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第一層 2 ヴィジランテ・イン・ネオ・トーキョー

ーーー今から100年前。


未曾有の大地震により二ホンの首都パレオ旧・トーキョーは津波に浚われた。


第一のウェーブ。




今から90年前。


トーキョーは国際連合(U N)の支援を受け復興を果たすも、瓦解した国内企業の代わりに外国企業が流入。


小さな島国の中で、二つの大国による激動の経済市場の水面下で第二次冷戦が始まった。


第二のウェーブ。




今から80年前。


二ホンにおいて旧体制に反旗を翻した新体制が革命を起こした。


その導火線は水面下で世界中を這っていた。


第三次世界大戦、世界は瞬く間に火の海に包まれた。


第三のウェーブ。




今から70年前。


第三次世界大戦は新体制の勝利により終結。


しかし、もはや地球には人類をあやす余力は残されておらず、海氷の融解を前にトーキョーのみならず世界の大都市の大半が海に沈んだ。


第四のウェーブ。




今から60年前。


世界の総人口は200億人を突破。


増えすぎた人類の生活の為に、地上は食料生産の為にほとんどが農地化された。


人類は農地化できない痩せた土地の地下に都市を建設し、そこに移り住んだ。


そして、国家という枠組みは遂に途絶え、UNの後継として都市(United)連合(Acropolis)が樹立。


世界は再び団結し、UAの指導の下研究が進み、世界の環境は元通りになった。


融解しせり上がった海面を除いて。


最後のウェーブ。




今から50年前、UAの設立から10年足らずで、ネオ・トーキョーは作られた。


高地かつ地震の影響の少ない場所に。


地表都市の下に「上層」「中層」「下層」と呼ばれるメイン層、さらにそれらを3分割した計9つある地下街と地表都市の人類居住域の面積は旧東京(パレオ・トーキョー)に匹敵する大都市となった。


