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言ってはならない

「そうだ、学園七不思議を作ろう」

 ないのなら 作ってしまえ 七不思議

――流石きーちゃん、やる事が違うぜ……。

 待望の夏休みを前に、期待と熱気で蒸し風呂状態の部室にて。九月に控える文化祭を前に、きーちゃんは突然、とんでもない事を言い出した。

「……また?」

 まだ暴れ足りないんですか、という意味を込めて、俺はぼそりと呟いた。


 我が文芸同好会は基本年功序列。だから今は唯一の三年生となってしまったきーちゃんが、当然のごとく部長を務めている。それは何故か伝統を重んじるここでは仕方のない事ではあったし、割と仕事はちゃんとする人だから、大丈夫かと思っていた。だがしかしそうは言っても、あのきーちゃんである。何かやらかすんだろうなと、思っていた俺の予想は、見事に、見事過ぎるまでに、見事過ぎて逆に外してしまいたいくらいに、当たってしまった。

 手始めに彼女が始めたのは、様々な部活・委員会とタッグを組む所だった。コラボと言っても良いだろう。漫画研究会、図書委員会など関係のありそうな所から、果ては茶道部や野球部まで。その得体の知れない人脈を生かし、ありとあらゆる組織とパイプを作ったのだ。それを使って何をするのかは今のところ不明だが、とりあえずはそれだけだったので少し安心している。……今のところ、は。

 まぁ、毎週のように知らない連中と会わなければいけないので、人見知りの俺の心がすり切れそうになっている、という、個人的な問題はあるのだが。

 その第何弾か企画になる今回は、with新聞部。此方がネタを提供し、毎月発行している学校通信に乗せてもらおう、という計画だ。

 そんな訳で、何か良い記事ないかなぁと思案しているうちに、上記コメントに至ったのである。確かに、時期的にはぴったりだし、良い意見だとは思う。けれども、

「それは無理があるでしょー。それに、七不思議ならもうあるし」

一応、たしなめておく。学校側に許可を取らなければならない、あるいはばれるとややこしい事になりそうなラインの時は、俺がストッパーになる事にしている。もっとも、この中では他に適任がいないだけなのだが。

 だが、そのぐらいでめげるきーちゃんではない。俺に向かって、きっぱりと言い放つ。

「昔の人達が作ったのなんて、どうせ出来そこない。つまらないものよ。あたしが考えたコレの方が、絶対、この文芸同好会にふさわしいわ。大丈夫、他の所もやってるから☆ 話ならあたしが通すし」

 一見楽観的に聞こえるが、言っているのがきーちゃんとなると、その意味合いは大きく変わってくる。きーちゃんなら、校長とはいかなくとも、教頭クラスの弱みなら握っていてもおかしくない。あと、通すのは話じゃなくて筋なんじゃ……。と、そこまで考えて、なんだか背筋が冷たくなってきたので、無理矢理思考を停止させた。

 それはそれとして、所詮この程度は生徒の遊び事。だから、そんなに大変ではないだろう。むしろうちの高校なら、勝手にやっても問題のないレベルだ。

――でも、俺が反対する理由は、他にもあるんだけどな……。

「とりあえず、明日までに皆、各自で考えてくる、というのはどうでしょう? ほら、今日はもう遅いですし」

 俺の思惑を知ってか知らずか、冷静に両者のバランスをとったのは斗華だ。

「それが良いと思いますー」

 織葉も乗っかった。これで、きーちゃんも動けまい。

「じゃあ、また明日ね」

 解散の合図だった。



 さて、皆さんは「学園七不思議」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか?

 トイレの花子さん? 動く人体模型? 夜中勝手に鳴り出すオルガン?

