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Better Bitter

 ワイワイガヤガヤパシャパシャパタパタ……。ふわぁぁぁぁぁ。

「暇、だなぁ」

 九月某日。残暑というより猛暑な今日、只今文化祭真っ最中。普通なら閑な訳がないこの戦場で、俺は暇を持て余していた。

 うちの高校は、比較的部活動が盛んであり、特に文化祭が盛り上がる事で知られている。その来場者数は軽く千人を越え、残暑の熱気と相まって、会場である学校はすさまじい熱を帯びる。

 そんな訳で、いくら俺でも何かしらの仕事はしなければならない。だからこそ今、日中にもかかわらず、文芸同好会の部室にいたりするのだった。

 今年のテーマは“学園七不思議”。どうやらきーちゃんは、先の言い争いで負けたのがよっぽど悔しかったらしい。俺は今、世間を賑わしている怪盗セゾンについての特集を組もうと言ったのだが、聞き入れてもらえなかった。これ以上彼女の機嫌を損ねるぐらいだったら、俺が降りる。……あ、いずれにせよどの辺が文芸同好会なんだよ、というツッコミはスルーの方向で。

 お題が決まれば、後は野となれ山となれ。妙なこだわりを持つ凝り性集団である俺達の手にかかれば、殺風景な部室も闇の世界へと誘われる。そこはかとなくうさんくさい、怪しげなお札、どこかの民族系のつぼ、全てを映しだす水晶、般若を始めとする世界各国の妖しいお面。そんな小道具達が、所狭しと飾られている。バックは黒布、照明は勿論蝋燭!

 という感じなので、例年よりも更に輪を掛けて、普段なら絶対に人が入らないか、入っても少数派、だと思っていたのだが……。

 今年は、状況が違った。

 まぁ、きーちゃんが部長になった時点で、何かしらの事はあるとは思っていたし、もうすでに何かしらの事が何かしら起こったけど。けれども、ねぇ……?

「稜! あんた、今何か言った?!」

「! いえ、そんな事は! め、滅相もございません!」

 きーちゃんに睨みつけられ、俺は反射的に体を縮こませた。……余計な事を考えるのは、もう止めよう。

 一方のきーちゃんは、分かれば良いのよ、といった感じで、先程俺に向けていた表情とは正反対の愛らしい笑顔を浮かべて、お客さんの渦の中に戻っていった。女って怖い。

 さて、そんな一癖も二癖もあるえげつない部長、きーちゃんは今年、あろう事か生徒会長を巻き込んで、部活棟一フロアを占拠してしまったのだ。この生徒会長というのが、彼女の双子の妹の史空(みそら)さんだからまた性質が悪い。表の権力者と裏の支配者が、息ピッタリのタッグを組んでしまったのだから。これだけでも十分、驚嘆に値する驚愕な事実だと俺は思ったのだが、この二人のパワーはそれだけには留まらなかった。

 だって、その占拠した内容が、これまた予想の斜め上をいっていたのだから。

「レイちゃん! ぼーっとしないで!」

「!? あ、あぁ、ごめん」

「もう、お客さん困ってるじゃない」

 また回想にふけっていたら、今度は斗華に怒られた。……斗華にまで、怒られてしまった。ちょっと、ショック。

「先輩、ふぁいと、なのですよー」

 凹んだ所を、後輩に慰められる。うん、先輩は頑張るよ。優しいのは織葉、君だけだ……。

 しかし和んだのも束の間、きーちゃんに止めを刺された。

「あんまりさぼると、同じ格好、させるわよ?」

――!? そ、それだけは勘弁!

 とまぁ、以上が我が文芸同好会のメンバー。男一の女三。圧倒的に女性が多くなってしまい、通常の活動時にも、随分肩身の狭い思いをしている。

 ちなみに、この企画に巻き込まれた哀れな犠牲……げふんげふん、参加者達は、漫画研究会、占い部、茶道部、華道部、そしてもう一人の言い出しっぺ、史空さん率いる写真部。いずれも言うまでも無く、女子の割合が高い部活である。

 これと先程の描写と、俺の嫌がり方で、察しの良い方ならお解りいただけただろうか?

