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 翌朝、寮から学園の建物に移動し教室に入ると窓際にある彼女の席の周りに数人が集まって話をしていた。俺がリュートに例の件を聞いてくると言ってその輪へと近づいていくと、その輪にいる全員の視線が一斉に俺の方に向けられた。


 「モモ、話がある。ちょっと来てくれ」


 俺はそれだけ告げるとさっさと廊下の方へと足を向けた。

 すると背後で女の子特有のあの、キャーッ!という黄色い悲鳴のような歓声が木霊し、「ちょっと!これってやっぱり告白だよね?」やら「やだー!漫画みたいなテンプレ呼び出し告白?」などと、俺の告白予想で盛り上がっていた。俺は心の中で()()()()()()()()()()()()()()を告白するので全員正解と回答していた。


 腹を抱えて笑うリュートの横を通り過ぎ、廊下を出てエレベーターホールの端にある人目に付きにくいスペースに入ると俺の後を追ってきた彼女が俺が何かを言うよりも早く「シオン‥‥いい加減皆が勘違いするような言動は慎めないものかしら?」と、心底呆れたように呟いた。


 「勘違い?俺は告白しようと思っているから勘違いじゃない」


 「‥‥だから、そうかもしれないけどね、女の子たちにとっての告白は恋愛に関する告白なわけで、あんな状況で思いつめたような顔をして朝一で呼び出すのは女の子が騒いでしまうシチュエーションを無意識に演出しているってことなの」


 「そうなのか?まっ、いいや。ところで俺とリュートは昨日街のラーメン屋でお前のことを見た。厨房に入っていったまま出てこなくなったけど、あそこでバイトしてんのか?」


 俺がいつものように忠告をいなして本題に入ると彼女は深いため息を吐きながら「そうよね、やっぱり見つかってしまったのよね」と肩を落とした。


 実は俺たちがいることに彼女自身は気が付いていなかったが、あの後厨房内で同じ学園生が来ているからしばらく隠れているように言われ出てこなかったそうだ。


 「俺はバイトをしていても別に問題ないと思うけど、リュートは学園の決まりで禁止されているからまずいってさ。まあそれはともかく、俺らは誰にも言わないし、今後もモモが好きなようにすればいいと思う。ただ事実確認しておいたほうがいいと思って呼んだだけだから気にするな」


 「そう‥‥ありがとう。私も別に必死で隠しているわけではないの。だけどやっぱり学園の決まりではあるからできれば見つかりたくはないのよね‥‥自分からは言わないけれど、もし誰かに聞かれたら正直に答えるつもりよ」


 彼女はそう告げた後、なぜかうれしそうな笑顔になって「でもシオンはさ、どうしてラーメン屋なのか?とか、仮にも伯爵令嬢がなんでバイト?とか、そういうのは絶対に聞かないのよね?通常運転のシオンで安心するというか、やっぱり面白くって笑っちゃう」と、口元に手を当てながらフフッと楽し気に笑った。


 それから二人で教室に戻るとなぜか皆の瞳がキラキラ、というよりも、ギラギラとしていて異様な雰囲気を醸し出していた。相変わらずリュートは笑っていたが、今度は目に涙を滲ませながら「もうダメ‥‥」とかなんとか言葉を絞り出し俺の肩を抱いた。その腕と体は若干震え、耳元ではヒーヒーと変な呼吸音も聞こえていたが、俺たちの間にはよくあることなのでまったく気にせず席につくことにした。


 彼女の方はというと、あっという間に女子生徒たちに囲まれてしまっていたが、「えっ⁉」とか、「はあ⁉」という彼女らの見事なハモリと共に散会した。だがその直後になぜか彼女らが残念なものを見るような目で俺を見ていたことだけは解せなかった。


 そして午前の授業を終えた昼休み、俺たちは珍しく学園のカフェに来ていた。

 いつもは食堂で定食やそばなどを食べ、ベーカリーでおやつパンを買って庭で過ごしているが、今日はリュートと同じく小等学舎から一緒の友人の一人である女の子から頼みがあるということで、その待ち合わせ場所に来ていたのだ。


 「たまにはこんな女の子だらけのカフェでランチもいいかもな?」


 「俺は絶対に食堂で食べたいからその時は別行動だ」


 「‥‥やっぱりか。でもまあ今日はミクのおごりみたいだし、そんな定食が恋しいみたいな顔すんのやめろ‥‥」


 俺は定食が恋しいというより今日の日替わりの豚カツ定食が食べたかった。

 色とりどりで見栄えの良い飯なんて興味はない。

 栄養バランスのとれた飯なんてまったく意味がわからない。

 全体的に茶色の飯がこの世で一番うまいと心の底から思っている。


 そんなことを心の中で呟いていると、「お待たせー!」と言いながら、トレーの上にコーヒーを三人分のせて慎重にこちらへと向かってくる女子生徒が目に入った。


 「よう。同じ学園にいてもクラスが違えば会う機会もそうないから久しぶりって感じだな?」


 「そうね。でも二人とも結構目立つし、毎日食堂にいるのはわかっているからこうやって呼び出すこともできたわけだけど」


 彼女はトレイをそっとテーブルの上に置くと、コーヒーもそれぞれの目の前に置いてくれた。さらに背負っていたリュックを下ろし、その中からベーカリーの袋を取り出した。


 「はいどうぞ。中身はベーカリーのカツサンドよ。大人気ですぐになくなっちゃうから猛ダッシュしてゲットしておきました!」


 「うっわ。これが噂のカツサンドかー!俺は食べてみたかったんだけどさ、シオンがカツの相棒はご飯だって米にこだわるから食ったことなかったんだよなー」


 「じゃあこれからは食べたくなったらミクに頼んで二人で一緒に食べればいい」


 俺がそう言うとリュートはなるほど?と返して彼女の方を見たが、その彼女はというと狼狽したような様子で顔も赤く染まってしまった。


 「ミク、リュートがカツサンドを食べたくなったらよろしく頼む。今日は俺も一緒に有難くいただく」


 俺はそう告げ大胆に包みを剥がしてそのままかぶりついた。

 噂通りとてもボリュームがあっておいしかったが、やはりご飯が恋しくなったことは黙っていた。ほんの少しの間だけ流れていた微妙に気まずい空気もすぐに元通りになり、ミクは徐に本題に入った。


 



 


 


 

 


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