表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/23

 その翌週の土曜。

 俺が見たいと思っていた映画を四人で見に行くことになっていた。

 リュートと待ち合わせの場所に向かうとすでに二人はそこに立っていた。


 「よう。お待たせ?じゃあ早速映画館に向かうか?」


 「え⁉ちょっと待って。その前に彼女の紹介をした方がいいでしょう?」


 「まあそれもそうか‥‥じゃあよろしく」


 「では。こちらが私のクラスメイトのメルローズさん。私は彼女のことをメルって呼んでいるわ。そしてこちらがリュートでその隣がシオン。前に話した通り、二人とも小等学舎から一緒の友達よ」


 ミクが全員の紹介をすると、彼女のクラスメイトは「リュートくんもシオンくんも私のことはメルって呼んでね。二人とも私服姿がすっごくかっこよくて一緒に歩くのは緊張するわ‥‥」と、苦笑いをした。


 「俺らのことも名前呼びでいい。くんはいらない。ってことで今度こそ映画館に向かうか」


 俺たちは映画館までの道のりを他愛もない話をしながら歩いて行った。

 リュートは先週購入したばかりの服を今日も着ていて本当によく似合っていた。

 これはよほどのアホでない限り、面接官の受けもよかったに違いない。


 「リュート、そのうち合格の知らせが届きそうだな。そんな予感がする」


 だからそんな言葉が自然と口をついて出た。

 だが嬉しそうに喜ぶ彼の後ろで思わずといった感じで「えっ⁉」と声を出したミクの顔色はあまりよいものではなかった。


 「リュート、もしかしてまた何かのオーディションを受けたの?」


 「うん、受けた。先週の土曜に大手の芸能事務所の新人募集の面接があった」


 「そ、そう‥‥‥じゃあ今は結果待ちなんだ?」


 先ほどまでのウキウキとした様子から一転、どことなく暗く沈んでしまった様子の彼女をメルがそれ以上落ちていってしまわないよう自身が引き上げようとするかのようにひたすら明るく楽しい話題を提供し続けた。


 そのことを俺自身は少し意外だと感じていた。

 こういう場合は大抵、どうしたの?とか、大丈夫?などと相手を心配し、その気持ちに同調し、ともに重い空気の中に沈み込み慰める方向にいくものだ。だがメルは同情の言葉も行動も一切なく、まるで空気の読めない阿呆と勘違いされても仕方がないような言動を見せたのだ。


 リュートはいつも通り、結果を楽しみにしていると、ただそれだけを口にした。


 そして映画館に到着すると、思ったよりも混雑していた。

 それでも無事チケットを入手し、上映される映画のタイトルが表示されているドアの中へと入っていった。暗がりの中、足元の明かりを頼りに四人が並んで座れる席についた。


 俺とリュートを端にして、その間に女の子ふたりが座っている。

 ふとミクの方を見てみると、いつの間にか元気を取り戻していたようで、隣にいるリュートにちょっかいを出して反撃を食らっていた。よく見る二人の日常の光景である。


 なんとなく安堵し、無意識にほっと軽く息を吐くと、隣に座っていたメルが「元気が戻ってよかったですね」と、小声で告げてきた。やはり彼女の先ほどのおしゃべりは()()()()()()意識した行動だったのだ。俺はとても稀有な良い友人を見つけたらしいミクに心の中でよかったなと語り掛けていた。


 その後約二時間ほど映画を鑑賞し、映画館のエントランスホールで立ち話をしているとリュートが「俺、腹減った。せっかくだからこれからみんなで何か食いに行こう」と提案した。ちょうど同じことを考えていた俺も彼の提案に乗り口を開いた。


 「そうだな。俺もさっき腹が鳴った。早く何か食いたい。今からみんなでうまいラー‥‥‥‥バーガーでも食いにいくか?」


 俺はみんなでうまいラーメンでも食いに行こうと言うつもりだったのに、直前で言葉を飲み込んでしまった。自分でもなぜそうしてしまったのかはわからない。そして咄嗟に目に入ったバーガーショップの看板からそう口をついて出たが、特にバーガーを食べたいと思っていたわけでもなかった。


 「?シオン、お前今日は随分珍しいな?バーガーなんて学園でも寮でも食えるからって街では避けていたのに。でも確かに腹が減り過ぎて速攻で出てきて食えるもんがいいからバーガーにするか」


 ミクとメルの二人もそれでかまわないということで四人で近くのバーガーショップに入った。俺たちと同世代の若者や、小さい子連れの家族でいっぱいだったが天気が良いのでテイクアウトにして中央広場で食べることになった。


 「なんかさ、こうやって緑が広がる場所でバーガーを食べていると、学園の庭でランチしているみたいだね?」


 「そう。だから俺とシオンは街でバーガーなんて滅多に食わない。大体ラーメンか、たまに定食屋ってとこかな?」


 「でもこのバーガー、学園のよりもおいしいよ?私は学園ではカフェで簡単に済ませることが多いからまだ新鮮に感じるのかもね」


 俺は二人の会話を聞きながら、やっぱりラーメンだよなぁと、なぜ正直な言葉が出てこなかったのかと自問自答していた。あの瞬間はラーメン屋を思い浮かべたのと同時に、モモの顔も浮かんできて今は行くべきではないような気がしてしまったのだ。確かに今日バイトをしていれば、それは当然とも思えるが、落ち着いてよくよく考えてみれば、たとえ現場を見たとしてもミクもメルも学園に密告などはしないだろう。二人ともそんな性格をしているとは思えない。まあとにかく、あの店のラーメンを一回食べ損ねてしまったことに変わりはないのでどこかで挽回しようと思う。

 


 



 







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