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第二層 1 菓子折りと面会者

歴史は未だ終焉を知らない。

人はその繰り返すばかりの牢獄から未だ抜け出せない。

ーーー 地下中層1階 とある病院 ーーー


21時半、ナカバとセンツは公立病院へと到着した。


受付を済ませ、階段を上っていく。


白い建物、白い部屋、白い服。


そういう空間は、無機質な鉄筋コンクリート打ち放しの建物が並ぶ地下においては珍しい。


受付を済ませ、「For Vigilante」と書かれた病室へと案内される。


病室の扉を開けると、そこにはナカバがよく見慣れた顔ぶれが隣り合わせのベッドに並んでいた。


「お疲れ様です、ナカバさん。と、君は新人のセンツ君だね」


「はい!先月から警備一課に入りました!センツ です!よろしくっす!」


「ははは、威勢がいいなぁ。よろしくセンツ君」


「こいつはバキン。奥にいるのがジャックだ。古い付き合いだ。ああ、すっかり忘れていた。センツ、この金で下の売店に行って菓子折りでも買ってきてくれ。余った金は好きに使っていいぞ」


「了解っす!あざっす!」


センツは外へと速足で出ていった。


「…で、ジャックの容態(ようだい)は?」


「いえ、今回は寝てるだけですよ」


バキンが答える。


「俺の貴重な休日を潰した訳だが、弁明の一つでもしてみろコアラ野郎」


ジャックが目を開くと、その澄んだ青い瞳が空気中に曝された。


「笑えない冗談はよしてくれ。それに…その観光資源はもうとっくに絶滅してる」


ジャックが呟いた。


「もっと笑えんよ」


バキンが言った。


「コアラも今頃はユーカリの葉を求めて海を泳ぎまわってるんだ」


ジャックが呟いた。何か思うことがあったのか、窓の外を見て、また目を瞑った。


「要らん心配させやがって…貸し一つだからな。今はゆっくり休んでおけ」


ナカバがそう言うと、ジャックは少しだけ手を挙げた。


「にしても、わざわざ来てもらってすいません」


バキンが言った。


「死に顔を拝んでやろうと思ってな」


ナカバが言った。


「くっふっふ、笑わせんでください。あばらが何本か折れとるんです」


バキンは笑った。


「大丈夫そうで何よりだ」


ナカバも笑った。ジャックは寝ていた。


「お気遣いどうも。…で、要件は例のやつですな?」


「ああ。発見経緯と、どんな奴だったかを知りたい」


「いやあ、何と言えばいいか。どうも掴み所のない奴でしてね。顔は…」


「純二ホン人!お前と同じような顔だ」


ジャックが口を開いた。


「非常に参考になったよご親切にどうも」


「マジだぜ、別に特徴なんてない。短髪、痩せ型、身長は180前後。童顔、20代前半。至って普通だ」


ジャックが続けた。


「それに関しては付近の目撃情報を辿るしかないですな。問題なのが…」


「…警察の話は本当だったか?」


「ええ」


そういうと、バキンは少し声を潜めて言った。


「…ありましたよ。()()()()


