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ついに着工された増改築工事であったが、オーナーである伯爵の手腕とでも言おうか、工事に携わる人間たちのプロフェッショナルで見事な働きにより、あっという間に終了してしまった。
完成した店舗用のスペースは想像以上に広々としており、内緒だが内心ではもっと小さくてもよかったのにと思っていた。でも実際に従兄弟からの土産品を実家からすべて移動させ、モモと一緒にディスプレイしてみるとものすごくフィットしていてとてもよい感じになった。
従兄弟はもちろんわざわざ一時帰国をしてまで完成後の店舗を真っ先に見にきたが、土産たちも喜んでいると満足気につぶやき、なぜか生き生きと足取り軽く仕事先へと戻って行った。
ここを皆はセレクトショップなどと言うが、やっぱり土産でもらったものを売る転売屋だと俺は改めて思った次第である。
「ねえねえ、ちょっと思ったんだけど、ここにシオンがデザインした服も置いてお土産と一緒に売ればいいんじゃない?」
明日のオープンに備え、朝から来てくれていたモモが棚を拭きながらそうつぶやいた。
「ん?服はネットで販売しているからここで売らなくてもいいだろう」
「じゃあここでしか買えない一点ものの服をデザインして売るのはどう?」
それは面倒くさいと答えようとしたが、同時にそれは面白そうだと思ってしまった俺は、腕組みをしながら少しの間思考していた。そして彼女の提案通り、自分で好きにデザインしたものを置いてみることに決めた。
「なんかイメージが湧いてきてワクワクするからとりあえず出来た順に置いてみようと思う。別に売れなくてもいいからここに並べてみたい」
そう言った俺に大きく頷いたモモはとてもうれしそうだ。そしてそろそろランチにしようと提案すれば、即ラーメンに行こうと返ってきた。俺の返事はもちろんの一言。
「あのさ、さっき店にシオンのデザインした服も売ればいいのにって言ったのはね、仕事で会った人でシオンが最初に販売したTシャツを着ていた人がいて、その人がネットじゃなくてお店で買ってみたいって言ってたからなの。その人は普段はネットショッピングはしない人らしいんだけど、シオンのTシャツは知り合いが着ていて自分も欲しかったから聞いて買ったんだって」
どうやら俺が作って販売したTシャツは買ってくれた人たちに喜ばれているようで安心した。思いがけず全部売れてしまい、初の作品として残せなかったのは残念であるが、まあそんなことより自分も購入者も満足できたことがなによりである。
「本当に有難い。ワンピースももう売り切れそうだし、予想以上に上質でシンプルなデザインが受けるんだな~と。それにネットだと直に自分の目で見て手で触って感じることができないから本当は店での販売がベストなことは理解しているんだ。今までは店を持つためのいろいろな面倒なことを放棄したかっただけだから運よくここを使わせてもらえることになってやっぱりここでの販売も視野に入れるべきだと改めて思った」
俺たちは大好きなラーメンをすすりながら今後のあの店の行く末を想像して笑い楽しんでいた。実は久しぶりに訪れたラーメン屋で、店主と奥さんに一月以上も顔を見ていなかったから寂しかったと引き留められてしまい、食べ終わって店のメニューにはないコーヒーとお菓子がなぜか自動的に運ばれてきて気づけば四人でまったりとおしゃべりをしていた。
「いや~もうこんな時間か!仕方ない、そろそろ仕事に戻るとするか」
急遽店を閉めて俺たちとのお茶の時間を楽しんでいた二人であったが、人気店のため、さすがに夜の営業に向けて準備をしなければと厨房へと戻っていった。その後俺たちもトリーに帰り、明日の開店に向けて最終チェックをしていた。
「今日はいろいろとありがとう!本当に助かった!あとはもうすることもないし、明日のオープンも俺次第だから安心して帰宅してくれ」
「ふふ‥‥まあここはシオンのお店だからオーナー次第っていうのは当然なんだけど、まさかシオンの朝の目覚め次第だとは誰も思わないだろうね~」
そう言っておかしそうに笑いながら呼んでおいたタクシーに乗って彼女は自宅へと帰っていった。
そしてついに転売屋オープン初日。
どんな日であろうと通常運転の俺は今朝は十時近くに目覚め、縁側に腰をおろしてのんびりコーンスープを飲みながら季節の草花を眺めて贅沢な時間を過ごしていた。そして一応皆に言わせると部屋着と言う類のウエアから外出着らしきものに着替えて髪も整えオープンに備えた。
時計を見ると十二時少し前。
俺は店のシャッターを開け、ドアの解錠を行った。
一切の宣伝をしていないため、誰もいないはずの店の前にはニコニコと笑顔の伯爵と夫人、さらには次期伯爵であるモモの兄であるレイまでもが揃って待っていた。
「‥‥‥お、おはようございます?もしかして皆さまお揃いで開店をお待ちになっていらっしゃったのですか?」
恐る恐る尋ねた俺に、一切表情を変えない伯爵が一言「今ちょうど来たところだよ」と宣った。俺にはそれが気遣いからくる嘘なのか、マジの方の返答なのか見当もつかないが結局のところどうしようもないので普通に「いらっしゃいませ」と中に通すことしかできなかった。
だが意外にも三人とも普通に店内をバラバラに巡りながら好きに品物を手に取りゆっくり見ていた。しかも気のせいでなければ三人ともとても楽しそうである。
「シオンくん、娘には聞いていたけれど、本当にどれも素敵な一点ものでどれも欲しくなってしまうわね。でも私たちよりももっとこれらの品々に縁を感じて購入される方々をがっかりさせないためにも今日は見学ということで購入は控えさせていただきます。今日は来てよかったわ。本当に素敵なお店で心が躍りました」
そんな夫人の微笑みとともに三人はわずかな滞在で去って行ってしまった。
だがそれから間もなく一人、また一人と、偶然店の前を通りかかったであろう人たちが興味深そうに店内に入ってきてやはり目を輝かせながら品を手に取り眺めはじめた。皆ゆっくりと品を眺めていて不思議とまるで品とお客さんが会話をしているようにも見えた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
続きは24日投稿予定です。




