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リュートも実際に芸能界という未知であった世界に足を踏み入れ、違和感を感じることは多々あったと言う。それでも多くのことを知り、体験したことで、今の自身の決断には心の底から満足していると語った。
俺はリュートのその表情を見て、自身もうれしくなっていた。
見渡せば全員がとても良い表情をしていてまるでリュートの喜びというか、満足感が伝染しているかのようだった。
「じゃあ次はシオン?」
なぜか次は俺の話をするようである。
「俺は大好きなトリーに住んで興味のある服づくりと販売をしながら買い物パートナーの仕事も面白くて毎日が幸せだ」
「はいはいはい‥‥‥シオンはいつだって幸せそうで何より。てか、今更だけど、最初のTシャツを販売する時、普通は私たちに連絡の一つでも入れない?気づいた時には完売って何それ?あなたもう少し私たちに対する興味を持っても罰は当たらないと思うわよ?」
「ミク?ホントに今更過ぎやしないか?でもまあ、あのTシャツは俺も予想外の売行きだったんだ。自分メイドの初Tシャツだったのにもかかわらず、自分用に記念に取り置く分も残らなかった。予定では自分と皆の分くらいは余裕で売れ残って皆に渡せると思ってた」
正直まさかの売行きでうれしかったが本当に驚いた。
カメラマンの友人らが購入して宣伝してくれた効果がすごかったのか、気づけばソールドアウトになっていたのだ。
「だが今回の部屋着ワンピースはまだあるはず!それを皆にプレゼントする!」
俺がそう言うとモモが「あるはずってもしかして在庫の確認していないの?」と突っ込みを入れてきた。
図星である。
だが皆は期待しないで待っているの一言と、ものすごい笑顔で終わらせてしまった。なぜだろう‥‥その笑顔がちょっとだけ怖い‥‥
「そういえばシオン、新しく始めるセレクトショップはいつ頃オープンする予定なんだ?」
するとリュートが俺の転売屋についての話を振ってきた。
「あ~そろそろ改築工事がはじまる予定だが、特に期限を設けていないからそれが終わり次第になるかな?それに一人でやるから開店も不定期になるし、オープンの宣伝とかも考えていない」
俺はあくまで自分のペースでというのが基本なので、儲けはまったく気にしておらず、偶々訪れた人が運命的に出会う好みのものがあれば良いなとそんな空想をしてウキウキワクワクしていると伝えた。
「ふふふ‥‥やっぱりシオンはそうでないと!それにと~っても楽しそうだからできることならお手伝いしたいけれど、領地と王都の距離がちょっとね?私に瞬間移動の能力があればよかったのに!」
「だな?じゃあ王都にいる俺がメルの代わりにシオンの店を手伝おう!」
「はあ⁉またあんたは何すっとぼけたことを‥‥もうお忘れかしら?あなたドリセンのリュートなの。すでに知名度はあるし、結構な人気で今では街歩きが難しくなっているでしょ?自分でも変装して街を歩くのが面倒だって散々文句言ってたじゃないの?」
ミクの言う通り、リュートはデビュー後どんどん人気が出てきて次第にトリーに来るのも一苦労になってしまった。以前皆で集まったあの居酒屋もすでにファンの待ち伏せなどで行かれなくなっており、普通に飲みに行くことが困難な状況だ。
「でも俺もうすぐ脱退だしもうドリセンじゃなくなるんだから大丈夫じゃね?」
だがリュートは脱退=以前同様元通りと考えているようだった。
そんなリュートを俺以外の三人が小さな子供に対応するように諭し始め、最終的に唇を尖らせたリュートがそれじゃあもうここでシオンと一緒に住むからいいと言い出した。
「え⁉それは困るよ?ねえ?シオン?」
突然モモからそう振られ、思わず反射的に「うん?」と口から出たが、なぜかモモとリュートの二人からどっちなのだと責められることになってしまった。
理不尽である。
「リュート?もしミクの家に男性の誰かが一緒に住みますって言ったら困るでしょ?」
すると今度はメルが冷静に淡々とした様子でリュートにそう尋ねた。
「‥‥‥困る‥‥‥」
リュートは非常に言いにくそうに、そしてなぜか悔し気にポツリと答えた。
そしてモモとメルは満足そうに微笑み、ミクは恥ずかしそうにしながらもうれしさが隠せないという器用な表情を見せていた。
その後ミクが持ってきたケーキを取り分け皆で食べているとメルがそういえばと話し始めた。
「ミクが修行中のお店の店主の息子さんがもうすぐ外国修行から帰ってくるんでしょ?帰国後はどうするの?」
「うん。師匠の息子さんはあのお店の跡継ぎだからね。師匠からは息子が帰ったら息子からもいろいろ学ぶといいって言われてる。だから私は師匠が二人になるって感じ?」
「へえ~そうなんだ?じゃあミクはまだまだ修行を積んで独り立ちまでには時間がかかるのかな?」
モモのその言葉に頷き、自分はまだまだ学ばなければならないことがたくさんあるからと力強く答えていた。俺はその時リュートの方を見たが、彼はただケーキを頬張っていてその表情はよくわからなかった。
「じゃあメルのこれからの予定はどんな感じ?」
ミクがそうメルに振ると、彼女はフォークを置いて「私の番ね?」と姿勢を正した。
「実は父の知り合いでこの王都で商売をしている人の息子さんがうちの領地の話を聞いて興味を持ったみたいでね、来月訪問してくれることになっているの。だからもしかするとその人と共同経営で何か事業展開されるかもしれないわ」
「そうか、それはよかったな?前から領地で何かやりたいって言ってたし、それがうまくいけば本格的に独立への道が開かれるかもしれない」
メルは俺と同じくこの国のおかしさに気づいていて自身が貴族であることをうまく利用しながらいざという時のために動いている才女である。彼女は常々俺たちに対してもいつでも領地に来てもらって一緒にいろいろなことを話し合いながら何かしてみたいとも言っている。
「そうなの。私はまず、領地に興味をもってくれる人たちを大事にしたい。王都ではなく、田舎で暮らしたいと考える人は今後どんどん増えるのではないかと思っているし、周囲の領地とも協力して暮らしやすさを追求していきたい。本当に皆もいつでも来てほしい。待っているわ」
彼女の瞳は輝きを増し、心から未来への期待を膨らませているようであった。
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