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天国への宅配便(童話)

作者: n.kishi
掲載日:2026/01/12

〝♪ピンポーン〟

 玄関のチャイムが鳴ると、もうすぐ3歳になるあきちゃんは、一目散に玄関に駆け出します。それを横目に、おかあさんはインターフォンで来客を確認、あきちゃんを追いかけるように玄関へ急ぎます。

 「おはようございます。宅配便です」ドアを開けるといつものおにいさんの元気な明るい声。「ご苦労さま」と言いながらおかあさんは荷物を受け取り、伝票に判を押します。「毎度ありがとうございます」とおにいさんは伝票を受け取り、小走りで次の配達先へ向かいます。おかあさんはあきちゃんに手伝ってもらい、届いた荷物をリビングへ運びます。きょうは田舎のおばあさんからドシッと思い、大きなダンボール箱が届きました。中には米5㎏、太いダイコン2本に大きな白菜とキャベツがそれぞれ1個ずつ、さらに柿が10個入っていました。野菜はすべておばあさんが家の前の畑で作ったもの。柿はおじいさんが近くの畑で栽培しています。おばあさんは荷物のすき間に、アニメのキャラクターをかたどった、あきちゃんが大好きなチョコレートをいつも忍ばせてくれます。


 おかあさんは早速お礼の電話を田舎に入れます。電話に出たおばあさんにお礼を言うと、きょうは珍しくおじいさんにかわりました。「柿を送ったけど、そのうちヘタが付いたのは渋柿だから気を付けて。ヘタをひもでしばって、風がよく通る、日当たりのいい場所に吊るしておけば、3週間ほどで甘くなるからそのときが食べ頃。今年はいっぱいなっているからまた近いうちに送る」と言うとおばあさんに電話を戻しました。あきちゃんは「おばあちゃん、おじいちゃん、ありがとう」とお礼を言い、電話を切りました。


 ヘタが付いた柿が5つ入っていました。おかあさんはまず皮をむきます。「あきちゃん、ちょっとなめてみる?」と柿をあきちゃんに差し出します。あきちゃんは言われるまま、ペロッとなめました。次の瞬間、「うわっ!」とあきちゃんは顔をゆがめ、舌を出します。舌の上が何だか変、気持ちが悪い。初めての経験です。それを見たおかあさんは笑いをこらえ「これを渋いっていうの。でもね、干しておけば渋みがなくなり、甘くなるのよ」。


 おかあさんは物入れから適当なひもを見つけてきて、ヘタをきっちりしばり、南向きの部屋の窓際に吊るします。その様子をあきちゃあんは不思議そうな顔をして、眺めています。


 次の日から、窓際へ行って、干した柿を観察するのがあきちゃんの日課になります。最初はみずみずしかった柿ですが、だんだん水気がなくなり、しわが入ってきました。そのうち小さくなっていきます。2週間がたちました。「もういいかな?」とあきちゃんはおかあさんに尋ねます。「そうね、でもあと1週間かな・・・」。おかあさんはおじいさんが「3週間で食べ頃」と言っていたことをよく覚えています。


 そんなときでした。田舎のおばあさんから電話が鳴ります。「あのね、おじいさんが木から落ちて・・・」。聞こえにくい、か細い声です。おばあさんはなんとか声を絞り出し、話し始めました。おじいさんは畑へ柿を取りに行き、高いところにあるのを取ろうと木に登り、足を滑らせ近くにあった大きな岩に頭をぶつけてしまった。すぐに救急車で病院へ運ばれたものの、そのときはすでに息を引き取っていた・・・と。おかあさんの頭の中ではいろいろなことがぐるぐる駆け巡ります。小さいときよく遊んでくれた若い頃のおじいさんの笑顔、あきちゃんが生まれ、初めて見せたとき、うれしそうにくしゃくしゃにした顔、そして最近帰省したとき見せた、年老いた様子まで。話を聞いたおかあさんはいまにも突っ伏して泣き出しそうになりました。そのとき、すぐ横であきちゃんが心配そうな顔をして、自分を見ているのに気付きます。おかあさんは気を取り戻し、「あのね、あきちゃん」と気丈に語りかけます。「おじいちゃんが柿の木から落ちて死んでしまったの」。あきちゃんはポカンとした顔をしています。何となくおじいちゃんが遠くへ行ってしまったことは理解できても、それ以上のことは分かりません。


 おばあさんから電話を受けてちょうど1週間がたちました。その間、あきちゃんの家族は田舎に帰り、葬式に出て、うちに戻ってきました。家に入るとすぐにあきちゃんは南向きの部屋へ走って行きます。窓際に吊るした柿はさらに小さくなって、白くなっていました。「ねぇねぇ、おかあさん、あの柿、白くなってるよ?」。おかあさんはあきちゃんに促されるように南向きの部屋へ向かいます。「ホント! もう食べ頃ね」とおかあさん。そこであきちゃんは提案します。「おじいちゃんに送ってあげようよ」。おかあさんは驚いた顔をします。でも次の瞬間、「それはいいアイデアね」と言いながら少し考えます。おかあさんはニコッとして「あす宅配便のおにいさんに電話して、取りに来てもらおう」。


 次の日、おかあさんは宅配便の伝票の宛先に「天国のおじいさんへ」と記入しました。小さな箱に干し柿2つとあきちゃんが描いたおじいさんの絵も入れることにしました。おかあさんはいつもの宅配便のおにいさんに電話を入れ集荷を頼みます。そのとき、声をひそめお願いごともしました。


 いつものように〝♪ピンポーン〟とチャイムを鳴らして、おにいさんが「こんにちは。宅配便です」と元気にやって来ました。小さな箱を受け取るなり、おにいさんは言います。「天国のおじいさんへ干し柿の贈り物ですね。かしこまりました。大切に扱います」と言いながらいつものように小走りで出ていきます。あきちゃんとおかあさんは玄関の外に出て、おにいさんの後ろ姿を追います。「早く届けばいいね」とあきちゃんがおかあさんに言うと、「そうね」とおかあさんはこたえます。ふたりはにこにこしています。なんだかとても幸せそうです。


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