 我が校のものは、それとは一味も二味も違う。常識の通用しない我が校ならではの、少々趣向を凝らした不思議が詰まっている。

 いや、それだけではまだ正確ではない。実は、我が校には部活ごとに一つずつ、必ずと言っていいほど七不思議が残っているのだ。何故だかは俺も良く解らないのだが、勿論、文芸同好会も例外ではない。というか、俺はこの七不思議こそが、この学校を代表する七不思議だ、と言っても過言ではないと思っている。

 何てったって今は無き(あ、卒業したって意味ね)我が先輩、茶瓏先輩が作ったものなのだから! よく考えられている上に、トリックは簡単、現実との矛盾も一切無い。あの人にこんな才能が眠っていると知った時には、本当に驚いたものだった。

 まぁ、七不思議の代替わり自体は、どこの部活でもよくやられている事ではある。時代が変われば怖いものも変わるし、また校舎の建て替えなどによって、雰囲気が出なくなる事もあるからだ。でも、俺達には、少なくとも俺には、あれを超える七不思議なんて思いつかない。こんな良いものを変えるなんてもったいないとさえ思う。むしろこれを学内に広めるべきだ。俺はそう考えている。

 ……てっきり、きーちゃんも知ってるもんだとばかり思っていたのだけれど。まぁいい。とりあえず、明日だ。

 きーちゃんのあの石頭、綺麗にかち割ってご覧にいれましょう。



 翌日。やっぱり蒸し暑い、放課後の部室にて。

「さて、皆。考えてきてくれたぁ?」

 きーちゃんのまぶしい笑顔が光る中、対照的に斗華と織葉の表情は暗い。

「い、一応……」

「私も、その程度ですー」

「どれどれ……」

 昨日の今日だ。予め準備をしていたきーちゃんはともかく、斗華と織葉はメジャーどころを少しひねったぐらいのものしか考えられなかったらしい。……しかも、律儀に7つ。

 そりゃあ、七不思議の真髄を知らん奴に考えて来いと言う方が、無茶だったか。

 一方。自信満々のきーちゃんの作は、一見するとオリジナル、しかもちゃんと筋が通っているように見えた。それでも、自称七不思議マニアの俺の目は誤魔化せない。ネットの都市伝説と岩手の農村に伝わる伝承、それに水泳部の九代前、および陸上部五代前、美術部十八代前辺りの七不思議を下敷きにしている事を、俺は看破した。全く、自信満々だった割には、こんなものか。

「うーん、二人も頑張ったけど、やっぱり時間が無かったもんねー。という訳で、今回のはあたしので決ま「ちょっと待ったぁ!!」

 俺の意見は総無視。何も聞きもせず、自由気ままに話を進める彼女に、たまらず声を上げる俺。

「あれ? 稜、あんたあたしに逆らうの?」

 逆らうの、って……。確かに出来る事なら、きーちゃんにたてつく事はしたくない。が、今回は別に真っ向から対立しようとしている訳ではない。敵に回ろうとしている訳ではないのだ。

 辛辣な物言いにくじけそうになりながらも、俺は何とか続ける。

「あぁ、勿論。だって、それよりも素晴らしい、完全オリジナルの七不思議は、この文芸同好会に存在しているんだから」

『!?』

 うぅっ、と言葉に詰まるきーちゃん。やっぱり……。

「きーちゃんだって、知っているんでしょう? 茶瓏先輩達が作った、学園七不思議。あれは本当によく出来ているよ。残念ながら、きーちゃんのそれでは、足元にも及ばない。まぁ、よく調べたみたいだけど? それは、駄目だよね」

 事実を突きつけるのと同時に、さりげなく盗作も注意しておく。すると、きーちゃんの方にも、自覚はあったのだろう。急にらしくもないしおらしい声になって、言い訳を始める。

「だって、茶瓏に負けたくなかったんだもん……」

 ……。なんちゅう乙女な。これがあのきーちゃんか? ……そういえば、先輩と目下喧嘩中なんだったか。そりゃあムキになるはずだ。

 でも、流石の彼女でも、珍しく負けを認めたらしい。しゅん、と肩を落としている。

――やった! きーちゃんに勝った!