「そうか…オーバーシティの妄言であって欲しかったが、残念だ」


「ですな。発見したのは近くの路地裏です。」


「ほう」


「怒声が聞こえたもんで走ってったんです。そしたらヤクやってる不良グループと一緒にいました。とは言っても、殴り合いになってたもんで、止めに入ったんです」


「殴り合い?…仲間じゃないのか」


「ええ、ただのガキですよ。そいつらは数字もなかった。で、不良たちは逃げたんですがーーー




ーーー怒声が聞こえた。


大きかった。


俺とジャックはその声の方へと向かった。


換気扇から排出される熱気をかき分けながら仄暗い路地裏の奥へ進んだ。


ゴン、ゴン、ゴン。


人を殴る音が何人分か聞こえた。


居た。5、いや6人。


水溜まりに錠剤。


ゴン。


一人倒れた。


水しぶき。


錠剤が宙を舞った。


怒号が飛び交った。


俺はホルスターのボタンを外すと、リボルバーに手を掛けゆっくりと進んだ。


よくよく見てみれば1対5、いや、一人倒れていたから、1対4の殴り合いをしていた。


ゴン、ゴン。


1人の方の口から光るものが飛んだ。


歯だった。カウンターを入れた。


血が飛び散り、食らった奴はよろけた。


ゴン、ゴン、ゴン。


カウンターを食らったやつがポケットからナイフを取り出した。


リボルバーを抜いた。


トリガーガードに指を当てた。


いつでも撃てる。


「自警だ!保安法に則り君たちを逮捕する!!」


4人逃げた。


安堵。


1人残った。


危険。


1人はまだ倒れていた。


逮捕。


残ったその一人の男が口を開いた。


「おう(あん)ちゃん。助かったぜぇ」


奴はそう言った。


笑っていた。


前歯が抜けていた。


口内が赤かった。


短髪、痩せ型、身長は180前後。


童顔、20代前半。


至って普通。


地下の暑さの中でタートルネックを着ていたこと以外は服も普通。


喉仏にタトゥーが入っているのが暗い中でもうっすら四分の一ほどが見えた。


数字だ。


形からして、「00 01」


「あんたにも事情を聴きたい。一緒に来てくれるか?」


ジャックが言った。


「…お前ら自警だろぉ?ちょいとまずくてなぁ。それに腹減っちまってなぁ。帰らせてもらうぜ」


奴はそう言うと、「じゃあな」と言い歩いて逃げた。


「止まれ!」


俺は言った。


奴は止まらなかった。


トリガーに指をかけた。


その瞬間、ジャックが発砲した。


左の太腿を貫通した。


のに、数歩あるった後で、奴は何事もなかったかのように立ち止まった。


撃たれた太腿を見た。


こっちを見て、奴はこう言った。


「撃つこたぁねぇだろぉ!」


「我々は保安法に則っている。つまり止まらない方が悪い」


ジャックが言った。


「じゃあ俺も保安法?ってやつに則って逃げさしてもらうぜぇ。…知らねぇけどな!」


奴は走り出した。


とても速かった。


撃たれていたのに。


「止まれ!」


俺とジャックは何発か撃ったが、当たらなかった。


後を追った。


水溜まりがバシャバシャと音を立てた。


狭い路地を抜け、奴は道路に出たーーー




ーーー道路に出た途端、奴は車に轢かれたんですよ。目の前を飛んでいきましたよ。で、車から何人か出てきたんです。そいつらが厄介で、さっきの不良だったんですよ。奴の方へ向かっていったんで、俺らも急いで道路を出たんです。そしたら、角に隠れて角材持ってた奴に特大ホームラン食らっちまって…この通りです」


「ん?奴にやられたんじゃないのか」


「ええ、奴は別に何もやってませんよ」


「そうか…」


「…また考え事ですかい?続けますか?」


「ああ、続けてくれ」


「ええ、まあ、とりあえずのところ、不良グループは捕まえました。だが奴には逃げられました。血痕を追ったんですが、取り逃がしました」


「そうか。いずれにせよ。あらかたの特徴と首の数字、それを隠す格好をしていることが分かった。今はそれで充分だろう」


外から足音が聞こえてくる。


コッコッコ、という小気味良いブーツの音。


自警団の人間なら聞きなれている音。


自警の履くブーツ。


センツが帰ってきた。


「ナカバさーん!菓子折り買ってきましたー!」


センツが勢いよく扉を開ける。


「おう、ご苦労。ありがとうな」


ナカバが優しく労う。


「あ!それから、バキンさんとジャックさんに面会したいって人が来てます!」


センツが後ろを振り向く。


知らない足音。


トットット、という安いスニーカーのような音。


「面会?…そんな予定は無いんですがね」


バキンはそう言うと、ナカバを見た。


ナカバはジャックを見た。


ジャックは目を見開いていて、引き出しからリボルバーを取り出して布団の中にそれを隠していた。


三人それぞれが準備した。


その時間はほとんど一瞬だった。


センツがナカバの方を見る時には、至って普通を装いながらもいつでも撃てるようにしていた。


ナカバはこう考えていた。


センツを殺さないのなら、目的はベッドに寝伏しているこの二人だと。


「入ってくれ」


ナカバが言う。



その男は扉から姿を現した。



短髪、痩せ型、身長は180前後。


童顔、20代前半。至って普通。


タートルネックもこの際は普通。


ジーンズの左足に空いた穴以外は。


その男は言った。


「よぉ、昨日の自警さん方ぁ」


その男は笑った。前歯があった。

登場人物紹介



ナカバ…自警団 警備一課所属。元警察官


バツキ…ナカバと同じ警備一課所属


ジャック…ナカバと同じ警備一課所属。オーストラリア出身。


センツ…ナカバと同じ警備一課所属




※この作品は全てフィクションであり、実在する人物・団体・事件とは一切関係がありません。


また、この作品には不適切な表現が含まれていますが、あくまで登場人物の発言・行為であり、作者はいかなる政治的思想・差別・犯罪その他違法行為・倫理的問題に関し、それらを肯定・助長する意図は一切ありません。

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