 スペシャルヒントとして、現在のこの部室内の様子を、ほんの一部分だけ抜き取ってみる。

「斗華ちゃーん、こっち向いてー。あ、織葉たんも」

「はい、ご主人様♡」

「かしこまりました~」

「おー、萌へー。萌~」

 パシャパシャパシャパシャはぁはぁパシャパシャパシャパシャはぁはぁパシャパシャパシ

 真ん中には我が部が誇る美少女三名。それを取り囲む、暑苦しくむさくるしい男達の群れ。多分、よその部活でも、似たような惨状となっているだろう。

 今年の部活棟は、メイドとヲタクの巣窟と化したのだった。


 きーちゃんと史空さんの計画は、“どうやったら人を呼べるか”、その一点に集中していた。毎年部活棟の三階は、閑散としている事で有名だったからだ。そこで考えたのが、うちの学校の可愛い女の子達を最大限に活用した、メイド喫茶だった、という訳である。勿論、実際に喫茶店をやるのは写真部と茶道部だけなのだが、他もコスプレをする事で、ある種統一し、どこにも平等に人を呼ぼうとしたのだ。

……まぁ、これだけ人が集まったんだ。この企画自体は成功した、と言っても良いだろう。ただ、一つ失敗があったとすれば、それはいかんせん成功し過ぎた、という所だろう。

 どこから噂を嗅ぎつけてきたのかは知らないが、チェックのシャツにリュックしょってる奴、一眼レフのカメラを持って、ただひたすらに撮り続ける奴、怪しげな紙袋提げてる奴といった、やったら危ない連中が、整理券を使って入場制限をしないと入りきらないぐらい、大量発生してしまったのだ。

 ……まぁ、そのおかげで、俺は客の整理以外の仕事をしないで済んでいるんだけど。

 でも、可愛い女の子に群がる少年からおっさんに飛び級で進化したような奴等という構図は、なかなかに見苦しいものがあった。この一帯だけ、さらに温度が上昇している気もするし。全く、どうにかならないものだろうか。それに、例の件もある。客が多いのは良い事なのだが、今回に限っては遠慮したい所だった。

「あのー」

 懲りもせずにまた思考していると、今度は知らない声に呼びかけられた。ついにこの俺にもご指名が!? ……んな訳あるかい。

「はい、何でしょう?」

 俺目当てではないとはいえ、客は客。ぎこちないながらも、精一杯の営業スマイルを浮かべて振り返る。すると、そこにいたのは、この場に不釣り合いな少年、それも見目麗しい美少年だった。やたら大きな鞄を小脇に抱えてはいるが、どこからどう見ても、うちの美少女目当てではなさそうである。

 では、どうして俺なんかに話しかけてきたのか。その謎は、少年の次の台詞によって解かれた。

「これなんですけど、答えが分かった場合ってどうすればいいんですかね?」

 彼が指差したのは、本筋の企画のポスターであった。なんと、本来の活動の方に参加してくれる人がいるとは。

「あ、では「お聞き致しましょう。貴方の御答えを」

 ちゃんと企画を目的に来てくれた人がいたという事に感動していたら、いつの間にかきーちゃんが隣に来ていて、台詞を盗られてしまった。まぁ部長だし、発案者だし、仕方がないだろう。

 実は今年、“七不思議の謎を解け!”という至極真っ当な来場者参加型イベントを、メイドさん写真サービスの裏でこっそりほそぼそと(学校側への対策として)やっているのである。七不思議の概要だけを記し、それがどういう由来を経たのかというのを当てるという、割とシンプルな内容。それだけに、案外難しい、らしい。彼はその解答者のようだ。

 ちなみに、今の所の正答率はおよそ六十%。学校のテストとして作ったならパーフェクトな数字。オールクリアーはゼロ。だが、この少年なら……。最初に見た時から、彼は他の人とは何かが違う。そんな風な印象を受けた。

 俺の期待通り、カクカクシカジカとよどみなく話し始める少年。一つ目、二つ目、と順調に解いていく。俺の直感も捨てたものじゃない。こりゃ、もしかすると……。

 数分後。美少年は最後七つ目まで、流麗に語り終えた。そして、

「以上が僕の解答です。御拝聴、ありがとうございました」

にこっと微笑んで、推理を締めくくった。こいつ……やりおった! 完璧だ! パーフェクトだ! しかも不足も無ければ無駄も無い。まさにエレガント! 流石のきーちゃんも開いた口が塞がらないご様子。その姿を“萌へー萌へー”と言いながらパシャパシャと写真を撮るオタク達。