 大人げないので、心の中だけでガッツポーズをした。

 その状況を見て、決着は着いた、と思ったのだろう。

「あの、稜先輩、そんなにすごいんですか?」

 蚊帳の外だった織葉が、疑問を投げかけてきた。この子はそういうタイミングだけは、絶対に外さない。これはこれで職人芸である。そこで改めて周囲に視線を向けると、斗華もぷくぅ、と頬を膨らませて怒っている。

――やべぇ、説明するの忘れてた……。

 彼女は仲間外れにされる事を、誰よりも嫌う。そういう訳で、事のあらましを出来るだけ懇切丁寧に、解り易くまとめて話してみた。

 カクカクシカジカ。コレコレウマウマ。

 しかし俺の懸命な説明にも関わらず、

「……ごめん、レイちゃん、分かりづらい……」

返ってきたのは、なかなかに心を抉る一言だった。結構な時間を使い、俺にしては頑張ってみたのに、どうやらいまいち伝わらなかったらしい。

――どーせ俺は、説明下手ですよー……。

 若干凹んでいる俺を見て、相当凹んでいるきーちゃんが、助け船を出してくれた。

「稜、コピー持ってるなら、見せてあげたら?」

 嗚呼、成程! その手があった! さっすがきーちゃん!

「どーいたしまして」

 俺は早速、二人に七不思議のコピーを配る。そして――

「あぁ」

「なるほどですー」

ようやく二人は納得してくれた。ふぅ。なんだか二人に理解してもらう事の方が、大変だった気がする。

 ちなみに、その“七不思議”というのは以下のような内容だった(矢印以下はその由来である)。


【文化祭の時になると消える渡り廊下】

→文化祭時にはどこもかしこも飾りつけられる為、何階か分からなくなってパニックになった客の証言から。

【夜になると五階まである階段】

→昔は五階建てだった為、寝ぼけていた古株の先生が見間違えて大騒ぎになったことから。

【体育館の中を独りでに転がるボール】

→建て替える前は体育館の床が傾いていた為。今でも場所によっては(土地自体が傾いているらしく)転がる所がある。その転がった先と前述した五階は、繋がっているとかいないとか。

【保健室の壁から聞こえる声】

→一般には知られていないが、保健室の隣は物置き部屋になっており、そこが一部生徒のたまり場になっていたらしい。現在は封鎖されているが、どこかに秘密の入り口があるという噂がある。

【いつの間にか増えたり減ったりするオルガン】

→生徒が机の上に置いて使用していたキーボードとオルガンを、通りがかった先生が見間違えたため。しかし、現在音楽室に何台オルガンがあるのかは、何故だか分かっていないらしい。

【図書室にある背表紙の無い本】

→昔生徒が美術の時間に作った本があり、その本には元々背表紙が無かったそうだ。それが紛れ込んだ為だと考えられているが、発見はされていない。しかし、その本を持って上記の全ての場所を巡ると、何かが起こると言われている。


 数分の後、読み終えた彼女達は、口々にこんな事を言った。

「あれ?これ六つしかないよ?」

「これじゃ七不思議じゃありませんねぇ?」

――……ああ、そうだった。今時の子は知らないんだったか……。

 少々悲しくなりつつも、最後の説明をする。

「七不思議は最後の一つを知っちゃいけないんだ」

「どうして?」

「呪われちゃうからよ」

『へぇ~』

 最後のオチはきーちゃんに盗られてしまったが、まぁそのぐらい、致し方無いだろう。俺も、あまり言いたくは無かったし。

 さて、これで粗方、片は付いただろう。

「きーちゃん、今回のネタはこれで良いよね?」

「……うん」

 一応、最後に念を押して、俺の勝利は確定した。


 かくして、学校通信夏休み特別号「俺達の七不思議」は無事に発行され、好評を収めましたとさっ。めでたしめでたし♪



 しかし、彼女がここで引き下がる訳もなく。きーちゃんの陰謀は、これだけには留まらなかった。

それを知るのは、もう少しだけ、先の話……。


学園七不思議、今は減っているそうですね。

かくいう僕も、自分の母校では聞いた事はありませんでした。

そんな廃れつつある日本の文化、これだけ取りざたされるような学校があれば良いなと思い、書いてみました。

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