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Go my own way ~無限のパラレル~  作者: あずきなこ


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 「そんな普通になり下がったシオンの顔なんて見たくない!」


 そう言ってミクは縁側に繋がる引違戸を豪快に開け放った。

 するとそこから見える小さな庭を目にし、落ち着きを取り戻せたのか今度は縁側に座ってお茶が飲みたいと言い出した。


 「俺を追い出そうとしてまさかそこを開けるとは思わなかったぞ」


 まあ恐らくは靴を履いて土間に下りるのが面倒だっただけなのだろう。

 それでもやはり人気の縁側はいつでも人の心を落ち着かせてくれる不思議な力があるらしい。俺は一層のこと、ここでパンも食べてお茶もケトルで沸かして運んでこようと思った。季節的にはもう肌寒くなってきたのでどうかと思ったが、ミクもメルもそれがいいと賛同してくれたので結局三人で縁側に移動し和やかに会食が再開された。


 「え~っ⁉シオンがこんな気遣いができるとかどうしちゃったの?」


 だがすぐにそんな遠慮のない失礼な言葉がミクから飛んできた原因は俺が差し出したひざ掛けにあった。それはモモが多少寒くても縁側でお茶を飲みたいと持ってきてくれたもので、少し大きめのサイズでとても暖かい。


 「さっすがモモ!これは間違いないね?もう一層はんてん?も用意してくれたら冬でもいけるのに‥‥」


 ‼ミクは透視能力でも開花したのだろうか?

 実はモモも同じことを考えていたらしく、今度はんてんを持ってくる。


 「なんかそれを聞いて少し安心した‥‥モモはもうとっくにここで暮らすつもりでいるみたいだし、多分余計な心配で終わるわね」


 そのことを告げるとなぜかメルが安堵した。


 「そうね。シオンがこれだからモモが押しかけて居座るくらいじゃないとダメかも?案外モモの方が何食わぬ顔で計画通りに進めている可能性も無きにしも非ずってとこかしら?」


 ついさっきまで俺を追い出す勢いで心配していたのがまるで嘘だったかのように二人ともうんうんと頷きながら深く安堵している。というか、シオンがこれだからって俺がどうだというのだろうか?まったくいつも蚊帳の外に置かれる身にもなってほしい。俺は永遠にわからないままではないか?だがすぐに忘れ、何でもまっいっかで終わらせてしまう俺にはやっぱりそれくらいでちょうど良いのかもしれない。


 翌日は仕事だという二人はランチの後、割とすぐに帰って行ってしまった。

 その日はモモも家には来なかったので夜は珍しく自分で何かを作ろうと思いキッチンに立った。冷蔵庫を開けると少しの野菜とウインナーが見つかったので適当にカットし、モモがやっていた手順を思い出しながら油を敷いたフライパンで一緒に炒めて塩コショウした後、白米の上にのせて食べた。何気に俺は天才だと思ったが、それは誰にも内緒である。


 そしてその夜は昼に食べたひき肉とマッシュポテトとたっぷりのとろけるチーズが詰め込まれたもっちもちパンの夢を見た。夢なのにちゃんと昼と同じ味と食感があった。だからなのか何年かぶりにすごい(よだれ)の気持ち悪さで目が覚めてしまった。


 「これは洗濯しなければ‥‥」


 俺は急いで枕カバーと掛布団カバーを外して洗濯機の中へ入れた。

 久しぶりにこんなに朝早く起きてしまってもう一度布団へ戻ろうかとも考えたが今日は土曜日だったことにふと思い至った。


 そうだ!土曜、日曜の早朝と言えば朝市!

 これまで一度も行ったことがない憧れの朝市!


 ついに朝市を体験できるチャンスが訪れた。

 もうそこからは自分でも信じられないくらいの手際の良さでさっさと着替えて出かける準備を済ませた。頭の中ではすでに俺が考える朝市の魅力的な光景が広がっていた。苦手な朝だというのに足取り軽く、ルンルンとその公園広場へと向かって歩いて行った。


 「うわ~すごっ!‥‥‥」


 肌寒くなってきた季節のこんな朝早くに人で一杯な広場。

 俺もその人たちの中に紛れ、売られているものを端からチェックしていった。


 「あの、これください!」


 俺は早速、私が一番新鮮でおいしいよ!とアピールしてきた大根を手にして購入した。そうして見て回るところで次々にアピールしてきてくれる子たちをゲットし、気づけばかなりの数の買い物をしていた。どうやら自分が一人暮らしだということすらすっかり頭から抜け落ちていたらしい。


 それでも満足感で一杯の俺は帰りも足取り軽くルンルンであった。

 家に着くとすぐに買ってきた子たちをキッチンベンチに並べてみた。

 そしてサラダと鍋をイメージしていたらそれがよいと返事が返ってきたような気がした。だからまずは俺流カットで大根サラダを作り、同じく朝市で買ってきたねぎを刻んで納豆に混ぜてご飯の上にのせて食べた。


 もう言葉なんていらなかった。朝から幸せ過ぎた。

 だが俺は朝が大の苦手である。

 よってこのような朝をまた体験できる可能性は残念ながら低いだろう。


 それでも俺は今日の幸運に感謝しながら夜にここを訪れる予定の親友のために最近ネットで学んだおいしい時短レシピに挑戦しようと考えていた。


 昼過ぎになって近所のおばあちゃんが庭で採れた柿を持ってきてくれたのでお礼に今朝買ってきた野菜たちをおすそ分けするととても喜ばれた。やっぱりたくさん買って正解だったと自画自賛していると電話がなった。


 電話をかけてきたのはこの後会う予定のリュートだった。


 「シオン!予定より早くそっちに行けそうなんだ。あと二時間くらいで終わると思うから三時間以内に行けると思う。だいぶ早くなったけどそれで大丈夫か?」


 「こっちはいつでもいいぞ。いつもは予定よりも遅くなるっていう連絡なのに、真逆の早くなるっていう連絡は今日が初めてだな」


 リュートは仕事柄、ほとんど会うのは夜か深夜になってしまうことが多い。

 だから夕方の時間に会えるということは夕食もここで食べるということになるのでやはり俺の手料理作戦に間違いはなく、大成功の予感がした。


 その後彼は自身が告げた通り、夕方五時にこの家に到着した。


 「リュート、腹は減っているか?」


 俺がそう尋ねると彼は「実は腹ペコなんだ」となぜか申し訳なさそうに呟いた。


 「よし!じゃあ俺の手料理を披露しよう!」


 俺が予想していたリアクションとはだいぶ違い、彼は完全に意味不明だと言わんばかりの表情をしていた。


 「あのさ、俺は自分がシオンと食べるものを買ってくるべきだったと思って反省?てか後悔してたんだが、なんでそこでシオンの手料理披露になるんだ?ラーメン屋だってすぐ近くにあるわけだし、今は大体何でもデリバリーのサービスが充実しているだろう?」


 まあ確かに今まではそうだったが今日は違う。


 俺はにんまりとしてまず彼をキッチンへと連れて行き、ジャジャーン!と朝市ピッチピチ野菜たちのお披露目をした。



 

ここまでお読みいただきありがとうございました。

続きは20日投稿予定です。

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