海の底から年賀状
結婚記念日は一月二日。
でも、夫は潜水艦乗りだから、お正月は海の底。
静かな海の中で、世界から切り離された場所にいるらしい。
一年の半分以上を海で過ごす夫。
だから、記念日もお正月も一緒に過ごせない。
わかってはいるけれど、元日の朝は、少しだけ胸がざわついた。
こたつで年賀状の束を仕分けしながら、
今年も、あの人からは何も届かないだろうな、と考えてしまった。
海の底にいるのだから、仕方がない。
そう思うようにして、期待しないようにしていた。
一月二日、ポストに一通の封筒が届いた。
年賀状の時期だから、誰かからの挨拶かなと思った。
でも、はがきじゃなくて、ちゃんと封筒に入っている。
差出人の名前を見て、胸がどきんとした。
――夫からだった。
封を切ると、中には便箋が何枚も入っていた。
丁寧な字で、ぎっしりと書かれている。
「新年おめでとう。結婚記念日もおめでとう。」
最初の一行だけで、もう涙がにじんだ。
便箋には、海の底で過ごす日々のことが書かれていた。
仲間と交わす短い会話、機械の音、遠い海面を思いながら眠る夜。
そして最後には、熱烈な言葉が並んでいた。
「君と過ごせない時間が長いほど、君を想う気持ちは強くなる。海の底からでも、心はいつも君のそばにある。」
読みながら、思わず笑ってしまった。
――あの筆不精が、こんなに長い手紙を書いてくれるなんて。
普段は「元気だよ」と一言で済ませる人なのに、ここにはぎっしりと気持ちが詰まっている。
海の底で、どれだけ時間をかけて書いてくれたんだろう。
そう思うと、胸がじんわりあたたかくなった。
夫は、いつのまにこんな手紙を用意していたんだろう。
出航前に書いて、誰かに託したのかもしれない。
想像すると、また涙がこぼれた。
お正月に一緒に過ごせなくても、結婚記念日に会えなくても、こうして心を届けてくれる。
海の底から届いた年賀状は、世界で一番あたたかいラブレターだった。




