お兄ちゃんは最高です。
カートの上には
修学旅行で泊まった
ホテルのような朝食が並ぶ。
スクランブルエッグ
カリカリベーコン
ソーセージ
クロワッサン
ポタージュ
オレンジジュース
「妹達に食べさせたいなぁ」
こんなお洒落な朝食みたら
泣いて喜ぶだろうな。
「記憶喪失もここまでくると、もはや別人だな。」
青髪の若い人が近づいてくる。
「お兄ちゃん?」
私の言葉に目を丸くする。
「まさかエステルが
俺の事をお兄ちゃんなんて呼ぶ日がくるなんてな。」
「じゃあ、お兄ちゃんではないんですね?」
「否、兄ではあるな。
ただし義理にあたるがな。俺は養子だよ。
エステルの代わりに
侯爵家を継ぐために遠縁から養子に出されたんだ。」
「じゃあ、お兄ちゃんでいいんですよね。
嬉しいなぁ、弟妹しかいなかったから、お兄ちゃんて憧れだったんですよね。」
友達のお兄ちゃんや
お姉ちゃんの話を聞くたびに羨ましかった。
そんな憧れのお兄ちゃんが私にも出来たのだ。
「お兄ちゃん。」
「なんだ?」
「お兄ちゃん。」
「だから何だよ‼」
こんなやり取りも
新鮮で嬉しい。
「朝からよく食べるな。」
気がつくとカートの上は
空になったお皿ばかりだ。
「アハハハハ…
ついつい美味しくて」
「そっか………
良かったな。
まずは体を治せ。
後はそれからだ。」
そう言って部屋を出ていった。
どうやら私のお兄ちゃんは照れ屋で無愛想で優しいお兄ちゃんみたいです。