 ……なんやねん、この図。

 とにもかくにも、涼しげな顔を浮かべ、一礼して去っていったあの少年。彼には興味が湧いた。

――ちょっと、話し掛けてみるか。

 ちょうどその時鐘が鳴って、俺に昼時を告げてくれた。絶好のタイミングである。

 俺は放心状態のきーちゃんに一応断りを入れてから、少年を追いかけて部室を去った。


「へぇー。お前高一なんだ。じゃ、俺の一コ下だ」

「では、“先輩”とお呼びした方が宜しいですかね?」

「いやぁ。それはどうだろう?」

 はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは

 そこまで時間を空けずに探しに行ったからか、美少年にはすぐ追いつく事が出来た。話をしてみると、最初は少し警戒されたものの、打ち解けると気さくで面白く、見た目の印象通り、とってもとっても良い奴だった。ミステリ好きだったというところも、俺としてはとても嬉しいポイントである。他の趣味も何故だかやたら合って、初対面だし名前さえ聞いていないのに、色々な話をした。

 “類は友を呼ぶ”という諺の意味を、改めて実感した。

 その後も話は弾み、調子づいてしまった俺は、つい内部の事情まで喋ってしまいそうになる。

「そういえばさ、最近事件があってさ……」

「へぇー、どんなのですか?」

「それがさ」

キャ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――!

 その時突然、耳をつんざくような悲鳴が、辺りにこだました。

――まさか……。

「行ってみましょう!」

 名も知らぬ美少年にせかされ、声のした方角へ向かう。階段を駆け上がり、先程までいた部室を通り過ぎて更に奥へ。嫌な予感が、俺の足をさらに速めた。

 行き着いた先は、この階で最も混雑しているであろう、写真部の喫茶店だった。

――やっぱり、ここだったか……。

 どうやら、俺の予想は的中してしまったようだ。

「何があったんですか?」

 そう周囲に問いかける少年。だが俺は、悲鳴の主を知っていた。そして、ここで何があったのかも、おおよその見当がついていた。だから、被害に遭ったと思われる少女に、俺は真っ先に声を掛ける。

「大丈夫か、朋祢(ともね)ちゃん」

「はい……」

 可哀相な程、顔が真っ青になっており、彼女の身に何かが起こった事は一目瞭然だった。俺が名前を呼んだことで、少年も気が付いたのだろう。

「お知合い、なんですか?」

「まぁ、な」

 知り合いと言えば知り合い。だが、そこまで深い仲、という訳でもない。ただ、この事件に関しては、俺達が一番知っていると、そういう自身もあった。

 悲鳴の主は佐々本朋祢(ささもとともね)ちゃん。一年生ながら、この学校でナンバーワンの美貌を誇る、超美少女である。セミロングのふわふわとした髪、くりくりとした丸く大きな瞳。小柄で守ってあげたいタイプ。端本姉妹のような孤高の美女ではなく、誰からも愛されるアイドル的存在。その人気は校内だけにはとどまらず、学外にもファンクラブがあるとかないとか言われている。

そんな彼女だからこそ、こんな事になってしまったのだろう。


 始めは、気のせいだと思ったらしい。……気のせいだと、思いこみたかったのかもしれない。

 だが、そんな彼女の淡い希望とは裏腹に、日が経つにつれて、視線や気配――得体の知れない何か、はどんどん増しているように感じたのだとか。それからしばらくして、下駄箱に毎日ラブレターが届くようになり、そしてそれは、ついに自宅のポストにまで及ぶようになった……。

 所謂(いわゆる)、“ストーカー”ってやつである。


「成程……」

 俺から大雑把な事情を聴いた美少年は、何やら考え込んでいるようだった。まぁ、彼には彼なりに、思う所があるのだろう。いきなり混み入った事情を聞かされて、戸惑ったのかもしれない。

 さて、俺は俺で、俺の出来る事をやろう。

「朋祢ちゃん、何があったの?」

「それが……。これが、鞄の中に……」

 震える手で差し出してきたのは、薄桃色の封筒に入った手紙。まさか。目配せして許可を取ってから、中身を拝見。

――うわぁぁぁ……。

「こりゃぁ「まずいですね」

 いつの間にか横には美少年が立っていて、手紙を覗きこんでいた。……まぁ、その通りなんだけど。

 文面には、男の俺でも身の毛がよだつような、そんな言葉が並んでいた。

“愛しの朋祢ちゃん。メイド姿もかぁいいね。しかも。僕のコト、ご主人様だと思っててくれたんだぁ。嬉しいな。じゃあ、君は、今日から僕だけのメイドさんだね。今日は何時まで学校にいるのかな? 終わったらすぐ、迎えに行ってあげるね。 君のご主人さまより”