地表には道路の代わりに地下への採光の為の開口部が造られた。


地下上層、中層、下層の上の1、2階も同じように開口部があり、その縁に沿って道路が造られた。


最下層は開口部ではなく、旧都市(パレオ・シティ)のように道路が造られた。


1つの階につき天井高、約30メートル。


各階層を支える地盤の厚みは約3メートル、メイン地盤の厚みは約12メートル。


メイン層ごとの高さは3階層の天井高と3階分の地面の厚みとを併せて約108メートル。


よって、地下街の最大深さはおおよそ324メートル強となる。




半径約20キロメートル。


1つの階につき面積1260平方キロメートル弱。


よって都市総面積おおよそ1万平方キロメートルの巨大都市。


人類未踏の人口大地の弊害はすぐ現れた。


ネオ・トーキョーは他の都市同じように、世界有数の犯罪都市となった。ーーー




…これは10年ほど前、私が地表都市(オーバーシティ)の警察官だった頃に教わったことだ。


中層出身だった私が警察になれたのは、(ひとえ)にその直感と、地下街という環境においても勉学に励むことができた両親の協力があってのことだった。


私はこの犯罪都市をかつてのトーキョーのように平和な街にしたいと希望を持って警察になった。


しかし結局のところ、犯罪の大多数を占める地下街(アンダーグラウンド)を変えることはできなかった。


奴らもパレオの守銭奴と同じだということに変わりなかった。


今日の犯罪指数は、上から2.13、29.5、502。


彼らは地下街の惨状を前にしても、見向きもせず、ただ無視をした。


そういう意味では、犯罪指数は正確に、残酷に機能している。


私は自分の無力さと愚かさに絶望し、正義のためにと思って入った警察を、正義のためにと思って辞めた。


それは一年足らずの出来事だった。


私にできることは孤独な反抗以外に無かった。


それから程なくして、地下街で暮らしていた私の元にある手紙が届いた。


元警察という肩書きは伝聞が早かった。


内容は地下街(アンダーグラウンド)自警団(ヴィジランテ)への勧誘だった。


私はそこではじめて自警団の存在を知った。


私はすぐに入団した。


小さな一歩でも、歩む価値があると思った。


ここなら何か変えられるかもしれない、そう思った。


入団して一年。


その組織はまだ新設されたばかりにも拘わらず、警察はすぐさま地下街から手を引いた。


警察はそれ以来、地表都市(オーバーシティ)の政府高官や資産家、芸能関係者などの上流階級を囲う私設軍隊と化している。


あるいは上層のように、カジノやら風俗やらの金持ち向けの娯楽商業施設だらけの所じゃない限り、警察は地下街(アンダーグラウンド)には干渉しない。


…鶏が先か、卵が先か。


この都市の犯罪は、何が根源にあるのだろう。


そして、現在。


ランチバーで聞いた、脱獄犯の居場所の噂。


あれはあながち間違っていない。


脱獄犯の一人は確かに中層ここにいる。


つい昨日、馴染みの自警が捕まえようとしたが逃げられた、という報告があった。


逃げられたとは言っても、手負いである可能性が高い。


顔も()()()


現状、顔とおおよその身長、体重、年齢がわかっているのはその一人のみ。


…追っていながら、名前や、罪状が何か分かっていない。


というのも、脱獄犯連中の指名手配は、正確には警察がかけたものだからだ。


警察は地下街のことに関与しない。


…つまり、地表都市(オーバーシティ)の犯罪者だ。


それなのに、なぜ我々に依頼が来たのか。


極めつけに、我々がやっとの思いで信頼を得てきた地下街において、得体の知れない、何人いるかもわからない脱獄犯連中を野放しにしている。


さらにメディアでも放映されている。


地表都市の連中の思惑が何であれ、我々にも面子というものがある。


必ず捕まえなければ。


ランチバーを出る。


腕時計の針は10時14分を刻んだまま静かにしている。


頭上を見上げる。


分厚いコンクリートのミルフィーユに開けられた(あな)


幾何学の青空。


はっきりした輪郭の真っ白な太陽から降り注ぐ熱光線が人々の肌を突き刺す。


その代わりに下から上へ冷たい風が吹き抜けていく。


自然と共存することを諦めた人類は、もはや、自然を守ろうとも、自然を壊そうともしなくなった。


次はいつその間違いに気付くのか。


「ナカバさん、午後も巡回ですか?」


「ああ。そもそも今日自体、本来は休みだったんだが、巡回組に2人空きができてな」


「なんで急に空いたんすか?何かあったんすかね」


「自警が急に居なくなるときは怪我で病院にいるか、死んで病院にいるかのどっちかだ」


「え、てことは、お見舞い行かないといけないっすね。あ、でも…もしかしたら死んじゃってるのかな…」


「安心しろ。そいつらとは長い付き合いだが、簡単に死んでくれるような奴らじゃないさ。それに、その怪我も俺たちが追っている奴に負わされた傷だそうだ」


「お!てことは例の()()()に一歩近づいたんすね!」


()()だ」


「あ…すいません。俺、バカなんで…」


「人には得手不得手…得意不得意ってものがある。少しずつ覚えればいい」


「!…はい!」


「巡回の後で、その自警が入院してる病院に向かう」


「了解っす!よぉおし!キョーアク犯を捕まえるぞぉ!」


凶悪。私から言わせれば、オーバーシティの人間こそ悪である。




        悪が正義をかたるなら、その正義は何を悪とするのだろうか。




「ああ、行くぞ」


「うっす!」


21時まで巡回をした後、私たちは10ブロックほど先にある病院へと歩き出した。


 この世の中に体から出るクソ以外にクソというものが存在するなら、それは間違いなく都市政府(ガバメント)だ。


そして、あれ以上にクソなものはない。


2番目があるとすれば、それは間違いなく、このシステム(ネオ・トーキョー)だ。



 つまり全部クソだ。

登場人物


ナカバ…自警団所属であり元警察


センツ…自警団所属。ナカバの後輩



※この作品は全てフィクションであり、実在する人物・団体・事件とは一切関係がありません。

また、この作品には不適切な表現が含まれていますが、あくまで登場人物の発言・行為であり、作者はいかなる政治的思想・差別・犯罪その他違法行為・倫理的問題に関し、それらを肯定・助長する意図は一切ありません。

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