのは初めてか?」
リック兄様が、指差す方へ視線を向けると、厩舎が見える。
「いいけど、乗馬って初めてでも大丈夫なの?ちょっと怖いな。」
前世含めて、乗馬の経験は皆無なので、怯んでしまう。リック兄様が可笑しそうに笑いながら、僕の頭をポンポンと軽く撫でた。
「ユーリは、リリの事になると怖いものは無いとばかりに立ち向かうのに、馬に乗るのが怖いのか?」
「だって、一人で乗るなんて初めてだもん。」
なんだか恥ずかしくて、プイッとそっぽを向くと、リック兄様の笑い声が大きくなった。
「アハハハ。いや…ごめん。ユーリもそんな反応するんだな。年相応で安心したよ。」
リック兄様が、僕を抱き上げて厩舎の方へ歩いて行く。
「たまには、お前も子供らしく力を抜いて、大人に頼って良いんだぞ。ということで、今は俺が支えるから二人で乗ってみようか。」
リック兄様と一緒に馬と触れ合いながら、相性をみていく。僕は、大人しくて優しそうな白い馬を選んだ。
「どうだ。怖くないか?」
「リック兄様が居るから怖くないよ。馬の背中って、とても高くて遠くまで見ることが出来るんだね。ここでしか見られない景色が見られて楽しいよ。リック兄様ありがとう。」
「そうか。よかったな。ユーリが楽しそうで俺も嬉しいよ。」
本当に、リック兄様には敵わないな。
王都にいる時から、悩んでるのバレてたかな。
前世のことや、ゲームのこと、リリが幸せになるために僕はどう動けば良いのか、常に考えていた。
シナリオや何の世界なのか分かれば楽だけど、全く分からないまま前世の記憶だけを思い出したから、本当に不安で仕方なかった。
リリを守るのに全力だったけど、上手くいかなくて、逆に守られてリリを苦しめて、自分の無力さに失望した。
言葉と態度だけでも、しっかりして見せないと、運命に負ける気がして怖かった。
「リック兄様。あのね、例えば僕が失敗したら、僕たち家族が不幸になるとしたら、僕は失敗しないようにどうしたらいいと思う?」
僕を支えるリック兄様の右手に少し力が入った気がした。
「そうだな。ユーリの父様や母様やリリも居るし、俺やお祖父様達もいるから、まずは、家族を信じてみたら良いんじゃないか。ユーリが頼ってくれたら、みんな喜んで力を貸すから、ユーリが失敗してもしなくても、絶対に不幸になんてならないと思うぞ。」
「そっか。僕は一人で頑張らなくてもいいのかな。」
「うーん。男には、自分でやるべき時もあるけどな。でも、人間一人で出来ることは限られる。特に子供は、大人に守られるべき存在だから、目一杯甘えたら良いんだよ。」
前世、大学生だった記憶があるから、甘えるってこと忘れてた。
そっか、子供だから甘えてもいいのか。一人で全て抱えることもないんだな。
世界の頂点に君臨する天使を守るのは大変だけど、僕の周りには信用できて頼りになる大人が沢山いるんだ。
もし僕一人の力で、どうしようもない時は、みんな巻き込んで協力してもらえば良い。
なんだ。簡単なことだったんだ。不安に思う必要はないんだな。
「リック兄様、ありがとう。ここに来て良かったよ。僕ちゃんと子供に戻るね。」
「ああ、そうだな。ちゃんと甘えてろ。」
「なんだか、安心したらお腹空いちゃったな。」
「それじゃあ、ちょっと走るけど、振り落とされるなよ。」
リック兄様が、馬の腹を軽く蹴ると、さっきよりスピードが上がった。
「ウキャ、ちょっと待って待って!リック兄様こわいからぁぁ」
僕の叫び声が響く中、厩舎の方へ戻ってくると、煌めく笑顔の天使が僕たちを待っていてくれた。
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