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第一層 2 アウトロー・イン・ネオ・トーキョー

ーーー西暦21XX年 ネオ・トーキョー 地下街中層東のとある区のバー ーーー




『ーーーおはようございます。5月14日月曜日、8時になりました。午前の天気と犯罪情報をお伝えします。ーーー』


昔、テレビはオールドメディアだったという。


一人一つはコンピューターを持っていたという。


それも、手のひらに収まるサイズの。


今じゃ信じられない。


それの名前なんて知らない。


俺も人から聞いただけだから、そんなものが存在するかなんてしらない。


携帯電話(ケータイ)みたいなものだったのだろうか。


ケータイだって、地下街(ここ)じゃ高いから金持ちしか持っていない。


それに、全員がケータイなんて持ってたら、ギャング連中に奪われ放題だろう。


郵便局の連中も商売あがったりで職なし、果てはギャングになってしまうだろうな。


地下街の全ての問題は治安に起因する気がしてきた。


そうじゃなきゃ、こんなバーで俺が額のど真ん中に銃口を突き付けられる必要もないはずだ。


「あのなぁ、言ってるだろぉ?俺ぁ待ち合わせしてるだけだっつの」


俺がそう言っても、バーのマスターはその手に握っているダブルバレルショットガンの引き金から指を離そうとはしない。


俺とマスターの、カウンター越しの特殊な関係性。


トリガーから指は離せって習わなかったのか。


「その手には乗らない!お客さん、自警はまだ!?」


マスター。体全体が力みすぎていて、今にも俺の頭をぶち抜いちまうぞ?


その様子だと俺が動いた瞬間に、壁に赤いお花が咲いちまう。


「連絡はしたけど…いつ来るかわからん!」


おいサラリーマン風。ケータイなんて持ちやがって、俺がいつ指名手配犯だって知られたかわからないが、自警の奴らが入ってきたら、お前ごと蜂の巣にするかもしれねえのに。


「おい兄ちゃんよぉ、仕事に遅れるぞぉ?」


「会社なんぞどうだっていいが…俺は死ぬのは勘弁だ!」


うわ、豆鉄砲みたいなオートマチックピストルを出しやがった。


間違えてマスターに当てるんじゃねえぞ。


ああ、くそ……


「おい、マスター。まず、悪ぃ奴に銃を向けるときは、そいつに銃を取られない所で構えろ。そんな長物をこんな小せぇ場所で振り回すんなら、少しは扱い方を覚えとけぇ」


「黙りなさい!」


カラン、コロン。扉を開ける音が鳴った。


時間通りだ。だが、このタイミングはまず過ぎる。


ほら、驚いたマスターが俺じゃなく今入ってきたお前の方に銃口を向け始めたぞ。


撃つかもなぁ。撃つだろうなぁ………




ナカバがバーの扉を開けると同時に、暖色のランプの光だけが揺らぐ薄暗い店内で一発の銃声が鳴り響いた。


中には、よく見知った二人と、昨日会った男がいた。


サラリーマンはカウンターの奥で驚いている。


マスターは天井に向けて銃を構えている。


ムメイはカウンターから身を乗り出して、マスターの銃を天井に向けている。


ナカバはムメイを見た。


ムメイもナカバを見た。


その後、ムメイは自分の肩を見た。


サラリーマンの豆鉄砲からゆらっと煙が一本出ている。


ナカバは同じ服装でいるからこんなことになるんだ、と思った。


外の通行人はあまり気にしていない。


ムメイは地下街の全ての問題は治安に起因すると確信した。


「よぉ、ナカバ。こいつらに説明してくれぇ」


ムメイは席に座り直した。


「マスター、こいつは…知り合いだ。安心しろ」


ナカバは、ムメイについてどう説明すべきか迷っていた。


地下街では噂が回りやすい。地下の住民は()()()()()