 ……全く、迷惑にも程がある。こりゃあ、悲鳴の一つや二つ、上げたくもなるだろう。心の底から、彼女に同情した。しかし、此方まで気持ちが沈んでいる訳にはいかない。すっと、さりげなく辺りを見渡す。程なくして、目的の人物を見つけた。

――やっぱり、あいつか……。

「何!? どうしたの!」

 遅れてやってきたのはきーちゃん御一行。

「って、店番はどうしたの?!」

「……茶瓏に任せてきた」

 Good job。ならまぁ、良いだろう。ちゃろ先輩には悪いが、此方の方が急務である。

 遅れた分を取り戻そうと、きーちゃんも手早く、その場にいた史空さんから事情を聴く。その表情の移り変わりを見ていくうちに、俺は先程とは別種の恐怖を覚えた。

――あ、やばい、かも、しれない……。

 白昼堂々こんな事をされて、黙っているきーちゃんではない。売られた喧嘩は買う人だ。俺だって、今すぐにでもぶん殴ってしまいたい。だが、駄目だ。まだ、証拠が……。

 俺があたふたしているうちに、きーちゃんはズカズカドンドン、客をどかしてまで、標的へと迫る。そして、

「ちょーっとそこの君。こっち、来てくれる?」

俺が止める暇もなく、彼女はもう勝負を仕掛けてしまった。こうなってしまっては、もう他に成すすべは無い。仕方ない。出たとこ勝負、いっちょやりますか。

「な、何だよ……」

「はーい。あとの人はここから出ていって下さーい♪」

 織葉を筆頭に、斗華、史空さん、その他写真部の人のお力添えにより、包囲網は完成した。

 

 さぁ、捕り物劇の始まりだ。



 数週間前から、俺達は彼女の、というか彼女に相談された史空さんの依頼を受け、そのストーカーの正体を調べていた。そしてつい昨日、ある一人の人物を容疑者として挙げる事に成功したのである。

そいつは朋祢ちゃんと同じクラスで、彼女の熱狂的なファンとして知られていた男だった。

 が、“熱狂的ファン”というならば他にも大量にいたので、いまいち絞り込めなかったのである。結局は、織葉のお姉さんに頼みこんで(都合のよい事に鑑識の人だった)、若干非合法ではあるのだが、簡単な手紙の筆跡鑑定や声紋の照合をしてもらって、彼に辿り着いたのだった。

 まぁ、特に怪しいと思った三十人分の筆跡、及び声を入手するのに時間がかかってしまい、ぎりぎりの発見になってしまったのは仕方ないとしても、だ。俺達がこうも苦戦したのには、れっきとした理由がある。それは、彼は決して、犯行現場を露呈させないのだ。

 俺達だって馬鹿じゃない。朋祢ちゃんの周辺に張り込んで待ち伏せしたり、それっぽいなと思う人物は尾行してみたりもした。だが、その全ては無駄に終わった。奴はストーカーとしては、褒められる事では絶対にないが、大した奴だったのである。

 まぁ、“警察沙汰にはしたくない”という彼女の要望を最大限酌んだため、という事もある。その条件では、“学生”という身分の俺達では些か不利ではあった。特に夜中とか、すぐに巡回の警察官に声を掛けられてしまうから、無闇に歩けないし。けれども、その条件は向こうも同じ。そう思い込んでタカをくくっていたら……甘かった。

 犯人を絞り込んだのだって、昨日なのだ。証拠なんて、使えそうなものはほとんどない。はっきり言って、すごーく不利。

 こんな状況で、きーちゃんは果たして、あの計算高いストーカー野郎相手に、一体どうするというのだろう?



「……という訳で、貴方がストーカーである事は明白よ!」

「堪忍なさい!」

 びしいっと、まるで正義のヒーローよろしく決めたのだが、

「おいおい。たかが朋祢たんのファンってだけで犯人扱いかよ。証拠はあんのか? あ?」

逆ギレされてしまった。当然と言えば、当然である。

「筆跡は貴方のものと同一だという結果が出ています」

「ですよー」

「誰かが俺の字を真似したんじゃねーの? それか、もともと似てた、とか。大体、誰の許可があってそんな事したんだ?」

『う゛っ』

 彼のターンに回って開始数秒。ものの見事に、三人は瞬殺された。いや、彼が何枚か上手なのは認める。認めるけど、それにしたって皆、真面目すぎるよ。

 きーちゃんはごくごく普通に、自分達が苦労して集めた証拠を惜しげもなく全てさらすという、所謂(いわゆる)“追い詰め型”で勝負に打って出たのだが……。確かに、こう言われてしまえばぐぅの音も出ない。ペースは完全に、ストーカーの彼に握られたようだ。

