表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

第一話 初恋


 レヴィエントは剣だけが取り柄の少年だった。剣の名門、ターズウェル伯爵家の三男として生まれ、兄たちが優秀だったこともあり、剣だけを振るって生きてきた。おかげで剣の腕は、年上の少年相手にさえ敵なしだ。溢れる才能はますますレヴィエントを剣の道にのめり込ませ、その代償として、レヴィエントは、行動は粗野、礼儀も言葉遣いもなっておらず、勉強にもまるで興味なしの少年へと成長した。

 この件でレヴィエントの両親を責めることは出来ないだろう。もとからやんちゃな息子には焼いていたものの、さぁ教育が本格化するぞという頃に丁度、領内での不作が続いたのだ。伯爵夫妻は王都のタウンハウスと領地の本邸を行ったり来たり。少ない税収をなんとかやりくりし、領民の生活を守るのに大忙しで、やんちゃすぎる息子、それも三男坊にかまっている暇は正直なかった。家庭教師も優秀な兄二人にかかりきりで、悪知恵ばかりは兄たちをも超えるレヴィエントは、お目付役の目を盗んでは授業を抜け出し庭で剣ばかり振っていた。領内が落ち着き、伯爵夫妻が気づいた頃には時すでに遅し。慌てた夫妻がどうにかしようと教師をつけるも、厳しいと有名な家庭教師も、王都一と言われるマナー講師もなんのその。レヴィエントは立派な剣術馬鹿への道を突き進んでいた。


 さて、そんな剣術馬鹿のレヴィエントにも、とうとう春が来たのである。それはレヴィエントの七歳の誕生日パーティーでのことだった。

 七歳を迎えても相変わらず剣ばかりで礼儀のなってないレヴィエントだが、ターズウェル伯爵家は剣術分野で見れば国内有数の名門である。いくら三男坊とは言え、息子の七歳の区切りにパーティーのひとつも行わないのは差し障りがある。たとえ本人が特に望んでおらず、両親も出来れば開催したくないのだとしても。

 ということで、誕生日パーティーなら主役の無礼も多少は許されるだろうという打算もあり、レヴィエントの誕生日パーティーは開催の方向で進められた。ただそれも、三男だからとの建前で、寛大な――レヴィエントの振る舞いにもお目溢しくれるような――貴族を中心に、ターズウェル家の家格にしては少しばかり小規模に。開催が決まってからパーティーまでの半年間、再び礼儀作法やら何やらを叩き込まれたレヴィエントだが、入れるそばから忘れていくのか、全く身に付かない。剣術に関することは一を聞いて十を知るようにするすると覚えていくというのに。要は覚える気がないのである。

 結局、レヴィエントは剣術の腕以外は半年前とほとんど変わらずに誕生日パーティーを迎えた。

 パーティーにはかなりの人が集まった。伯爵夫妻が招待したのはそれなりの数だったが、レヴィエントの子ども離れした剣の腕は広く知られており――剣術以外の言動が洗練されていないのはそこそこ知られているが、まさかここまで礼儀がなっていないとは誰も思っていない――、若き俊英を一眼見ようと様々な貴族が出席を希望したのだ。下級貴族ならまだしも、家格が上の家からの打診は断れないのが貴族社会。結果的には公爵家まで来ることになってしまった。レヴィエントの教育状況を見るに、伯爵夫妻の胃痛は増すばかりである。パーティー当日、ターズウェル伯爵夫妻は胃痛が引かなかったが、案の定、レヴィエントはとんでもないことをやらかすのである。

 

 それはパーティーが始まってすぐのことだった。馬車の渋滞で少しばかり遅れてきた、フルリエ公爵家が到着した時である。フルリエ公爵家の第二子にして長女、テレシア・フルリエ公爵令嬢が両親である公爵夫妻に手を引かれて入場してきた瞬間――レヴィエントは周囲の子どもたちを押し除け、テレシア嬢にずかずかと近寄ると、彼女に向かって指を差し、思いっきり叫んだ。


「お前、俺と結婚しろ!」


 あっという間の、止める間もない暴挙だった。一瞬にして会場は静まり返り、ターズウェル伯爵の胃痛はピークに達し、伯爵夫人はあまりのショックに気を失い、兄たちは弟の正気を疑い、他の招待客の大半はあまりの唐突さと突飛さにポカンと口を開けて呆然としていた。当のレヴィエントは誇らしげな顔をしてふんぞり返っている。ターズウェル伯爵も二人の兄も、あまりの出来事にもはや物も言えない有り様だった。

 さて、最も早くこの静寂を打ち破ったのは、なんとフルリエ公爵その人だった。


「はっはっは!剣の名門ターズウェル家の若き俊英とは、さてどんなものかと思って来てみたら。レヴィエント君、我が娘の愛らしさに一目惚れしてしまったか?」


 レヴィエント、並びにターズウェル伯爵家にとって何より幸運だったのは、フルリエ公爵が非常に寛大で、子どもに優しく、ジョークの好きな御仁だったことだろう。家格が遥か上の公爵家の御令嬢に向かって指を差し、あまつさえ『お前』呼ばわり。更には『結婚しろ』ときた。公爵家は王族の血を引く家格である。怒りを買って仕舞えば、不敬罪で良くてレヴィエントの追放、悪くて一生幽閉、または御家の降格処分。最悪の場合はレヴィエントが詫びとして腹を切るしかなくなるところであった。


「さて、テレシア。お前はレヴィエント君をどう思う?なかなか情熱的で素敵じゃないか?返事を聞かせてやりなさい」


 フルリエ公爵は、誰もが分かるほど楽しそうな色を滲ませて笑いながら、出会い頭に求婚を受けた娘の手を引き、一歩前に立たせた。

 テレシア・フルリエは父譲りの煌めく淡い金髪に、母譲りの透き通る碧眼を持った、まるで精巧な人形のように美しい少女である。ぱっちりした瞳を縁取る睫毛は長く豊かで、子どもらしくふっくらとした頬は淡い桃に色づいている。将来は国一番の美姫になるだろうと言われ、容貌だけでなく、七歳にして既に教養高く、言葉遣いや礼儀作法もとても子どもとは思えないほど洗練されている。もしも王家に年の合う王子がいたならば、真っ先に婚約者候補に上がるだろうことは間違いなかった。

 レヴィエントが一目で恋に落ちた少女は、淑女らしく少し微笑んでこう言った。


「わたくし、粗野な行動をする方は苦手ですの」


 この言葉にフルリエ公爵は爆笑し、それに釣られて周囲の招待客たちも笑った。張り詰めた空気はいつの間にか和やかになり、子どものしたこととして流す雰囲気へと変わった。まぁ七つにしてもこれはどうかとも思う者はいたのだが――そこは百戦錬磨のフルリエ公爵が、お得意の話術でどうにかしてしまった。どうやら公爵は、対面早々娘に求婚したレヴィエントのことを気に入ったらしい。当のレヴィエントは、テレシアの言葉と大人たちの笑いに顔を真っ赤にして踵を返し、部屋に閉じこもってしまったのだが。

 その後は主役不在の中、とりあえず料理に罪はないということで、用意された料理を各々食べたり、招待客同士で談笑に興じたり、子どもたち同士の親交を深めたり――普通の子ども連れの社交パーティーのようにして、その日は終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