ナカバはその速さに。


「え、ええ…ナカバさんがそういうなら…」


マスターは銃を下した。


サラリーマンは腰を抜かしていた。


ナカバは席に着いた。


「マスター、朝食セット(ブレックファースト)。お前は?」


「いや、俺ぁ食ってきた。代わりにブドウ糖たっぷりのラムネあるかぁ?」


「ナカバさん…このお方は…」


マスターは訝しげにムメイを見た。


「俺ぁ、脱獄犯だ」


ナカバが何かを話そうとする前に、ムメイが先に答えた。


その場にいた全員がムメイを見た。


サラリーマンは腰を抜かしていた。


「だがなぁ!何も悪いことはしてねぇよ。する気もねぇしな」


誰かに銃を向けられる前に、ムメイは発言を続けた。


「現に、撃つかは分からなかったが銃を向けられそうになったナカバを助けた、そうだろぉ?奥のバカが俺を撃っちまったがなぁ」


ムメイはサラリーマンを睨んだ。


サラリーマンは失禁した。


それを見たムメイは大笑いした。


「笑ってやるな。誰だって肩に穴の空いて平然としている凶悪犯を見ればこうなる。マスター、こいつのも頼む」


ナカバが皮肉交じりに言った。


「あんたも一日一発食らってみろ。一度死にゃいいさ」


ムメイも皮肉を返した。


チン、という電子レンジの音がした。


マスターが軋むレンジの扉を開け、ホットドッグを取り出す。


蛇口を捻り、水を注いだ後、茶色い粉末を一杯入れる。


「はい、朝食セット(ブレックファースト)。ああ、あとこれね」


そう言うと、ホットドッグとコップ一杯のコーヒーに付け合わせのナッツ類を皿に盛ってナカバの前に置いた後、ラムネを瓶のままムメイに差し出した。


「どうも…で、話ってなんだ?」


ナカバが聞いた。


「ああ、ちょいと捜してる奴らがいてなぁ」


「脱獄仲間か」


「よく分ぁった(わかった)なぁ!」


「…当たってたか。最悪だ」


「最悪な(こた)ぁねぇよ。一人はすぐ見つかるぞぉ」


「問題はそこじゃない…そもそも、お前らが何をしたいのかがわからない」


「…ツケを払わさせてやるのよぉ…」


「…私怨の殺しの手伝いはせんよ」


「んん?そうじゃねぇさ。そいつが最近悪ぃことしてるみてぇでよぉ。それを止めんのよ」


「まるで善人の言葉だな」


「そぉよ!俺ぁ善人だかんなぁ」


「地表から舞い降りたヒーロー気取りだな」


「全く以てその通りよぉ!」


お互い顔を向けることなく話していたが、この時ナカバはムメイの方を見た。


マスターはサラリーマンの粗相を清掃していた。


サラリーマンはいつの間にかいなくなっていた。


いつもより多めの金を席に置いて。


「…で、ヒーローさんは何をお望みなんだ」


ナカバは言った。


すると、ムメイがこう言った。


「まずは仲間探し…そんで…」


「それで?」


ナカバは聞いた。


ムメイは続けた。


「仲間が集まったら、ある奴を殺しに行く。もちろん…」


ムメイはナカバを見た。


ナカバもムメイを見ていた。


「…大犯罪者のな」







登場人物


ムメイ…脱獄犯の一人


ナカバ…ナカバ…自警団 警備一課所属。元警察官


マスター…マスター…ランチバーの店主。朝もやっている。


サラリーマン…月曜朝は遅刻しがちな会社員。会社側も辞めてもらっては困るから雇用し続けている。いつもは三人でいる。



※この作品は全てフィクションであり、実在する人物・団体・事件とは一切関係がありません。


また、この作品には不適切な表現が含まれていますが、あくまで登場人物の発言・行為であり、作者はいかなる政治的思想・差別・犯罪その他違法行為・倫理的問題に関し、それらを肯定・助長する意図は一切ありません。

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