「何だよ。反論なしか? じゃあ、俺はこれで」

 ……仕方ない。使うか。

「ちょっと待って下さい」

「ああ?」

『?』

 俺が覚悟を決めて腰を浮かしかけた時、少年A(仮称)を呼び止めたのはきーちゃんでも、ましてや俺でも、斗華でも織葉でも史空さんでも朋祢ちゃんでも写真部の他の皆さんでもなく、例の美少年だった。

「何だよ、部外者は引っ込んで「証拠があればいいんですよね?」

 ズササササササー。

 分厚い封筒の中から出てきたのはなんと、犯行の一部始終が収められた大量の写真だった。

「こんなもので、いかがでしょうか?」

「……」

 これにはストーカー犯も流石に絶句。一同、唖然としてしまって、しばらく動けなかった。

――っていうか、ずっと持っていたでかい鞄はその為だったのか!

 なんか、色々と謎が解けた瞬間だった。

「さ、証拠、あったわよー」

あ――――――れ――――――――――――――――――――――――――――――――。

 (あわれ)。少年A君は最強姉妹に連れられて、教室を強制退去させられた。ありゃあきっと、生きては帰られんな。

 しばしぽかんとしていた朋祢ちゃんも、

「あ、ありがとう、ございましたっ!」

と俺達に一礼して、端本姉妹を追いかけていった。ふぅ。これで、一件落着か。しっかしまぁ、とんだ伏兵もいたものである。

「お前、すげーな」

 一瞬一発にして相手を落としたその力量に敬服して、俺は賛辞を送る。

「あんな大量の写真、どうしたんだ?」

「嗚呼、これ、ですか? 実は知り合いの探偵さんに渡してくるように、と頼まれていたんですが……」

「? そうだったのか?」

「はい。でも、依頼主の事は教えてくれなくて。“その学校の部活棟で、今一番ホットでナウな事件だから、お前なら行けば分かる”って」

「……。それで、か」

 何となく、その依頼主に心当たりがある気もしたが……ここはあえて、黙っておこう。

「それに」

「それに?」

 まだ何かあるというのか。続きを促す俺に対し、にっこりと微笑んでから、少年は言った。

「貴方には敵いませんよ、綾野昤文、さん」

 少年の口から、あろう事か俺の名前が出てくるとは。思ってもみなかったが、ここで動揺しては男がすたる。何故そうなったのかを冷静に考えてから、俺は質問で返した。

「……何だ、知ってたのか。それも、探偵に、か?」

「はい、“熱心に調べてる子がいた”って、ね」

「ふーん、そうか……」

 なんだ、ばれていたのか。俺も、まだまだ修行が足りないなぁ……。

「他に何かあれば、僕で良ければいくらでも答えますが」

 少年の提案に、反省会を開きそうになっていた俺の頭は現実へと引き戻される。特に事件に関してはこれといってなかったが、そういえば一つ、こちらだけ知らないのは癪だと思い、尋ねてみる事にした。

「お前、名前は?」

参道(さんどう)。参道、(じゅん)です」

 では、また。

 そう言って、美少年は爽やかに去っていった。まるで、再び会う事があるかのような、そんな軽さで。参道潤、か。覚えておこう。

――またいつか、会えると良いな。

 そう想って俺は、無駄になってしまったポケットの中の写真を、ぐしゃりと握りつぶした。Good bye。俺の睡眠時間。

 とここで、心の中で格好付けている場合では無い、ある非常に嫌な、かつ重大な事実に気が付いてしまった。まさかそんなはずある訳は無い。必死に考えを巡らせてはみたものの、真実は残酷である。

 行き場の無い感情を言葉に乗せて、俺は大声で叫んだ。

「ってか、今回俺見せ場ねぇ!!」



 その後、その叫びを聞きつけたきーちゃんに

「じゃあ、とっておきの見せ場を作ってあげる」

と、女装させられる事になり、それを何故か引き返してきた参道にまで見られてしまったりするのだが――

 その話は、もう、良いだろ……?


この話が、改稿前の最終話でした。

僕の他の作品の主人公が登場するコラボ的なお話だったので、筆がノリに乗って書いた事を覚えています。


さて、あともう一話追加して(+エピローグで、ですね)、彼らの物語は終わり、の予定です。

最後までよろしくお願いいたします。

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